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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. NO3.火山フロントと沈み込み帯

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)7月号)



 地球科学の魅力のひとつ、フィールドワークに出ることになった大地くん。活火山を前にして、教科書で学んだこととのスケールの違いに驚くばかり。地震国日本は火山国でもある。地震と火山、どういう関係があるのでしょうか。そのからくりは、地球の内部にありました。


フィールドに出てみない? 火山観測に行きましょう!
はい! ぜひ!

 初めての野外調査だ。先輩達もみんな言っていた。「地球科学の醍醐味は、地球がまるごと実験室ということだ」って。
なんだか生き生きしているレイ先生。そわそわと活気づく研究室の先輩達。僕も仲間入りだ。

 最寄り駅へは新幹線で向かう。思ったよりも気楽に近づけるんだな。夏も涼しいこの辺りの高原は有名な避暑地だし、何より火山といえば温泉だ。ところが、一歩一歩山頂に近づくにつれて僕はショックを隠せなくなる。この山が噴火を始めたらどうなるのだろう?
ふもとに住む人々も、火山なんて遠い存在だと思っている街の人々も。

もう少しハードな観測の方が良かったかしら。先ほどから無口ね。
中腹はきれいな緑色だったのに、火口に近づくにつれてどんどん緑が減っていきます。もうこの先は石コロだけですね。
小規模なものも含めれば、この山は断続的な噴火を続けています。噴石が飛んできたり高濃度の火山ガスが排出されたりして、植物は育ちません。スケールの大きさに驚いたでしょう。ここのところずっと机にかじりついていたものね。
はい。教科書に書かれている火山の断面図が、この雄大な景色のどこを指しているのだろう? と正直、面食らっています。それにずいぶん小さく感じます、人間が。
それを感じてもらえただけで今回は十分よ。でもいつか三宅島に行きましょう。
2000年の噴火から今年でちょうど10年です。一部の植生は高濃度ガスで枯れたままですし、帰島できない被災者もまだいらっしゃいます。あなたが勉強してきた災害社会学が重要な働きをしてくれると思うわ。
はい! それにしても、地震の研究室で火山の観測に行くとは思っていませんでした。
地震と火山の関係について、宿に帰ったら調べてごらんなさい。

 日本地図上に、今日観測に行った山に印をつける。あんなに大きかった山も地図で見たら点だ。大地くんはさらに国内の全部の活火山をマークした。日本にはなんてたくさんの活火山があるのだろう!(図1)




活火山はずいぶんきれいに並んでいるんだなあ。偶然とは思えない。
確かに日本は火山国だけど、火山は日本列島のどこにでもあるわけではないのよ。千島列島から北海道を横断するように分布して、こんどは東北地方の真ん中を通り関東地方の西の端まで、さらに伊豆半島、伊豆諸島、小笠原諸島と連なります。この形、どこかで見たことはない?
海溝だ。千島海溝・日本海溝・伊豆−小笠原海溝を結ぶ線と平行だぞ。もしかして・・・。

 震源分布を重ねてみる(図1)。ぴったりだ。深さごとに色分けした震源分布は活火山をつないだ線と平行に並ぶ。地震の分布と火山の分布、何か関係があるに違いない。

活火山をつないだ線を「火山フロント」といいます。日本では火山フロントより東側(太平洋側)には活火山はほとんどありません。また、火山フロント上では火山の数や噴出物の量が圧倒的に多いのに対して、火山フロントから西へ遠ざかるに従ってそれらが少なくなります。
へえ!でもなんでだろう?
観測で見てきたたくさんの噴出物は、火山のおおもととなっているマグマからできています。マグマが日本の地下深くでどうやって生成されているか、さらに調べてごらんなさい。

 世界の震源分布を初めて見たときもそうだった。地震が地球上の決まったところでしか起きない理由は、地球の断面を考えたら明らかになったんだ。地表で起きているさまざまな現象は、地球内部で起きていることを調べることで、きっとはっきりするはずだ。

 日本の下に沈みこむ太平洋プレートは1億年以上もかけて海の底を移動してきました。プレート上面には海水と反応して水を含む鉱物がたくさんできています。一方で、海のプレートは日本列島の下に沈みこむにつれて、高温・高圧にさらされるようになります。これによってプレートの中に含まれていた水が徐々に染み出してくるのです。水の存在によって岩石が溶け始める温度はぐっと下がります。これがマグマの元となります。いったん生まれたマグマは周囲の岩石より軽いので上へ上へと上がっていき、地表に火山を形成するのです。この一連のプロセスによって、水が絞り出される深さの真上に火山フロントが分布している、というわけなのです(図2)。



 研究室のみんなで夕食を囲む。観測の番外の楽しみだ。

初めての観測はどうだったかい?
外に出るのは気持ちがいいです。大きな山を見てその形成を調べていたら、マグマを構成している鉱物の顕微鏡写真に行きあたりました。地球科学というのは、大きなものにも小さなものにも目を向ける学問なのですね。
初めての観測はどうだったかい?
外に出るのは気持ちがいいです。大きな山を見てその形成を調べていたら、マグマを構成している鉱物の顕微鏡写真に行きあたりました。地球科学というのは、大きなものにも小さなものにも目を向ける学問なのですね。
ミクロの世界もマクロの世界も、そのうち自在に行き来できるようになるさ。ところで地震と火山のもうひとつの関係を教えてあげよう。この図を見てごらん(図3)。10年前の三宅島噴火のときの震源分布だ。この場合の地震と火山の関係は何を示していると思う?
マグマが進むときに地殻を割って地震を起こすのでしょうか。
正解だ。この図では日を追うごとに震源が北西へ移動しているだろう。そしてその一週間後に山頂では大規模な陥没が起こり、カルデラが形成された。さあこれをどう解く?
震源位置の推移はマグマの移動をあらわしていると思います。マグマが北西へ移動していったから火口の下は空っぽになっちゃったのかな。
うん、いいね。正確には火口へのマグマの供給がなくなったためだ。三宅島の地下15kmほどの深さにはたくさんのマグマが存在している。ここから火口へ供給されていたマグマはどういうわけか北西へと方向を変えた。その様子が震源分布の時間推移に描かれている(図3)。火口へのマグマ供給がなくなったために圧力が下がり、最後まで栓のように詰まっていた山頂の物質が陥没して、カルデラを形成したと謎が解けたわけだよ。あの時は研究所のあらゆる分野の先生達が、観測結果を持ち寄って知恵を出しあったものだ。





先生も観測に行かれたのですか?
いや、私は行っていないがね、この陥没に伴って崩れた所で2日前に観測をしていた先生がいたんだよ。陥没がもう数日ずれていたら大変なことになるところだった。あぶない、あぶない。

 緊張感を伴う観測を終えての夕食では、みんなおしゃべりだ。それにしても僕たちはなんてちっぽけなんだろう。地震も火山も、学べば学ぶほど人間の手にはおえないと痛感する。そもそも手におえるという発想が間違っているんだ。地震国・火山国に暮らす僕らには、共生しかありえない。地球の用意した日本の自然環境を間借りしているだけなんだとあらためて思いながら、僕は夕日を背にした山々を見渡した。

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)7月号)

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