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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 「伊豆東部の地震活動の予測手法」報告書

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)10月号)





 被害が発生するような大きな地震が発生したときや、群発的な地震が発生したとき、気象庁から地震についていろいろな情報が発表されていますが、現時点では、余震の確率評価以外には、地震活動の見通しなどの予測的な情報は発表されていません。これは、現時点では、地震活動の推移・見通しを予測する手法が確立されていないためです。
 しかし最近では、関係機関の観測の成果等、地震データの蓄積が進み、過去の地震活動の特徴を抽出・整理することにより、地震活動の予測的な評価が可能となる事例がいくつか見られています。
 このことから地震調査委員会では、「地震活動の予測的な評価手法検討小委員会」を設置して、群発地震の性質等、過去の地震活動から得られる特徴の抽出・整理を行い、地震活動の推移・見通しについての評価手法を検討してきました。
 今回、伊豆東部で発生する群発的な地震活動を対象に、地震活動の推移・見通しについての評価(予測)手法を検討し、「伊豆東部の地震活動の予測手法」としてとりまとめ、公表しましたので、その概要について紹介します。


 伊豆半島東部の伊東市の沿岸から沖合にかけての領域(以下、「伊豆東部」、図1)では、1978 年以降、群発的な地震活動が繰り返し発生し、1989 年7月の活動では海底噴火が発生しました。これらの地震活動は、これまでの観測・調査結果から、地下のマグマ活動によって引き起こされることがわかっています。また、この地震活動では、しばしば顕著な地殻変動を伴います(図2)。





 過去に発生した地震活動を基に抽出した地震活動の特徴は、以下のとおりです。
 ・マグマ貫入量と地震活動の規模(地震回数)が比例関係
 ・マグマ貫入量と東伊豆ひずみ観測点(以下、「東伊豆」)の24 時間ひずみ変化量に相関
 ・マグマ貫入による地殻変動は地震活動に先行
 ・1回のマグマ貫入に伴う主要な活動期間は平均4日、長くて1週間程度
 ・東伊豆におけるひずみ変化が収まるとともに、主要な地震活動も終息


 3.で示した特徴に基づき、とりまとめた予測手法を以下に示します。
 ○予測の対象とする現象
  マグマ貫入による地震活動
  (マグマの動き自体を予測するのではなく、貫入したマグマの動きとその量を推定し、それによって発生する地震活動を予測します。)
 ○予測を行う項目
  ①活動期間中の最大規模の地震のマグニチュード(M)とその地震による震度
  ②震度1以上を観測する地震の回数
  ③主たる活動期間
 ○予測手法の概要
  予測の流れを以下に記し、その概念図を図3に示します。
 1)マグマ貫入に伴う地殻変動を検知
 2)検知した地殻変動の大きさよりマグマ貫入量を推定
  ・東伊豆の24時間ひずみ変化量とマグマ貫入量の関係式
 3)推定したマグマ貫入量から、地震回数を予測
  ・マグマ貫入量とM1以上の地震回数との関係式
 4)最大規模の地震のM(項目①)及び震度1以上を観測する地震の回数(項目②)を予測
  ・3)で予測したM1以上の地震回数から、地震の規模と発生回数の関係式(グーテンベルク・リヒターの式:G-R式)を用いて、最大規模の地震のMと震度、震度1以上を観測する地震の回数を予測(震度予測は伊東市役所が対象)
 5)主たる活動期間(項目③)を予測
  ・(有感)地震が多発する、主たる活動の期間が予測対象
  ・1回の(マグマ貫入に伴う)地震活動期間は概ね4日、長くて1週間程度
  ・マグマの動きを監視し、2回目以降の貫入があれば、さらに4日〜1週間程度地震活動が継続すると予測
  ・ひずみの変化が収まるとともに、主たる活動も終息すると判断
 実際には、マグマの動きに伴う地殻変動データや震源分布をリアルタイムで監視しつつ、地震活動の予測を行うことになります。


 本手法は過去の地震活動から抽出した特徴を基にとりまとめたものであり、過去の活動と同様の様式で発生する地震活動を予測する手法です。そのため、過去の活動とは異なる様式で地震活動が発生した場合は、本手法による予測の適用外となります。
 さらに、マグマが地表付近まで上昇した場合には、1989 年の群発地震活動のように火山噴火に至る可能性もありますが、本手法はあくまで地震活動の推移を対象とした予測であり、火山噴火そのものの予測については適用外となります。


 今後、この手法を用いて気象庁が予測情報を発表することになりますが、平成23年度からの運用開始を目指し、発表する情報の内容や発表時期等について、気象庁が関係防災機関等と協議しているところです。
 過去において、マグマ貫入による活発な活動が収まった後、活動域の端あるいはその周辺で、やや規模の大きな地震が発生することがありました。また、マグマ活動によるもの以外の地震が発生する可能性もあります。これらのことも理解した上で、この情報を防災に役立てていく必要があります。

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)10月号)

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