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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. アスペリティの実体は?(長谷川昭)

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)2月号)

アスペリティの実体は?

 プレート境界にはアスペリティと呼ばれる固着域がパッチ状に分布していて、ずるずるとゆっくりすべる領域に囲まれている。周囲でずるずるすべるとアスペリティに応力が加わり、やがてそれが強度の限界に達するとアスペリティは急激にすべる。プレート境界地震の発生である。このように、地震発生のメカニズムはわかってきたが、アスペリティの実体は依然として謎のままである。アスペリティは地下深部にあり、直接手にとって見ることが出来ないからである。
 そのアスペリティを掘り抜く計画が持ち上がった。米国で現在進められているEarthScope計画の一環として、パークフィールド地震の震源域でサンアンドレアス断層を掘り抜くSAFOD計画がそれである。この地域では、M6程度の地震が約20年間隔で繰り返し発生することから次の地震の発生が予測され、時期は予測より大幅に遅れたものの、2004年9月28日に、予測通りの場所に予測通りの規模の地震が発生した。
 M6の地震を起こすアスペリティの周りはずるずるとすべる領域であり、その中に小さなアスペリティが点々と分布する。それらは、M1−3程度の地震を数ヶ月−数年の間隔で繰り返し起こしている。繰り返し小地震と呼ばれる地震群であり、それらのうち、2.2kmの深さにあってM2の地震を起こしてきたアスペリティがターゲットとなった。その大きさは直径100mほどであり、これまで世界で発見されたアスペリティのうち最も浅い。SAFOD計画は、1)サンアンドレアス断層上のこのアスペリティとその外側のずるずるとすべっている領域の両方をボーリングで掘り抜き、そこの物質をサンプリングする。2)その後のボーリング孔に地震計や傾斜計などを設置し、震源近傍での観測を行うというものである。
 アスペリティの実体が解明されるであろうと大いに期待され進められた計画であったが、実は、アスペリティを掘り抜くことには失敗した。2.2kmの深さにある直径100mのターゲットを、地表からボーリングで正確に掘り抜くのはとても難しい。掘り進める際、ボーリング先端で回転するビットが出す振動を地表の地震計網で計測して先端の位置を決めるなど、最新の技術を駆使して臨んだものの、結果としてアスペリティからわずかに外れた位置でサンアンドレアス断層を貫通した。断層は掘り抜いたが、アスペリティを掘り抜きそこの物質を地表に持ってくることはできなかった。アスペリティの実体を知る上で決定的に重要な情報を手に入れられなかったのである。
 誠に残念である。このようなチャンスが近い将来まためぐってくるとは期待できない。当面は間接的なデータを用いて研究を進めていくしかない。アスペリティの実体がわかるまでには、まだ時間がかかりそうである。

(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)2月号)

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