出た! 緊急地震速報だ! テレビの中央に大きく『緊急地震速報』の文字。強い揺れが来る前に、まずは身の安全の確保だ。火は無理には消さなくていい。とにかく身の安全を確保!
久しぶりに出たわね、緊急地震速報。
ちょうど晩御飯を作っている時でした。僕が小学生のころは「地震!火を消せ!」と習いましたが、今はとにかく身の安全の確保なんですよね。
1923年の関東大震災では火災で多くの方が亡くなられました。その教訓だったのですが、強い揺れの場合は無理に消火しようとするとかえって危険だとわかってきました。それに、揺れを感知して自動消火する製品が増えたり、家庭用の消火器が普及したりと、関東大震災の頃からだいぶ環境も変わってきましたしね。
家庭用の消火器か、買っておかなきゃ。僕の狭いワンルームにも危険がいっぱいだと改めて思いました。タンスの固定はもちろんのこと、タンスの上にごちゃごちゃと置いてある本や雑貨も何とかしなければ。食器棚はないけれど、キッチンの上の扉から食器が飛び出してくるかも知れない。
オフィスも見まわしてくださいね。
大地くんは慌てて棚に積み上がった本を整理した。
レイ先生は小学校で緊急地震速報のしくみを授業されていると聞きました。僕も行ってみたいなあ。
では次回は大地くんに授業をしていただきましょう。しくみの説明はできる? 小学生を想定してくださいね。
えーと、ポイントは、地震の時に強い揺れを起こすS波を知らせる速報であることと、地震はすでに起きているので、一刻も早く備える必要があること、情報が間に合わずに揺れが来てしまうこともあること。
まずはS波の説明からしていただきましょうか。
地震が起きた時、「あれ?地震?」なんて思うカタカタした揺れがP波。そうこうしているうちに来る大きな揺れがS波です。つまり、S波はP波よりも遅れて伝わって来ますが、揺れはP波よりも大きい。
だから地震による被害はS波によることが多いのです。家具が倒れてきたり、家屋が倒壊したり。
緊急地震速報は、このS波が来るのを可能な限り早く知らせるシステムです。まず最初に来るP波を検知して、震源の位置と規模を見積もった上で、キミのところへS波が行くぞ、と予測して伝えるしくみが日本全国の規模で実施されている。この間わずか数秒。
2007年10月1日から気象庁が提供を開始しました。
2007年10月1日から気象庁が提供を開始しました。
そうね。一刻を争う技術です。ところで、まずP波を検知して、ということは?
地震はすでに起きている、ということ。地震発生の予測ではなく、地震動の予測であるということです。(地震と地震動の違いについては謎解き地震学№02『地震と地震動、マグニチュードと震度』へ。)震源近くではP波とS波との到達時刻に ほとんど差がないので、速報は間に合わないことがあります。
震源に近いほど強い揺れになるのですが、残念ながら、震源近くでは情報が間に合わないことがあるのです。
だからこそ、日頃からの備えが重要なんですね。
そのとおりです。それに情報が間に合う地域でも猶予時間は長くて十数秒から数十秒、揺れが強いところでは数秒あるかどうか、というところです。うん、大地先生の誕生ですね。P波とS波やしくみを説明したイラストもお貸しする ので小学生にぜひ授業をして来てください。
昨日は最大震度が5弱で被害なし、僕の住む地域は震度4でした。緊急地震速報がテレビやラジオで発表される基準はこのとおりでしたよね。
そうね。2つ以上の地震計で地震波が観測されて、最大震度が5弱以上と予測された場合に、震度4以上が予測される地域に速報が出ます。
ニュース番組の最中にバーンと文字が出たのは迫力あったなあ。そういえば地域ごとの予測震度は出さないんですね。
ええ、「強い揺れ」とだけ表現することになっています。それから猶予時間のカウントダウンもしません。
誤差があるからですか?
そうですね。地図上に地震波が伝わるようすを表示して、猶予時間を示すことも技術的には可能なのですが、地震発生直後の予測では誤差は大きくなる傾向があるのです。それに、地震波が画面上で広がっていくようすを、つい見入ってしまったりもするそうですよ。
それじゃあ全然備えにならないや。
ところで、人々に速やかに備えのアクションをとってほしいという工夫に関して、画面に現れる文字の迫力の他に、もうひとつ気づいたことはない?
音でしょう! あの報知音。あの音を聞いたら反射的に身の安全を確保する。音はとても重要です。
そのとおりなのですが、実は音がまだ統一されていません。小学校の児童たちが緊急地震速報を活用した避難訓練を行って、とっさの時の判断力を身につけても、ご家庭の受信端末と報知音が違うようでは効果は半減です。
アメリカに行ったとき、授業終了のチャイムが日本の火災報知器の音と同じで、ビックリしちゃいました。せっかくいいシステムを実施しているのに、なんかもったいないなぁ。
「防災の日」らしくまとまっているね。僕はテレビもラジオもつけてなくて気づかなかったよ。
エリアメールなどの携帯電話による緊急地震速報受信サービスの手続きはされてないのですか? 対応機種なら申込みも使用料も通信料も不要ですし、設定も簡単です。あ、でも新堂教授は携帯電話は置きっぱなしでしたね・・・。
そうなんだよ。だからついに受信端末を購入したよ。NHKの報知音と同じに設定できるやつをね。これでテレビや携帯に気づかない僕でも安心だ。
家具の固定や防災グッズなどの備えをしていれば、ですけどね。
今回は大地くんに注意されっぱなしだね。この機会に点検しておくよ。ところで緊急地震速報の活用方法も調べたかい?
はい、興味深いのは鉄道でした。ずいぶん前から独自に研究開発されていたんですね。新幹線の「のぞみ」の開始とともに実用化されたので20年近い実績になります。他には工場などの生産ラインの制御やエレベータの停止、建設現場などの危険作業者への通知やデパートでの警戒周知などが実施されていました。あと、レイ先生がやっている学校での避難訓練。緊急地震速報の報知音で子供たちは瞬時に安全な場所を探して身を寄せるそうです。子供のころから訓練しておけば、ずいぶんと違うでしょうね。
阪神・淡路大震災では実に8割近くの方が家具や家屋の下敷きになって亡くなられた。残りの1割は火災が原因だ。
つまり9割の犠牲者は自宅が凶器となって亡くなられたのだよ。無念でならない。日本には厳しい建築基準法があって、地震にも火災にも強い家が建てられている。家具を固定したり、食器棚を瞬時にロックしたりする製品もたくさん開発されて売られている。その上で緊急地震速報も世界で初めて実用化されているんだ。もう二度と地震による犠牲者を出したくない、その想いが伝わってくるだろう。うん、やっぱり今日のうちに棚を整理して家具を固定しよう。年に一度の点検だ。
つまり9割の犠牲者は自宅が凶器となって亡くなられたのだよ。無念でならない。日本には厳しい建築基準法があって、地震にも火災にも強い家が建てられている。家具を固定したり、食器棚を瞬時にロックしたりする製品もたくさん開発されて売られている。その上で緊急地震速報も世界で初めて実用化されているんだ。もう二度と地震による犠牲者を出したくない、その想いが伝わってくるだろう。うん、やっぱり今日のうちに棚を整理して家具を固定しよう。年に一度の点検だ。
年に一度、自宅やオフィスを見まわしてみよう。不用意にガラスビンなんかが置かれていないか、逃げ道は確保されているか。実家の家族との連絡は、災害伝言ダイヤル「171」で取ろう。毎月1日と防災週間の8月30日から9月5日までは体験利用ができる。今日くらいは徹底してみよう。もう二度と地震による犠牲者を出さないために。
参考URL/気象庁 緊急地震速報について: https://www.data.jma.go.jp/eew/data/nc/index.html
(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)9月号)