東日本大震災は、地震学に対する社会的期待と現状とのギャップの大きさを再認識させるものであった。地震学に対するもっとも大きな社会的期待は地震予知であったが、阪神・淡路大震災によって、地震予知は無理なことが社会的共通認識となり、その代わりに登場したのが、現在行われている確率論的評価である。しかし、今回のような巨大連動型地震にその考え方を当てはめようとすると、2つの困難に直面することになる。ひとつは、連動性の評価自体が、予知と同様に非常に難しそうだということである。もうひとつは、歴史地震調査等を相当しっかり行い、ある程度の確率評価ができたとしても、その発生確率の大小にかかわらず、国の盛衰を左右する恐れがある巨大連動型地震に対しては、国として本格的に取り組まざるを得ないからである。そうであれば確率を提示すること自体にあまり意味がなく、むしろ、連動する範囲と規模の特定の方が重要と考えられる。
東日本大震災で提起されたもうひとつの課題は、津波予測精度の向上である。これについては、想定震源域内にGPS波浪計などを適切に設置しておくことにより、ある程度実現可能と考えられる。それでも一定の幅を持った予測にならざるを得ないので、その限界を前提としつつ、想定浸水域を割り出し、そこにいる住民等に迅速に伝達するシステムの構築に結びつける必要がある。さらに、住民等の迅速な避難行動に結びつけるためには、事前の防災教育や啓発が不可欠である。
これらの課題は、いずれも発展途上の(わかっていないことが多い)地震学を現実社会で役立てようとする時に解決しなければならない問題であり、地震学と工学、社会科学との連携=橋渡しが重要になる。地震学に対する過剰な期待を戒めつつ、使える知識を最大限に活用するためには、この橋渡しを専門に研究し、減災に結びつける応用地震学の構築が望まれる。
(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)4月号)