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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. NO11.プレート境界のさまざまな地震

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)3月号)



 火山の噴火で、周辺の地震計はずっと小刻みな揺れを記録している。火山性微動とはこのことか。僕の知っている地震波形とは全く違って、P波の始まりもS波の始まりも見あたらない。ただただ小刻みに、途切れることなく揺れを記録し続けている。

火山性微動ですね。初めて見ました。
ええ。これと似たような小刻みな揺れが、10年前に、火山の存在していない地域で観測されました。震源は火山のあるような浅いところではなくて、西南日本のプレート境界でした。
僕の出身地だ。覚えてないなあ。震度いくつくらいだったんですか。
人にはもちろん感じられません。高感度地震計が、かろうじてとらえられる程度です。さてこの地震波形を見て、どの部分がそれに相当するか、わかるかしら。これは西南日本の北から南まで、地震観測点の記録波形を縦にずらっと並べたものです。一本がひとつの観測点での一時間分の地震記録になります。2000年5月5日の午後10時から11時まで、左から右へと地震波形が記録されているようすを示しています。
すごい数だな。一本一本の線に見えないくらいだ。このどこかに、火山性じゃない微動が隠れているんですね。どこだろう? 検討もつかないや。
この部分よ。
ええっ! 完全に見落としていました。
大学院に入って、これからたくさんの波形を見ていくと、この記録から「何かおかしいぞ」と気づけるようになりますよ。この微動は、防災科学技術研究所の高感度地震計観測網Hi-netで観測され、「深部低周波微動」という名前が付けられました。もちろん世界で最初の発見よ。
1月に見学したところだ!(『謎解き地震学No.09』)へえ、世界初か、すごいや。


プレート境界の地震については、『謎解き地震学No.7』で勉強したわね。
はい。プレート境界には、スルスルとすべっているところと、ベッタリとくっついているところがあって、後者をアスペリティといいます。その固着がついに剥がれる運動が、プレート境界地震です。
そうでしたね。かつては、プレート境界はどこもベッタリとくっついていると思われていました。ところが、固着しているところは一部であり、固着が剥がれるときこそが地震の発生であること、そして、同じ場所が再び固着して、地震が繰り返し起きること、がわかってきました。
プレートのくっつき方には、スルスルとベッタリの2種類があったとは驚きだったなあ。
実は2種類じゃないんです。
え? あ、そっか。深部低周波微動もいれて3種類だ。
いいえ、もっとあることがわかってきました。スルスルとすべるところ、ベッタリとくっつくところ、それから、ゆっくりとすべるところ。ゆっくりにもいろいろな速さがあります。プレートの境界が地震の際にゆっくりとすべる、スロー地震です。
ゆっくりとすべる?
そう。身近なところでは、房総沖で6年間隔くらいに起きているスロー地震。マグニチュード6を超えるような地震なのですが、ふつうの地震では数十秒くらいで進行する断層の破壊が、10日ほどもかけてゆっくりと起きています。
えらいゆっくりじゃないですか。
そう。だからスロー地震と呼ばれています。もちろん人は感じません。こういった地震は、地震計ではなくGPSや傾斜計などの地殻変動の観測機器によって記録され、発見されるようになりました。


他にはどんな種類のスロー地震があるんですか?
四国西部では深部低周波微動の他に、このスロー地震が発生していることが、傾斜計の記録からわかってきました。数日かかってマグニチュード6弱程度のエネルギーを開放するこの地震は、「短期的スロースリップイベント」と呼ばれています。そのさらに西端の豊後水道では、このような現象が数か月続く「長期的スロースリップイベント」が観測されています。
いろいろあるんだなあ。なんだか、他にもまだあるんじゃないか、っていう気がしてきたぞ。
あるのよ。さらに注意深く解析を進めたところ、「深部超低周波地震」という地震が起きていることがわかりました。
うわわ。ちょっとここで一回まとめておきます。それぞれのスロー地震の活動場所は、ん?場所を決めるには、それぞれのスロー地震の震源を決めなければいけないのか。ふつうの地震のように震源決定はできるのでしょうか。
さすがは、一年間勉強してきただけあるわ。いいところに気づきました。通常の地震と同じようには決められなかったので、新たな手法が開発されました。大学院に入ったらぜひ学んでちょうだい。答えを言うと、深部低周波微動と短期的スロースリップイベント、そして深部超低周波地震とは同じ場所で起きています。それよりもやや浅いところで長期的スロースリップイベントが起きています。西南日本と言えば東海・東南海・南海の巨大地震の発生域ですね。それらとの位置関係をまとめてみましょう。



高感度の地震観測網による研究成果を、あらたにひとつ知りました。世界中が日本の地震データに関心を寄せているのではないでしょうか。
そのとおりだよ。実際にカナダのチームが西海岸で同様の現象を発見した。日本の成果が海外に輸出された瞬間だよ。ところで、ノートに補足をしてあげよう。ひとつは、活動のタイミングだ。同じ場所で起きているのだから、互いに関連しているような気はしないかい?
そう言われれば・・・どれかが活動すると他が活発になる、などもわかっているのですか?
2003年8〜9月には豊後水道から北東方向に移動する活発な深部低周波微動と、それに同期する短期的スロースリップイベントが発生した。この頃に同時に発生していたのが豊後水道における長期的スロースリップイベントだ。
ノートを振り返ると、まず、深部低周波微動と短期的スロースリップイベントは同じ場所で起きている。この2つのスロー地震より浅い側で起きているのが長期的スロースリップイベント。これらの活動が同じ時期に活発化した、ということですね?
そう。ではいよいよ質問だ。これらのスロー地震がプレート境界で同時に発生するメカニズムは何だろう? 火山性微動には水の存在が関与していることをヒントに考えてごらん。



みず・・・海洋プレートの沈み込みだから、確かに水が関係ありそうだ。プレートが沈み込むにつれて周囲の圧力は増えていく。この圧力に耐えられなくなった水分は、プレートの外、つまりプレート境界へと出ていく。これが関係していますか?
うんうん、いいぞ。これを脱水反応という。プレート境界の脱水反応が起きる領域では、摩擦が小さくなる。すると陸側のプレートはゆっくりと海側へ戻る。これが短期的スロースリップイベントと考えられている。同じ領域で、このゆっくりすべりに伴って、小さな地震である深部低周波微動やもう少し大きい地震である深部超低周波地震が起きていると推測されているんだ。
この摩擦が小さい領域と、ガッチリ固着している領域との間で長期的スロースリップイベントが起きるんですね。
プレートの境界面には多様性があるんだなあ。その中に、僕たちに発見されるのを待っている現象が、まだまだあるような気がしてきました。
来月から大学院生か。小さな大発見を楽しみにしているよ。

 地震観測網が整備されて、プレート境界で発生するさまざまな地震が発見されるようになった。それぞれのスロー地震たちが互いに関連しながら発生していることもわかってきた。これらのスロー地震が発生している領域の浅い側には、東海・東南海・南海の巨大地震発生領域がある。来るべき巨大地震とこれらスロー地震との関連は、必ずや明らかにされるだろう。

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)3月号)

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