卒業研究に地震学・火山学教室の新堂研究室を訪れた大地くん。学べば学ぶほど疑問が出てくる。そもそも地震ってなんなんだ? どうして地面は揺れるんだ? そして地震が起きるたびに発表される「マグニチュード」と「震度」。「活断層」という言葉も耳にする。これらは一体、地震とはどういう関係にあるのだろう?
被災地の写真を見て頭を悩ませている大地くん。1995年に阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震でも、2008年の中国四川地震でも、被災地の地表には亀裂が走ったり大きく盛り上がったりする現象が見られました。
ついに根源的な問題にあたったようね。
地震が起きるとビルが倒れたり、地面にひびが入ったり。本当に恐ろしい現象です。でも地震の正体ってそもそも何なのでしょうか?
地震が起きてビルが倒れるのと、地面にひびが入るのとは、地震学的にはまったく別のことよ。
え? 地震が起きたから地面が揺れてビルが倒れる。地震が起きたから地面にひびが入ったり、段差ができたりする。違うんですか?
重要なところなので今日は先に答えをお教えします。とても単純に言ってしまえば、地面にひびが入ったり段差ができたりすること、これが地震の正体です。写真のような現象は地震の結果ではなく、地震そのものなのです。
???
日本ではナマズが地震を起こしていると思われていた時代がありました。ペリー来航の2年後、江戸時代末期を襲った安政の江戸地震ではナマズをこらしめる様子を描いた鯰絵(なまずえ)などが刊行されています。一方で地震が起きた後、震源地では時には数十キロメートルにわたって地面に亀裂が走ることが観測されるようになってきました。
かつては地震が起きることで地表に変形が見られると思われていたのですが、実際には亀裂ができることが地震の発生そのものであるとわかってきました。
プレートがぶつかり合うところでは大きな力が働いて地震を起こす、この前はそれを勉強しました。この力で地面にひびが入る、つまり地下の岩盤を破壊する、それが地震ということですか?
そのとおり。大きな地震で震源が浅いときは入ったひびが地表に現れて段差やずれが見られます。これを「地表地震断層」といいます。
断層と聞けば「活断層」しか思い浮かびませんが・・・。
無理もないですね。日本列島にはたくさんの亀裂が走っています。そこは他よりも強度が弱いため、力が加わると破壊してずれが生じます。これが地震なのです。
茶碗でもひびが入っているところが割れるもんなぁ・・・。
この弱い面を「断層」といい、過去に地震を起こしたことのあるものを特に「活断層」とよんでいます。この断層に沿って岩盤が急激にずれ動くことこそが地震の正体です。
地震の原因は何であるか、古代ギリシャ時代からさまざまに考えられてきました。地下での火山爆発、地下空洞の陥没、マグマの運動・・・。しかし1906年にサンフランシスコ地震が発生したとき、300kmにわたって最大で6mを超える横ずれの地表地震断層が現れました。これを観察したレイド博士によって、地震が断層運動であるということが決定付けられました。
地表にできる亀裂は地震の正体が顔をのぞかせたところというわけか。一方でビルが倒れるのは地震の結果起きること。地震の発生で地面が揺れて、その揺れが大きかったときに建物の倒壊などの被害が発生するのですね。
揺れが大きいとき、というのは具体的にはどんなとき?
地震の規模が大きい場合です。
それだけかしら。地震の規模が大きくても遠ければ被害はないでしょう?
そうか。地震の規模が大きい場合と、震源に近い場合だ。
だから地震そのものの規模をあらわす指標と、地表での揺れの規模をあらわす指標が必要になるわね。
大地くんはレポートを新堂教授に見てもらった。マグニチュードと震度を電球で例えるなら、それぞれワット数と明るさのようなものだ。電球の近くにいれば明るいし、遠くにいれば暗い。でも電球はずっと100Wで輝いている。ワット数はマグニチュードに、明るさは震度に置き換えられる。
今回もよくまとまっているね。じゃあテストをしよう。「ゆっくり地震」と「ゆっくり地震動」、この違いをどう説明する?
ウーン。 「ゆっくり地震」とは断層での運動がゆっくりということでしょうか。つまり、断層での岩盤のずれが通常の地震に比べてゆっくり進むこと。それに対して「ゆっくり地震動」とは、ある地点で地面がゆっくり揺れることだと思います。
大正解だ。ではもうひとつ質問しよう。地震そのものの規模をあらわすマグニチュード、どういう記号を使っているか知っているかい?
マグニチュードの頭文字をとってM(大文字イタリック)です。マグニチュード7をM7と書いているのをよく見かけます。
そのとおり。阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震のマグニチュードはいくつだったかな?
気象庁のホームページにはM 7.3とありました。
ところがアメリカの地質調査所(U.S. Geological Survey)はM 6.9と発表した。これはどうだろう?
えっ? マグニチュードはひとつの地震に対してひとつではないのですか? 震度なら、震源に近い地域では震度4、遠くなるに従って、3、2、1などといくつも値が与えられますが・・・。
意地悪な質問だったね。実はマグニチュードは何種類もあるんだ。どういった算出方法をとるかによって少しずつ違う値が出てくることがある。それを区別するためにMの横にアルファベットを添えるんだ。気象庁が発表するマグニチュードはMJ 、Japan Meteorological Agencyの最初の頭文字だ。研究者が標準的に使うのがモーメントマグニチュードで、Mwと表記される。
モーメントの頭文字でMmではないのですか?
ははは。それについては最終ページの纐纈先生による「座長リレー」を読んでごらん。モーメントマグニチュードはカリフォルニア工科大学名誉教授の金森博雄先生が1977年に考案されたものだ。それまでのさまざまなマグニチュードの決定法では物理的な意味合いが曖昧だったことや、大きな地震のときに値が頭打ちになってしまうといった問題点があったのだが、これで一気に解決したのだよ。
身近なゆえに何気なく使っていた「地震」という言葉。地震の発生後すぐに発表される「マグニチュード」と「各地の震度」。研究していくにはきっちり定義を知らないといけないんだな。ふだんの会話では「地震動」「気象庁マグニチュード」「モーメントマグニチュード」なんて使わないけれど、地震に伴うさまざまな現象の解明が進んでいくにつれて、一つひとつの明確な定義がなされてきたのだ。