わが国は古くから数多くの自然災害を経験しており、自然災害から国民の生命・財産を守ることは重要な課題となっています。このため、独立行政法人防災科学技術研究所(防災科研)においては、地震災害、火山災害、土砂災害、風水害、雪害などの自然災害を軽減することを目的として、防災科学技術の向上に資する基礎的研究や研究開発などを総合的に推進しています。
1959年9月の伊勢湾台風(死者5,000人以上)を契機として、国の防災対策が再検討され、1962年7月の災害対策基本法施行に基づき、総理府(現 内閣府)に中央防災会議が設置されました。さらに、参議院科学技術振興対策特別委員会における「防災科学振興に関する決議」(1962年5月) および日本学術会議からの「防災に関する総合調整機関の常設についての勧告」(1959年11月)などにおいて、防災科学技術をより一層総合的に推進するための新しい機関を設置すべきであるという機運も高まりました。
このような社会の要請にこたえるために、1963年4月1 日に防災科学技術に関する総合的中枢的機関として科学技術庁(現 文部科学省)の付属機関「国立防災科学技術センター」が設立されました。その頃、わが国は38豪雪(1963年)や新潟地震(1964年)など大規模な自然災害を経験し、これらの経験がその後の防災科研の研究施設や組織の拡充につながることとなりました。
その後、1978年に筑波研究学園都市への移転が完了し、1990年に「防災科学技術研究所」に名称が変更されました。1995年1 月に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が防災科研に与えた影響は極めて大きく、今回ご紹介する「基盤的地震観測網」や、次号でご紹介する「実大三次元震動破壊実験施設(E−ディフェンス)」が建設される契機となりました。
2001年4 月に、国の研究機関から文部科学省所管の独立行政法人となり、5年間の第1期中期目標期間が始まりました。その後、11年4 月に第3 期中期目標期間を迎えると同時に、研究組織を見直して、観測・予測研究領域、減災実験研究領域、社会防災システム研究領域の3 領域に再編しました。
防災科研では、現在、つくばを本所として、長岡、新庄、三木に研究拠点を保有するとともに地震観測網を全国に展開しています。ここでは、地震災害関係の主要な研究施設や取り組みについてご紹介します。
〈基盤的地震観測網〉
防災科研では、阪神・淡路大震災をきっかけに、全国のどこで地震が発生しても正確に地震の揺れが計測できるように、日本全域に高精度な地震計を備えた観測施設を整備してきました。1種類の地震計では、地震の多様な揺れをすべて把握できないので、以下に示す3種類の観測網により、微動から強震動に至るさまざまな「揺れ」を正確に観測しています。観測されたデータや処理結果は、地震現象を解明するための研究に用いられるとともに、ホームページを通じて広く公開されています。わが国の地震調査研究に不可欠なインフラとして、これらは「基盤的地震観測網」と呼ばれています(図1)。
①高感度地震観測網 (Hi-net)
全国約800か所に展開された、人体に感じない微弱な揺れも検知できる高感度地震計で構成される観測網です。観測データは24時間連続的につくば本所にあるデータセンターに送られ、自動震源決定処理により地震活動モニタリングが行われています。また、観測データは、リアルタイムで気象庁と東京大学地震研究所にも送られ、常時監視や「緊急地震速報」、そして大学での学術研究にも役立てられています。
②強震観測網 (K-NET, KiK-net)
被害をもたらす強い揺れを振り切れることなく記録する強震計で構成される強震観測網には、全国約1,000点以上の地表の観測点からなるK-NET と、Hinet観測点の地中と地表に強震計が設置されたKiKnetがあります。過去15年にわたって蓄積されてきた強震記録は、耐震設計や地震ハザード・リスクの評価に役立てられてきました。さらに、今まさに発生している大地震の揺れを確実に捉え、即時に防災情報として発信することにより減災に資する「リアルタイム強震観測」の展開を進めています(図2)。
③広帯域地震観測網(F-net)
全国約70か所に展開された、ゆっくりとした地震動なども正確に捉える地震計で構成される観測網です。
遠い地球の裏側の震源から伝わってくるゆっくりした揺れも検知でき、地震断層が破壊する過程や地球内部の構造に関する研究などに用いられています。また、大きな地震波は伴わずに、津波だけを引き起こすようなゆっくりとした地震でも正確に検知する能力があります。
東日本大震災では、津波によりいくつかの地震観測点が被災しました。それら観測施設の復旧と災害時における観測継続能力の強化を図ることが、今後の課題であると考えています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)9月号)