大都市が直面する防災上の課題
近代都市の直下、しかも浅いところで、大規模な地震が発生したら、いったい何が起こるのか? 95年の阪神・淡路大震災は、その漠然としたイメージを一変させたといってよい。「どのようなゆれ具合であったか?」との問いに、多数の被災者は「何が起こったかわからん」と語りました。これは直下地震のゆれのすごさを端的に物語っています。犠牲者の死因の約9割は圧死でした。ほとんどの人は就寝中に、激しいゆれが何によるのかを知る間もなく、倒壊した木造住宅や家具の下敷きになったに違いありません。大震災では、次のような要因が複合して被害全体を拡大したと考えられます。それらは、①地震の規模が予想よりも大きい、②大規模な火災が発生する、③地下の表層地盤が悪い、④住宅のつくりが本質的に弱い、⑤構造物の強度が不十分である、⑥人口密集地が襲われる、⑦都市機能の弱点をつかれる、などです。地震は驚くほど正確に弱点弱点を容赦なく突いて、被害を拡大させたのです。阪神・淡路大震災の教訓を大都市の防災対策に積極的に生かし続けねばなりません。
これらに鑑みて、中央防災会議は人的被害と経済的被害の大幅削減に向けて達成時期と減災目標を定めた対策を提案しています。まず、ゆれによる被害を軽減するために住宅の耐震化を加速させ、10年後に住宅の耐震化率90%を目指します。また、延焼火災を防ぐために、自助・共助による初期消火率の向上をはかります。これらの対策により、死者をほぼ半減できるはずです。国際的な大都市が直撃を受けた場合、経済的混乱は周辺の都市圏にとどまることなく、国内・国外の経済活動に影響を与える可能性も懸念されます。それを防ぐために、中央省庁とほぼすべての大企業はあらかじめ事業継続計画をたてておかねばなりません。このように達成時期を含めて具体的な減災目標を持った対策は地震防災戦略と名付けられ、想定東海地震などの海溝型地震の対策にも適用されています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成22年(2010年)1月号)