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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 電磁気学的手法による地下構造探査

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)12月号)


 航空機を利用して空中から地下構造探査を行うことにより、地表から立ち入ることができない地域でもデータを取得することが可能になり、また、短時間に広い範囲のデータを取得できるので、繰り返し観測による面的な地下の状態変化のモニターもできます。
特に、電磁気的手法は空中からの計測が比較的容易であり、空間も伝播する電磁波の特徴を生かした手法です。


 空中電磁探査は、航空機の発達した1950年頃よりいろいろな探査機が開発されてきました。初期の頃の目的は、広い地域での資源探査でしたが、近年、地滑り地域等の危険地域の調査など防災・環境調査に使われるようになってきました。しかし、従来の方法は航空
機に送信機と受信機とを搭載するために、使われる周波数が高周波に限られることや送受信機間距離の制約により、可探深度は100m程度と限られたものでした。そこで、空中電磁法の可探深度をもっと深くすることを目標に、地表に電流送信装置を設置し、それにより発生する大地の誘導磁場を空中で測定する探査法を開発してきました。この方法は、従来から行われている比較的深部の構造を地表で探査する時間領域電磁探査法と同じ原理を用いています。送信方法は同じですから、地表と空中での計測とを同時に行うことも可能ですし、協調した探査もできます。
現状では深度1000m位までの探査が可能ですので、活断層の活動評価や火山体内部の探査に応用できるでしょう。図1は、ヘリコプターからセンサー(バードという)を吊るして探査している様子を描いた図です。
 空中で磁場計測する場合、磁力計を空中にぶら下げるため、それが地球磁場の中で揺れることにより大きなノイズを発生します。このようなノイズが本当に除去できるかが大きな問題ですが、センサーの揺れをモニターし、さらに磁場の変動波形を完全に取得することにより、このノイズの大部分は補正できるようになってきました。このようなセンサーの揺れを高速で精度よく計測できるようになったのは、近年のジャイロ技術や加速度センサーの発達によって実現されたものであり、また、揺れによる大きな磁場変動の波形を完全に取得できる大きなダイナミックレンジを持ち、且つ高速サンプリングができるA/Dコンバータ*1等の電子機器の発達により可能となりました。
今後、このような電子機器がさらに高性能化すれば、この探査の精度も向上するし、可探深度もさらに深くできるでしょう。図2にヘリコプターから吊り下げるバードの内部を示します。
写真で見える表側には、光ファイバージャイロや方向をモニターするための磁気インピーダンス(MI)センサー*2が装着されています。このジンバル台*3の裏側には3方向を向いた誘導コイルが装着されており、それにより3成分の磁場変動を計測します。空中で計測される磁場は、センサーの揺れにより大きく変動していますが、それを揺れと磁場変動との関係を用いて補正します。




 図3に、この探査で得られたデータの例とそれを揺れ補正した例とを示します。この下図で見られる過渡現象曲線は、電流を切断したときに地下で発生する渦電流による誘導磁場の変化を表します。この過渡現象曲線を説明する地下の比抵抗構造を求めることになります。磐梯山でこのようにして推定した比抵抗構造の例を図4に示します。
図の左側に送信源があり、それからほぼ東西方向に飛行した測線上の比抵抗構造です。条件の良いところでは深度1000m近くまでの構造が推定されています。
  


 電磁気的な手法による地下構造探査は、計測される比抵抗値により岩石の硬軟や水の存在が推定できますので、地震発生地域や火山地域の構造探査に使われてきました。可探深度が100m程度では表層しか探査できませんが、それが1000m以上になれば、基盤岩中の断層構造や火山体中の帯水層の分布などの探査に利用できるでしょう。
また、これまでは地下構造を1次元(深度方向にのみ比抵抗が変化する)や2次元(走行方向には構造は一様)と仮定することが普通でした。その理由として、3次元構造の数値モデリングが難しいことや、非常に多くの場所で測定する必要があり、測定に多大な時間を要することが問題でした。前者は数値計算法の発展やコンピュータの計算速度向上により解決されつつあります。
しかし、モデリング技術が向上してもそれに入力する十分なデータがなければ妥当な構造は得られません。空中探査は、ほぼ等間隔のデータを短い期間に大量に得ることが可能であり、今後、詳細な3次元構造モデルを作成するためには必須の探査法であるといえます。
 地下の情報を正確に把握するためには、いろいろな地球物理的手法による探査データと合わせて総合的な情報を利用することが望まれます。航空機を利用し、電磁法だけでなく磁気、重力などのセンサーを同時に搭載すれば、一度の探査で複数の情報が得られるようになります。また、地表の温度分布が得られる熱赤外センサーや地表の変動を調べられる干渉SAR等の測定を同時にすれば、その熱源や変動を引き起こしている地下の原因を探ることも可能となるでしょう。このような他手法との協同探査は、航空機を効率よく用いることになり探査経費の点でも利点があり、空中総合地下探査法として将来の発展が期待されます。

参考文献:Mogi et al. 2009, Grounded electrical-source airborne transient electromagnetic(GREATEM)survey of Mount Bandai, north-eastern Japan, Exploration Geophysics, 2009, 40, 1-7.
*1:アナログ信号をデジタル信号に変換する回路
*2:透磁率の大きい合金に磁場をかけたとき、その抵抗率が変化する現象を利用して磁場の大きさを測るセンサー
*3:計測機器が常に一定方向に向くための台

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)12月号)

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