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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. GPS/音響測距結合方式による海底地殻変動観測の最新結果

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)3月号)



 地震調査研究推進本部の地震調査委員会による海溝型地震の長期評価では、今後30年以内の地震の発生確率(平成21年1月1日現在)が、宮城県沖地震(M7.5前後)99%、東海地震(M 8程度)87%(参考値)、東南海地震(M8.1前後)60〜70%、南海地震(M8.4前後)50〜60%と推定されています。これらの地震の想定震源域の大部分は海域にあるので、将来発生する巨大地震の被害を低減するためには、より震源域に近い海域で地震や地殻変動のモニタリングを行うことが重要です。
 海上保安庁では、海溝型地震の震源域直上で地殻変動をモニターするため、東京大学生産技術研究所の技術協力の下、GPS /音響測距結合方式による海底地殻変動観測を行っています。
ここでは、海底地殻変動観測で捉えた2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)後の海底の動きと2009年8月11日の駿河湾の地震(M6.5)後の臨時観測結果について報告します。


 海底地殻変動観測の概念図を図1に示します。海底地殻変動観測は、時々刻々と変化する船の位置を求める「キネマティックGPS(KGPS)観測」と、船と海底に設置した海底基準局(図2)との間の距離を音波で測る「音響測距観測」を組み合わせ、海底基準局の位置をセンチメートルの精度で測るという観測で、この観測を継続的に行うことにより海底の動きをモニターしています。
 現在までに三陸沖から室戸岬沖にかけての太平洋側の海域に約100km 間隔で海底基準点を展開し、測量船による繰り返し観測を行っています。
  


 2005年8月16日、宮城県沖の海底下でM7.2の地震が発生しました。この地震は、前回1978年に発生した宮城県沖地震(M7.4)の破壊域の南東側の一部が破壊したことによるもので、他の部分は現在もひずみを蓄積したまま残っていると考えられています。
 海上保安庁では、宮城県沖に2つの観測点を設置し、海底地殻変動観測を行っています。金華山沖約120km に位置する「宮城沖1」海底基準点と、金華山沖約70km、「宮城沖1」海底基準点の西方約50km に位置する「宮城沖2」海底基準点です。2005年の宮城県沖の地震は、偶然にも「宮城沖2」海底基準点のすぐ近傍(西方約10km)で発生したため、同基準点で地震に伴う地殻変動を捉えることができました。
 図3(中央)に、「宮城沖2」海底基準点の水平位置の時系列を示します。
時系列から「宮城沖2」海底基準点の動きとして次の3つの段階があることがわかります。
①2005年の宮城県の地震前後(図3-A)
 2005年の地震の前後2回ずつの水平位置の平均の差から、「宮城沖2」海底基準点が同地震に伴って東向きに約10cm 動いたことが分かりました(図3-A)。この動きは、地震によりそれまで蓄積されていたひずみが開放されたことを示しており、陸上のGPS から推定された国土地理院の断層モデルと方向、大きさともに大変調和的です。
②地震後〜2006年末頃
③2006年末〜現在(図3-B)
 図3の時系列から、地震後から2006年末頃までは特に目立った動きがなく、その後西向きに移動し始めたことが分かります。これは、2006年末頃までこの地震による余効変動が続き、2007年頃から再び太平洋プレートの沈み込みによるひずみの蓄積が始まったことを示唆していると考えられます。2006年12月以降の水平位置座標から移動速度を求めると、ユーラシアプレートに対して西北西に年間約6.5cm という速度が得られました(図3-B)。
 ひずみの解消から余効変動を経て、再びひずみの蓄積開始に至る一連の過程を海底の動きとして捉えたのは世界でも初めての事例です。




 2009年8月11日午前5時7分、駿河湾でM6.5の地震が発生しました。
 海上保安庁では、測量船の行動計画を一部変更し、同年8月17日に震源に最も近い「東海沖1」海底基準点(震央から約80km)において臨時に海底地殻変動観測を行いました。
 同地震の震央と「東海沖1」海底基準点の位置を図4に、臨時観測の結果を図5に示します。臨時観測の結果 地震によると考えられる顕著な地殻変動は検出されませんでした。
 今回の臨時観測では、特段の動きは見られませんでしたが、この臨時観測にはもう一つ重要な意味があります。それは、観測データの取得から解析結果の導出までに要した日数が約10日間だったということです。今回のような臨時観測では、迅速に観測結果を導出し、報告する必要があります。そこで、今回はGPS の軌道情報として、3週間後に提供される「精密暦」ではなく17時間後に提供される「速報暦」を使用して海底基準局の位置を求めました。図5に示した結果は、速報暦による結果です。なお、その後、精密暦で再解析を行いましたが、速報暦と精密暦による海底基準局の位置の差は1mm 未満でした。
 このことは、海底地殻変動観測においても「速報暦」が暫定結果の導出に有効だということを意味しており、今後、機動的に観測する必要が生じた際にも、速報暦を使用することにより迅速に海域の地殻変動観測結果を地震調査委員会等に提出することができると期待されます。
 海上保安庁では、今後も更なる観測技術の高度化を進めつつ、継続的に海底地殻変動観測を行い、将来発生するプレート境界地震のためのモニタリングに貢献していきます。

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)3月号)

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