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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 産総研による地震研究2

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)



 日本列島の陸上および周辺海域には、数百年から数万年という長い時間スケールの中で繰り返し発生する巨大地震・巨大津波がいくつもあります。将来の地震を予測するためには、このような長い時間スケールの中で、どのような規模の地震や津波がどこで発生してきたかを明らかにする必要があります。産業技術総合研究所活断層・地震研究センターは、地質学をベースに、長い時間スケールの自然現象を研究することによって過去の地震活動を解明する研究(古地震研究)に取り組んでいます。この研究では、自然が残した過去の地震の記録である活断層や津波堆積物などの調査・研究を行っていますが、自然の記録には不完全な部分も多く、これらの調査だけからは必ずしも正確な過去の地震像を再現することはできません。その欠点を補うために、地球物理学的な知見も組み合わせ、互いに補い合うことによって信頼性の高い地震像を明らかにする研究を進めています。地質学的研究と地球物理学的研究を融合させることによって、より広い視点から地震現象の解明を目指すことが、産業技術総合研究所活断層・地震研究センターの特徴です。

 巨大津波は沿岸平野の奥深くまで浸入しますが、海岸付近に十分な土砂が存在すると、その土砂が平野の奥深くまで運搬されます。それが長期間保存されたものが津波堆積物で、過去の巨大津波が残した現代への警告です。
 日本の沿岸域では、北海道東部の太平洋沿岸と東北地方の宮城県沿岸で、津波堆積物の広域的な調査が進んでいました。その結果に基づいて、北海道東部では千島海溝南西部で、宮城県沖では日本海溝に沿って、今までに観測されたことがないマグニチュード8.4以上の地震が発生し、沿岸平野で数km 内陸まで浸水する巨大津波が発生していたことが明らかになっていました。残念ながら、この研究成果が専門家の間でも浸透していなかったため、防災上の想定に活かすことができていませんでした。しかし、東北地方太平洋沖地震によって、津波堆積物が過去の巨大津波の記録として重要な情報源であることが広く認識されました。
 西南日本の太平洋沖では100〜200年間隔で東海・東南海・南海地震が発生しています。最近の地震(1946年南海地震)からすでに約65年が経過していることから、今後30年間程度の期間に発生する可能性が高いと推定されています(発生確率60%以上)。これらの地震については歴史記録が豊富に残されており、大地震だけでなく大きな津波が発生していたことが知られています。しかしながら信頼できる歴史記録が得られる期間は最近約400年程度に限られます。それより長い期間の中でより大きな津波が発生していなかったかを確認する方法は津波堆積物の研究に限られます。
 産総研では、東海地方から紀伊半島までの沿岸で、過去の津波堆積物や地殻変動に関する調査を進めています(図1、2)。例えば,紀伊半島南端の串本町に観光名所として知られている橋はし杭ぐい岩いわがありますが、その周辺に散らばっている巨礫が津波で移動した津波石である可能性が明らかになってきました(図2)。今のところ、過去の東海・東南海・南海地震によって最大でどの程度の規模の津波が発生していたかについては十分に解析できていませんが、今後広い視点から研究を進めていく予定です。また、西南日本に分布する活断層でも地震が発生する可能性が指摘されていることから、過去の活動履歴の解明などを目的とした調査を着実に実施しています。




 地質学的な手法による津波の研究では,発生間隔や津波規模を推定することは可能ですが、発生時期を精度よく推定することはできません。もし、地震発生の数日前であることを予測できれば、犠牲者の数は大きく減らすことができると期待されています。東北地方太平洋沖地震では地震予知につながる前兆現象は見つからなかったことから、直前予知は困難であるという見方が広がりまた。
 しかしながら、南海トラフでは、日本海溝では全く知られていない現象が知られています。それは、地震の震源域になるプレート境界の深部延長上で時々発生するゆっくりとしたすべりです。地下深部では、プレート同士が少しずつすべって、小規模な地震(深部微動)や地表付近でのわずかな地殻変動を引き起こします。それらの現象を詳しく解析することによって、地下深部のすべりを正確にモニタリングし、地震発生領域でのひずみの蓄積状況を明らかにできる可能性があります。また、過去の南海地震前には、紀伊半島〜四国の太平洋岸で地下水位の低下があったことが知られているので、地震発生の前兆現象を検出できる可能性もあります。
 産業技術総合研究所では東海地方、紀伊半島、四国などの東海・東南海・南海地震の震源域周辺に地下水位計、ひずみ計、地震計を設置し、ゆっくりすべりの検出に重点を置いた観測を続けています(図3)。他機関も含めた今までの観測によって、数か月おきに四国〜紀伊半島〜東海地方の地下でゆっくりすべりが発生していることが明らかになっています。東海・東南海・南海地震の前兆現象の検出には、このような調査・観測データを蓄積し、南海トラフでの地下深部の沈み込み現象を解明することがまず必要だと考えられます。

    

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)

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