目指した調査研究の潮流
地震調査研究推進本部が発足してから14年が経過しようとしています。筆者は、発足当時に政策委員を拝命し、地震本部(当時は推本と呼んでいた)活動に参加してきました。私の古い手帳によると、平成7年(1995)6月29日「科技庁政策委(15−17)」、7月18日「科技庁政策委(10−12):変更7月17日」とあるので、このあたりが最初の政策委員会であったようです。私にとって最も感慨深いことは、高感度地震データの一元化が実現し、GPS等の他のデータも含めデータ流通・公開システムが整備されたことです。これに関わってきた一人として、当時の事務局・関係者の多大なるご尽力に改めて敬意を表したいと思います。
政策委員会の活動は実に多彩であり、かつ重要なものばかりです。とくに「総合的かつ基本的な施策(総合基本施策)」は10年間程度を見通した本部の活動の指針となるものです。今年の4月に、新総合基本施策が策定されました。策定にあたっては、地震学、地球物理学、地形学、地質科学、地震工学、社会科学、災害科学などの専門家に、ジャーナリストや社会活動家も加わり、広い角度からの議論がありました。その成果を一言で私なりにまとめるとすれば、総合的地震防災を強く意識した地震調査研究の方針であろうかと思います。
日本と同様、地震・津波災害に苦しめられている国は、インドネシア、中国、トルコ、フィリピンなど多くあります。我が国の先端的地震防災科学技術がこうした国々にも広く普及することが望まれます。この点に関しては、画期的な動きがあります。科学技術外交の一環として、JST(科学技術振興機構)とJICA(国際協力機構)とが協力し、アジア・アフリカ諸国を中心とした2国間科学技術協力事業が始まっているのです。地震・津波・火山防災に関しては、インドネシア、フィリピン、南アフリカ、ペルーでのプロジェクトが始まろうとしています。
このJST−JICAプロジェクトの特徴は、単なる地震・津波・火山科学の調査研究にとどまらず、防災工学や防災社会学などを含み、総合的地震防災科学技術の研究開発及びその社会実装という位置づけとなっていることです。この意味で、地震本部が目指そうとする方向性が我が国から海外にも拡大しつつあるとも言えるでしょう。
最後になりますが、政策委員会の下に新たに設置された総合部会でもこのような方向性を軸に、諸活動を推進していきたいと考えています。地震本部の活動の成果を自治体・国民に向けどのように発信し、活用を促進していくのかも重要な課題です。この点については、自治体関係者や国民の多くの方々からのフィードバックは欠かせません。皆様方からの多くの意見を期待しています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)8月号)