—新たな課題は現場から—
兵庫県南部地震(1995年)を起こした野島断層が、淡路島北西部で水田や道路をずらして延々と続く崖をつくり、メディアはその様子を連日伝えました。人々は、野島断層という名前と活断層という言葉を知ることになりました。初めて見る地表地震断層の姿に驚き興奮された若い研究者もおられると思います。
地震は、その後も毎年のように日本各地、世界各地で発生しており、その度に大きな被害を出しております。地震発生直後から震源地周辺の姿が、地上から上空からそして宇宙からも捉えられるようになり、地震はどのようにして起こったのか、どの活断層が活動したのかなどについて速報されるようになりました。しかし、調査観測が詳しくなればなるほど、これまでの経験・知識・情報・学説では、計り知れない事実も数多く見いだされ、特に活断層研究においては、新たな課題を背負っていることも確かです。
最近の10年ほどの間に発生した地震をみると、例えば、2000年鳥取県西部地震や2008年岩手・宮城内陸地震では、これらの地震を引き起こした顕著な活断層は見当たらないし、発生した地震の規模に見合った地表地震断層は知られていません。逆に1997年イラン北東部で発生した地震では、地震規模(Ms7。1)に対して、長さ100kmを超える地表地震断層が観察されました。また、断層の長さの割には、変位量は最大でも2.1mとこれまでの経験(変位量は、断層の長さの約1万分の1程度)から得た知識では予想以上に小さいものでした。こうした事実は、これまでの研究成果と照らし合わせると例外なのでしょうか。
活断層調査が進むにつれて、これまでの予測とは食い違う結果も得られていますが、同時に予想通りの研究結果もたくさん蓄積されてきています。現在の活断層評価は、30数年前の松田時彦先生の研究成果を手本として進められています。現場の事実から築き上げられてきた松田先生の成果を超えるには、さらなる事実の積み上げが不可欠です。真実は、“常に現場にある”、捜査官と同じくこの精神を忘れてはならないと思う日々です。
(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)11月号)