わが国は世界有数の変動帯に位置し、激しい地殻変動による脆弱で複雑な地質構造で特徴づけられています。産業技術総合研究所では、安全・安心で持続可能な社会の実現のため、この複雑なわが国の地質の調査と研究に取り組み、その成果を国土の知的基盤である地質情報、国の政策に貢献する基盤技術として、社会に発信しています。ここでは2回に分けて、産総研の地質分野の組織と地質情報の整備と発信および活断層、地震、津波調査・研究についてご紹介します。
独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は、2001年4月に旧通商産業省工業技術院の15の研究所と計量教習所が統合・再編され、設立されました。産総研の研究対象は、環境・エネルギー分野、ライフサイエンス分野、情報通信・エレクトロニクス分野、ナノテクノロジー・材料・製造分野、標準・計測分野、地質分野の6分野にわたり、産総研は研究職員2,337名(2011.4.1現在)を擁する総合研究所となっています。その中で、地質分野は、関連する5つのユニット、235名の研究職員で構成され、対外的には地質調査総合センターGeological Survey of Japan, GSJ)という名称のもと、1882年(明治15年)に設立された農商務省地質調査所以来、現在に至るまで、一貫して国土の基盤情報である地質情報の整備と発信および関連する技術開発を行っています。
産総研地質調査総合センターは、3つの研究ユニットと、その成果発信や標本の管理等に携わる2つのユニットから構成されます(図1)。研究ユニットとしては、地質情報整備のために陸域、海域およびそれらに挟まれた沿岸域の地質調査を実施し、また火山災害軽減のために火山の地質調査を実施し、成果に基づき基盤マップを作成する地質情報研究部門、その基盤情報を基に、地下水や地熱・地中熱、また海外でのレアアース等の資源の確保や、重金属等による土壌汚染、二酸化炭素の地中貯留や放射性廃棄物の地層処分における沿岸域の地下構造調査技術の開発等に携わる地圏資源環境研究部門、活断層の調査や地殻モデルに基づく地震活動の予測、津波堆積物調査と津波シミュレーションに基づく過去の巨大地震・津波の推定や東海・東南海・南海地震に備えた地下水等総合観測施設による地震発生の短期予測等の地震防災に携わる活断層・地震研究センターがあります。さらに、地質情報研究部門の中には、放射性廃棄物の地層処分事業に関して国が行う安全規制の技術面を支援する組織として深部地質環境研究コアが組織されています。
また、これらの研究ユニットに加えて、研究ユニットから生産される各種地質情報を、編集・発行・頒布し、さらにはデータベースとして整備するための標準化および地質情報の流通促進を図る地質調査情報センター、地質情報の信頼性確保のための標本の管理、地質に関する相談窓口、研究成果普及のための展示やイベントの開催等に携わる地質標本館の2つのユニットが産総研地質調査総合センターに含まれます。
産総研は現在、2010年4月からスタートした第3期中期目標期間の2年目にあり、地質の調査を産業・社会の安全・安心を支える知的基盤の整備事業としてされるよう、わかりやすくて使いやすく、情報源の信頼性を確保した、迅速な情報発信を目指していく予定です。
位置付け、第3期中期計画に沿って、その調査・研究を推進しています。
具体的には、産総研は地質の調査のナショナルセンターとして、地質情報の整備と利用拡大、地圏の資源と環境の評価技術研究、地質災害の将来予測と評価技術研究を推進しています(図2)。そして、得られた地質情報を体系的に整備し、かつ地質情報活用のための利便性向上を図り、国の資源エネルギーや防災政策、地方自治体等の防災計画に貢献しています。また、地質の調査に関する国際活動において、わが国を代表し、各国の地質調査所や地球科学研究機関等との連携を図り、国際協力に貢献しています。
産総研は、地質の調査・研究で得られた成果の一部を、さまざまな形の地質図や地球科学図等のマップ、あるいはデータベースとして整備、発行、配信しています( 図3, http://www.gsj.jp/Map/index.html)。例えば、陸域の地質図に関しては、20万分の1の地質図幅が2010年に全国をカバーして完了し、さらに図幅間の繋ぎ目をなくし、統一した凡例で示したシームレス地質図をデータベースとして一般に配信しています(http://riodb02.ibase.aist.go.jp/db084/)。また、5万分の1の地質図幅は全国1,274区画のうち、943区画を整備済みで、今後、重要インフラの立地等、社会的重要性が高い地域を対象に重点的に整備していきます。
海域の地質図に関しては、日本主要4島周辺海域の20万分の1の海洋地質図の整備を完了し、現在、沖縄周辺海域の地質調査を実施しています。加えて近年、新潟県中越沖地震等、沿岸海域で地震が発生していることから、沿岸海域を挟む総合的な地質情報整備が要望され、産総研では2008年より「沿岸海域の地質・活断層調査」を実施し、能登半島北部および新潟県沿岸域の海陸シームレス地質情報を整備しています。
さらに、日本の活火山を対象に、火山の噴火史に注目した火山地質図を作成し、現在16火山について整備を完了しています。
これら地質情報は、インフラ整備、産業立地の基礎情報として、また地震動予測、地滑りにおける深層崩壊推定頻度予測、あるいは火山防災マップ等の地質災害への対策の基礎情報として、さらにはメタンハイドレート等の海底資源評価の基礎情報として利用されています。今後は、これらの地質情報がより一般に活用されるよう、わかりやすくて使いやすく、情報源の信頼性を確保した、迅速な情報発信を目指していく予定です。
(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)