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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. NO6.地球内部のダイナミクス

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)10月号)



 レイ先生が珍しく宝石の話なんかをしている。ダイヤモンドを2つ組み合わせるのがいいとか、8月の緑の誕生石が素敵だとかなんとか。まさか宝石に興味があったとは。僕はすっかり驚いてしまった。


レイ先生もやっぱり宝石がお好きですか。  
え? 宝石?
8月の誕生石がなんとか、と。
そうね、8月はいいわね。なんといっても「かんらん石」、マントルを構成する鉱物だもの。マントルは宝石箱だわ、きっと。行って見てみたいわねぇ。美しい緑色から濃いブルーへと変化してゆく上部マントル、やがて茶褐色になる下部マントル。そこから先は鉄の世界。岩石と鉄の境界では何が見えるのかしら。

 レイ先生の世界観についていくべく、僕は地球内部の勉強をすることにした。地球の内部構造はさっきレイ先生が言っていたとおりだ。地表を覆うのは地殻といって、薄い岩石の殻だ。半径が6,400kmある地球を卵に例えると、ちょうど卵の殻くらいの薄さになる。僕の身長に例えると、指の厚みほどもないくらいだ。この地殻の下にはマントルがある。レイ先生が緑やブルーや茶褐色の宝石箱と言っていた世界がここで、地球の半径の半分くらい、約2,900kmを占める。これまた卵の白身と同じくらいの割合だ。そして卵の黄身にあたる部分を核という。中心から3,500kmに及ぶ核は、これまでの岩石の世界から一転して、鉄でできている。


僕たちの暮らす地表を見れば、地球が岩石で構成されているというのはわかりますが、地球の中心は鉄でできていたんですね。
鉄は岩石よりも重いので下へ下へと沈んで行って、核を構成しました。核も2つに分けることができて、中心に近い側を内核、その外側を外核といいます。違いはなんでしょう?
外核は液体、内核は固体の鉄でできています。外核が液体であるということは地震波の解析からわかりました。前学No.05)で学んだS波が重要な役割を果たしたんですね。 
S波は液体の中では伝わらない性質を持っているので、地球内部の深くに液体の層があることがわかった。災害に関する研究だけじゃないんだなぁ、地震学って。
そう。地震波は地球内部のトラベラー。耳をすましてそこからいろいろな情報を得るのが地震学者の仕事であり、醍醐味でもあるわね。


さっきレイ先生がおっしゃっていた緑やブルーや茶褐色の世界、それがマントルですね。
そう。マントルも2つに分けることができます。
はい、660kmくらいの深さで上部マントルと下部マントルとに分けられます。どちらも「かんらん岩」で構成されています。
かんらん岩と、緑の宝石かんらん石の関係はわかる?
○○岩というのは○○石と呼ばれる複数の鉱物から構成されます。例えば、かんらん岩はかんらん石と輝石とザクロ石から構成されています。
ザクロ石は1月の誕生石、ガーネット。濃い赤のきれいな宝石です。
へえ、マントルは本当に宝石箱なんだなあ。
色についてもう少し補足しましょう。同じ岩石でも、深さが変わると色が変わるのよ。
へえ! なんでだろう? 深さの変化、というのがヒントかな。
そう。地球内部では深くなるほど大きな圧力がかかります。それで鉱物の結晶の構造が変化して、色も変わるのよ。
へえ、面白い。鉱物について、もう少し勉強してみます。
今度は意地悪な質問です。プレートとはどの部分を指すのでしょう?
あれ? 地殻とは違うんですか?
きわめて初歩的なミスですね。さっき挙げてくれた区分は物質的な境界によります。構成する岩石の種類の違いにき地震学No.01)で勉強したとおり、動いているでしょう。だから地球内部には、力学的な境界というのが別に定義されているのです。
なるほど。そういえばプレートの厚さは100kmくらいあって、地殻よりも厚いですね。
上部マントルの中でも最上部の硬い部分と地殻とを合わせてリソスフェアと呼んでいます。その下はアセノスフェアと言って、柔らかい、つまり少し粘性の低い状態です。
柔らかいアセノスフェアの上に硬いリソスフェアが載っている。載っているだけではなく動いている。この動いている部分をプレートと呼ぶのですね。

マントル対流という言葉を聞いたことはあるかしら? 宝石箱のマントルは長い時間スケールで見るとゆっくりと動いています。プレートが動いていることがその証なのですが。
はい。味噌汁を作ったりしているときに想像したりしていました。鍋の底からモコモコと上昇してきて、味噌汁の表面で冷やされてまた沈んで行く。外核は液体なのでマントルよりも容易に対流しているのでしょうか。
ええ。マントルの対流はプレートの移動速度から考えれば年間10cmといったところでしょう。液体の外核は年間10kmとだいぶ速い速度で対流しています。でも鉄と岩石とが混ざり合って対流することはありません。外核は外核で、マントルはマントルで、地球内部には大きく2つの対流があるのです。
今度はずいぶんダイナミックな地球の姿が見えてきたなあ。
人類が到達したことがある深さはたったの4kmよ。細い穴を掘削してもせいぜい12kmで限界です。地球の半径 6,400kmのほとんどを私たちは見たことがありません。地球内部は宇宙よりも遠いと思わない?

 なんだか今日のレイ先生はロマンチストだ。でもなんで相手が地球かなあ・・・。



物質境界と力学境界のように、地球内部を調べるにはいろいろな切り口がある。地震波の解析、鉱物の高圧実験、コンピュータシミュレーション、それから外核の対流が地球の磁場を生んでいるので電磁気学的な解析も必要だ。
未知の領域がすぐ足元にあったなんて驚きです。僕たちが直接目にすることができないものは、地震波や電磁場で見るわけですね。
その通りだ。ところでどうして対流が起きるか知っているかい? そもそも対流の原動力は何だろう?



味噌汁と同じだと考えると、熱でしょうか?けど熱源はなんだろう?地球の中心に熱?いつからあるんだろう?
原始地球の頃からだよ。ちりや隕石が集まって地球が形成された時に、それらが互いに衝突して熱が発生した。他にも放射性元素の崩壊による発熱などもあるがね。地球の中心部では6,000℃に達していると言われている。
対流はその熱を外に運ぶ運動なのですか?
そうだ。私たちの暮らす地表から地球内部の熱を逃がすために、核での対流とマントルでの対流が起きている。熱伝導で熱を逃がすのを待っていたらとても効率が悪いので、外核やマントルで対流がおきる。
外核の対流で熱が逃げて冷えるから、固体の内核が形成されるのでしょうか。
そう考えられているよ。その熱を受け取ったマントルも対流をして、よく冷えている地表へと向かう。地表で冷やされた部分は固い岩盤のプレートとなり、年間数cmの速さでゆっくりと旅をして、海溝から再びマントルの中へ沈み込んで行く。その過程で、火山活動を起こしたり、地震を起こしたりする。どうだい、地球はダイナミックな星だろう。暑がりだけどな。

 地震は、地球のこんな大きな活動の一部だったなんて。僕の住む世界の足元ではなんてすごいことが起きているんだ。
輝く宝石箱のマントル、その下にはサラサラの鉄の液体である外核があり、地球の中心には固体の鉄の球がある。外核もマントルもそれぞれ大きく対流をしていて、地球は自分自身を冷やそうとしている。地震は確かに嫌だけど、でも対流をしなくなって、地震や火山もない、冷えて固まった地球はなんだか想像したくないな。それにしても、一体地球はどれだけの驚きを僕らに見せてくれるんだろう。僕はまたあらためて、地球科学のとりこになった。

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)10月号)

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