愛媛県は温暖な気候に恵まれ、自然災害の比較的少ない地域です。しかし、平成13年3月には平成芸予地震により震度5強〜5弱の揺れを記録し、また、平成16年には瀬戸内海側を中心に甚大な台風被害に見舞われました。台風被害は、四国全体で死者・行方不明者61名、床上・床下浸水延べ58,000戸、避難勧告対象延べ313,000所帯などであり、無数の斜面崩壊と土石流の発生とともに、中小河川の氾らんによる甚大な洪水被害が発生しました。
愛媛県新居浜市などでは、これらの自然災害の発生を契機に防災教育に関する意識が高まりました。また、 四国では東南海・南海地震の発生が危惧されているとともに、新居浜市の平野部と山地部の境界域に日本最大級の活断層である中央構造線が走っています。これらの要因もあり、新居浜市教育委員会では、小中学校における防災教育を積極的に展開することになりました。本報告では、新居浜市小中学校を舞台にして新居浜市教育委員会と愛媛大学が連携して取り組んだ防災教育について簡単に述べます。
新居浜市小中学校の防災教育の展開における最大の特徴は、新居浜市教育長のリーダーシップによる教育委員会を挙げての積極的取り組みにあります。具体的には、各校に「防災教育主任」を設置し、防災教育年間計画を策定することにより、組織的に、かつ、効率的に、各学年とも年間10時間程度の防災教育を実施してきています。そして、防災教育の実施に際しては、関連する各界ならびに地域との連携を大切にしています。
愛媛大学も新居浜市教育委員会と連携して、「愛媛ボウサイッコ教育協議会」を設置し、防災教育に取り組んできました。本協議会を中心とした防災教育への取り組みの特徴は、主役は児童、舞台は学校や地域、そして教諭やPTA、自治会、消防団、自主防災会、役所、NPO、大学などはそのアシスト役に徹するところにあります。
愛媛大学の主な役割は、防災知識の提供、教諭向け防災研修会カリキュラムの開発、各種防災教育教材の開発などです。ここで、開発した防災教育教材を示します。これらの一部はホームページにアップしていますので参照してください。(URL:http://www.ccr.ehime-u.ac.jp/dmi/bousai88_top.html)
・四国防災八十八話:
四国の各種の自然災害に関する言い伝えから八十八話を厳選し、リライトして掲載している。
・まんが四国防災八十八話:
四国防災八十八話を漫画化したものである。漫画化は愛媛大学漫画研究会による。
・四国防災八十八話かみしばい:
四国防災八十八話のかみしばい版である。かみしばい化は愛媛大学美術研究会やNHK松山局による。
小学生やお年寄り向けの教材である。なお、一部はNHK松山局により効果音やナレーションを入れてテレビ放映されている。放映されたかみしばいはDVD化されている。
・えひめ防災ブック:
主に四国に関わる自然災害に関して平易に解説している。また、愛媛の地形、地質や自然災害史なども掲載している。
・楽しく学べるいのちを守る防災:
児童向けに自然災害の特徴やまんがによる防災に関わる昔話、それと、防災八十八話のかみしばいの一部を掲載している。小学校高学年や中学生を対象としている。
このような防災教育教材の開発とともに、小中学校や公民館などでの防災講演会の実施など、側面からの支援を精力的に行っています。この数年間での防災教育の実績は、延べ1万人を超えています。
地域の特徴を生かした多くの防災プログラムを実施してきていますが、ここでは特徴的な2つの事例を示します。
●塩田の町「多喜浜地区」の防災まちあるき
新居浜市多喜浜地区は愛媛県最大の入り浜塩田の跡地に拓けた町です。そのため、過去の南海地震により甚大な液状化被害を受けるとともに、低平地はたびたび洪水災害を受けてきています。そこで、多喜浜小学校の5、6年生の有志児童が、塩田史の記述を基に南
海地震による液状化被害地点などを調査するとともに、平成16年台風による洪水災害の調査を行いました。それを基に、地震と豪雨による多喜浜防災マップを作成しました。これらの成果は防災甲子園で表彰されました。
●学校を避難所本部に想定した合同総合防災訓練
災害発生時に学校は避難所本部になります。この防災訓練の特徴は大規模災害時に避難所となる小学校を舞台として、被災者でもある教職員や地域住民、それに児童まで含めて、避難所設営の主体者として活動するところにあり、全国的にも非常に珍しい取り組みです。
実施の一例を示しますと、参加者は児童と教職員259名、保護者172名、自治会67名、それに新居浜市役所や愛媛大学の関係者などです。総計500名を超える参加者が8班(給水班、仮設テント設営班、簡易トイレ班、救急班、救出班、土のう作り班、ボランティア班、炊き出し班)に分かれて全体訓練を行いましたが、高学年の児童は見事に役割を果たしていました。
新居浜市で展開されている、主役は児童、舞台は小中学校、教諭やPTA、それと自治会などは支援役という防災教育の仕組みが他の地域でも展開されることを期待しています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)8月号)