地震とは地下にある断層面にそって、岩盤が急激にずれ動くことだ。「断層面」って言うくらいだから、点じゃなくて面である。じゃあなんで震源を地図上に描くときに、●や★を使うんだろう? はじめから面で描かないのはなぜだろう?
地震とは、地下にある断面層で岩盤が急激にずれ動くことだと習いました(謎解き地震学No.2『地震と地震道、マグニチュードと震度』)。でもどうして震源地図を描くときなんかは、震源を点で表現するのが慣例なのですか? どうせなら面にすればいいのに。
面白いところをついてくるわね。その理由を説明する前に、断層のタイプについて勉強しておきましょう。
レイ先生はホワイトボードにウェハースのような縞々の直方体を描いた(図1)。
ウェハース? こんにゃくの方が近いわね。斜めに切り込みを入れたこんにゃくを両方から押したらどうなる?
この図で言えば右側が持ち上がると思います。
じゃあ力を緩めて、今度は両端から引っ張るようにしたら?
今度は右側が落ちます。
そう。これは断層に働く力と断層運動との関係を表しています。こんにゃくが岩盤で、切り込みは断層面、両端から岩盤に力が加わっています。押し合う力で起きるタイプの地震を逆断層型、引き合う力の場合は正断層型といいます。
また、自分がいる岩盤側から見て、相手の岩盤が右にずれる場合を右横ず断層、左にずれる場合を左横ずれ断層といいます。
また、自分がいる岩盤側から見て、相手の岩盤が右にずれる場合を右横ず断層、左にずれる場合を左横ずれ断層といいます。
新たな疑問が出てきたなあ。広がりを持った面である断層がずれ動くときは、「せーの!」でいっせいに動くのでしょうか。地震を起こした断層面で、ぱっくりきれいに長方形に沈んだり盛り上がったりするなんて、現実的とは思えません。断層の端っこでは滑らかに地面とつながっているはずです。
今日はするどい質問が次々と出てくるわね。おっしゃるとおり、せーの!でいっせいに動くわけではありません。ある点から破壊が始まって、それが伝播し、やがて止まります。
断層面のある点で破壊が始まり、伝播し、止まる。地震発生の瞬間を引き延ばして観察すると、このように見えるのですね。
そう。それから、断層面のどこもかしこも均質にずれるわけでもないのよ。図1では断層面のどの点も、同じ量だけ、同じ方向に動いているでしょう? 実際にはそういうことは起こりません。2008年5月に中国で起きた四川地震を例にとりましょう。マグニチュード8.0というのは、内陸部で起きる地震では最大規模です。断層の端から始まった破壊は、北東方向へと伝播し、最終的には250kmにわたる断層のほぼ全域を破壊しました。
250km! 東京から名古屋までの距離だ。
「東京から名古屋までの全域が震源域の直上になった」ということなの。
そんなに大きな地震だったのか。マグニチュード8.0のエネルギーたるや。
それだけの広さの断層面が一体どのくらいずれ動いたのかというと、平均的には数メートルと言われています。でも全体が均質に動いたのではなく、伝播していく中で、ある部分は1m、ある部分は9mというように、 特にたくさんずれるところとそうではないところがあるのです。
9mも動いたところがあるのですか?
最大すべり量はね。断層面が動いた長さを「すべり量」と言いますが。あまりに長大な断層だったので、2 つのセグメントに分かれて活動したという結果も出ています。地下の断層面のどこが、どのくらいずれ動いたかは、観測された地震波を解析することで調べられるのよ。こうして得られる図を「すべり分布」と言います(図2)。
まるで等高線みたいだ。目玉になっているところが大きなすべりを起こしたところか。
そう。この目玉を「アスペリティ」と呼んでいます。
震源を●や★で表現するのは、コンピュータによる自動処理でいち早くわかる情報が点だからなのですね。専門家が地震波形をきちんと解析して初めて、どちら方向に延びる断層面の、どの部分がどのくらいずれ動いた地震だったのかがわかる。
うんうん。ところで断層面の図を描いていると、陸で起きる「内陸地殻内地震」ばかりがイメージされないかい。海のプレートが陸のプレートの下に沈みこんでいくときに起きる「プレート境界地震」の断層面はどこになるだろう?
海洋プレートと大陸プレートの境界面そのものです。大きな圧力でがっちりとくっついている境界面には、海洋プレート自身の沈み込みによって、押し合う力が働いています。だから逆断層型の地震が多く起こると勉強しました。
そう、例外もあるが圧倒的に逆断層型が多い。がっちりくっつくことを「固着」という。ついでにもうひとつ質問をしよう。海洋プレートはつねに動いている。にもかかわらず、がっちりくっついているところ「固着域」がいきなり離れる動き、つまり地震が起きる。「つねに動いているのにがっちりくっついている」ということを、アスペリティを使って説明してごらん?
うーん。確かに、プレート境界面がべったり固着していて、あるときいっせいにはがれたら超巨大な地震になってしまう。そうか! つねにスルスルと動いているところと、固着しているところがあって、周りがスルスル動いていくものだから、固着しているところにはひずみがたまっていく。そこがある時急にはがれて地震を起こす。この固着域がプレート境界地震のアスペリティでしょうか。
正解だ。地震を過去にさかのぼって調べることで、同じアスペリティが繰り返し地震を起こしていることや、それぞれのアスペリティの大きさもだいたい決まっていることがわかってきた。プレート境界地震については、地震を起こす場所についても、面積についても、だいぶ理解が進んできたのだよ。
断層面での岩盤の破壊によって地震波が発生する。その地震波を調べることで、どういう破壊だったのか、断層面でのすべり運動を細かく分析して再現することができる。それだけじゃない、プレート境界地震については、地震を起こす領域「アスペリティ」の場所や大きさ、同じアスペリティで地震が繰り返されていることがわかってきたんだ。僕はいよいよ「波形解析」に挑戦したくなってきた。
(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)11月号)