パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. NO10.震源メカニズム

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)2月号)



 地震災害が起きるとレイ先生の電話は鳴りっぱなしだ。「ここで地震が起きた背景はなんですか?」「どんなメカニズムの地震だったのですか?」「今回の地震の特徴は?」こういった質問にひとつひとつ答えている。


震源のメカニズムを見ると逆断層ですね。周辺のテクトニクスをよく反映していると思います。この地域はプレートに押される力の場にあるので、逆断層になることが予測されます。そして、地震波の解析から得られる震源メカニズムを見てもそのとおりになっています。太平洋プレートの沈み込みに関連した地震と言えるでしょう。

 地震発生直後の報道対応をしている。地震の正体は断層での急激なすべり運動(『謎解き地震学 No.2』)で、押しあう力が働くときに起きるのは逆断層だ(『謎解き地震学 No.7』)。
しかしレイ先生が見ている図はいったい何だろう? 円が白と黒に塗り分けられていて、まるでビーチボールのようだ。

そろそろ大地くんも震源メカニズムの見方を勉強しましょうか。
そのビーチボールを見て、地震のメカニズムがわかるんですか?
そう、断層にはどのような力がかかっていたのかがわかります。このビーチボールは、3次元的に分布する力の場を2次元平面で表すために考え出された方法です。
コツをつかめばすぐにわかるようになりますよ。

 レイ先生は断層の片側と、それに食い込んだ半球を描いた(図1)。


地震は確かに断層で起きているけれど、その断層も大きな地球全体で考えればほんの小さな領域です。だから断層にかかる力の場について、これからこの小さな球で考えます。逆断層はどういう力の場でしたか?
押しあうような力です。この図では右側の部分が隆起します(図2-a)。
そうですね。半球のうち、周囲から押されている部分を白で、逆に周囲から引かれている部分を黒や赤で描くのが慣例です。
図2-bは正断層ですね。両側から引かれる力が働くような場で起きるタイプの地震です。図2-cは横ずれ断層。押す力と引く力の場が同時にあるのか。
これらを水平面に投影したのが、半球の上に描いてあるビーチボールです。震源メカニズム解、あるいは発震機構解とよばれています。
投影された円の両端が白になっていれば、両側から押されるような力の場、つまり逆断層ということか。
そのとおり。
でも待てよ? 地震が起きて僕たちが情報を得るのは、震源が明瞭に地表に現れていない限り、観測された地震波からですよね。地震波のデータだけからこのビーチボールが得られるのですか?
いいところに気づきましたね。P波の最初の部分を使うことで、震源メカニズムのビーチボールを得ることができるのです。P波は押し引きの波でしたね。
はい。地震波の進行方向と平行に振動するような波、つまり押したり引いたりしながら振動する波です。
各地の観測点には、P波が押し波から来る場合と、引き波から来る場合とがあります。  
言われてみればそうだなあ。押される場合しか考えたことがありませんでしたが、確かに押しと引きがあるはずです。
では、ある観測点にP波の押しが到達したとします。これを地中へどんどん戻していって、震源までたどると、それは震源の半球が引かれるような力によって発生したことがわかります(図3)。
なるほど。 P波の引きが到達したところについても同様に震源へ戻していくと、震源の半球が周囲から押されるような場になりますね。
そうですね。こうやってすべての観測点のP波の押し引きを半球上に戻していきます。すると、半球にかかる力の場がわかるのです。

大地くんも本格的な地震学に踏み込んできたね。ずいぶんマスターしたじゃないか。
ありがとうございます。先輩たちが震源メカニズムを見て議論しているのが気になっていたので、これで仲間入りできます。
では難しい質問をしよう。今回出てきた半球はどれも、面を2つ持っている。図の白と黒とが交差する面が2つあるだろう。
図2でいうと、aとbではそれぞれ右斜め下と左斜め下に半球を切るような面、cでは半球を縦に十字に切る2つの面ですね。
そうだ。観測された地震波から震源メカニズムの半球を作ったときに、どっちの面が断層面になっているか、どう やってわかるのだろう?
うーん。確かに、P波の押し引きから作られる震源メカニズムには、どちらが断層面になるかの情報はないよなあ。
さらに難しい質問だ。ひとつが現実的な断層面に対応しているとすれば、もうひとつの仮想的な面は一体何を意味しているのだろう?

全くわかりません。降参です。
まず、大地くんが言ったとおり、P波の押し引きだけからはどちらが断層面なのかは断定できないんだ。それを決めるには余震分布を調べたり、地表での隆起を見たりする必要がある。
そうか。余震は本震と同じ断層面内で起きることがほとんどですね。余震の震源位置を正確に調べていくことで、断層面が見えてくるのか。
そのとおりだ。さて、現実の断層に対応していない方の「仮想面」が何を意味しているか。地震が起きて地面の中で急激に断層が動いたら、地球に対して、ぐるっと回転させてしまうような力が働く。
ぐるっと回転? さっぱりわかりません。
ははは。そうだろうな。よし、単純にいこう。図2-aでは右側が隆起しているが、地球はこのせいで反時計回りの回転の力を受ける。
断層面の周辺が、断層の動きによって、半球の上側ではやや左方向の、下側ではやや右方向の力を受けて、結果的に反時計回りに回転しそうになる、という理解でいいですか?
そうだ。ところが現実の地球は地震が起きても回転したりはしない。回転も運動の一種だが、運動すべきものが運動していない時には、見えない力が働いているから、と考えるのが物理学の世界の鉄則だ。
わかりました! その見えない力によって生じているはずの仮想的な断層面が、もうひとつの面というわけですね。
そうそう。雰囲気はわかってもらえたかな。仮想的な面もあることは、1930年代から日本人研究者によって、世界に先駆けて提唱されてきた。大地くんもぜひマスターしてくれたまえ。

 震源のメカニズムは、プレートがどういう力の場をもたらしたのか、つまりテクトニクスを反映している。そしてそのメカニズムを知るには、地震波の観測が必要だ。P波の最初の押し引きから震源のメカニズムをコンピュータで自動的にいち早く求めるシステムも、さまざまな地震学者によって開発されている。これまで勉強してきたテクトニクスと地震の発生がだいぶつながってきたぞ。それから、どうして物理や数学を勉強する必要があったのかもわかった。教養課程以来の数学を、もう一度やってみようかな、なんて思っている。

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)2月号)

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する