南海トラフ海溝型巨大地震の再来に備えるため、地震調査研究推進本部の方針に基づき先進的リアルタイム海底観測網である地震・津波観測監視システム(DONET)を紀伊半島沖東南海地震震源域に敷設する計画が進んでいます(図1)。
本システムは20点の観測点を稠密展開し、各観測点には広帯域地震計、強震計、高精度水圧計、差圧計、ハイドロフォン、温度計といったセンサー群を設置し、1944年/1946年昭和東南海地震/南海地震、1854年安政地震の破壊開始域である東南海地震震源域の地殻活動を高精度・広帯域でリアルタイムモニタリングを行うものです。
本システム(図2)は、基本ケーブル、分岐装置、センサー群を基本として構成されており、冗長性、置換機能、拡張性を有しています。こ
れらの機能により数十年を想定したシステム機能の維持管理を図り、南海トラフ海溝型巨大地震の地震予測モデルの高度化、地震・津波の早期検知の高度化を目指します。
本システムの特徴である多種センサーの稠密展開による、地震予測高度化や地震・津波の早期検知の高度化の考え方は、南海トラフ海溝型巨大地震に特化したものではありません。2004年のスマトラ大津波地震(図3)をはじめとした一連の巨大地震多発域であるインドネシアや遠地津波被害が想定されるスリランカ、海溝型地震の再来が危惧される中米コスタリカ、津波被害が想定されるイタリア・シシリー海域、1999年のトルコのイズミット地震後、その西方延長に位置するイスタンブル周辺域での地震発生が危惧されるマルマラ海域(図4)、1999年の集集地震をはじめとした被害地震が多発する台湾といった世界の被害地震発生地域においても、リアルタイム海底観測網の整備は必要不可欠です。
これらの国々や地域において、今後の地震・津波への備えとして、海底観測に関する多くのワークショップが開催されており、防災・減災への関心が強い国や地域から各ワークショップに招待され、DONET の有効性やシステムならびに期待される成果等について紹介しています(表1)。これらのワークショップでの講演を通じて、DONETによる「地震・津波の早期検知」ならびに「地震予測モデルの高度化」を具体的に説明し、その重要性をアピールし、防災・減災への提言を行っています(図5)。
また、DONET は世界でも例のない広域かつ稠密に多種のセンサー群を展開し、高精度・広帯域なリアルタイムモニタリングを実現する最先端システムであり、今後同様のプロジェクトを計画、検討している国や地域より技術協力も期待されています。
このような先進的な地震研究・観測技術の活用による国際貢献は地震研究先進国である我が国の責務であると考えています。
その目的や機能は様々ですが、海底観測網の整備は国際的にも計画が進んでおり、欧州ではESONET(European Seafloor Observatory
Network)(図6)、イタリアグループをはじめとしたEMSO(European Multidisciplinary Seafloor Observation)ならびにカナダ・米国のPTUNE
(North-East Pacific undersea Networked Experiments)(図7)といった海底観測ネットワークプロジェクトが開始されています。また、台湾においても海底観測ネットワークであるMACHO(Marine Cable Hosted Observatory)プロジェクトが立ち上がっています。
DONET はこれらの国際観測ネットワークプロジェクトと連携し(図8)、研究者・技術者の交流や具体的な技術提言を推進し、さらなる国際的な海底観測網の展開とデータ活用の推進を目指しています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)11月号)