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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 精密制御震源(アクロス)システム

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)7月号)


 アクロス(ACROSS)システムとは、精密に制御された地震波を長期間継続して送信することにより、地下構造の時間変化を捉えることをめざしたシステムです。現在大学や気象研究所などによって、淡路島の野島断層近傍や東海地震の震源域直上の愛知県東部や静岡県で観測実験が進められています。震源付近の応力の増減や固着の変化によって地下を伝わる震動の特性が変化することが期待されているため、その変化をとらえるととも変化の原因を特定するための技術開発研究が行われています。本稿では、その基本コンセプト・研究の現状と今後の展望について解説します。



 地震調査研究の大きな成果の一つである地震発生の長期評価では、過去の地震発生履歴に基づいた長期的な地震発生の確率予測がされています。この予測の精度をさらに高めるためには、実際に日本列島で進行している現象を観測し、プレート境界や活断層などの
地震を発生させる場所の状態が、地震発生サイクルのどの段階にあるかを把握する必要があります。
 一般に、地震発生は、
 プレート運動により地殻が変形し、
 プレート境界面や活断層に働く応力が増加し、
 応力が断層面における摩擦強度を超えると、
 地震が発生する、
 というプロセスです。それぞれの現象を観測によって捉えることにより、地震の発生予測精度を高めることが可能となります。のプレート運動と地殻の変形は、全国に1300箇所以上設置されているGPS観測網によって知ることができます。の応力増加は直接測定することは困難ですが、応力の増減と考えられている地震活動の変化や、ひずみ計・GPS計測を用いて推測できる可能性があります。の地震
発生は、地震計、GPS、合成開口レーダなどのデータを解析することにより、断層面がどのように滑ったかについて非常に精度良く推定することができるようになりました。
 アクロスは上記の4項目のうち、まだ手の着いていない の把握をめざしたシステムです。岩石の滑り実験や理論的な考察によると、地震の断層は、断層面が滑って地震を発生させた直後は固着が弱いものの、時間とともに固着が増加していき、地震発生直前の応力が高まった状態で、再び固着のゆるみが発生すると考えられています。この固着の強さの変化は、最近の実験により断層を通過する弾性波※の振幅に現れることがわかってきました。断層を通過する弾性波の振幅が変化するということは、断層面での反射波の振幅も変化することが期待できます。実際、固着の強いアスペリティと呼ばれる領域では弾性波の反射が弱いことも徐々に明らかになりつつあります。



 上記の目的のため、大学や気象研究所が淡路島や東海地域にアクロスの震源を設置しています。また原子力研究開発機構が岐阜県の土岐市に設置している震源の信号も研究に用いられています。これらの震源装置は、おもりを回転させることによる遠心力によって力を発生します(図1および図2)。
遠心力を用いた震源装置は、従来も建築・土木などの分野で用いられていましたが、アクロスの震源は安定性と耐久性を飛躍的に高めたものです。そのため、標準時計(GPS時計)に同期させ、揺らぎの少ない弾性波を発生させる安定性の高いものになっています。
数年にわたる連続運転にも耐えることが実証され、耐久性の高いものになっています。
 高い安定性は、地下構造の微小な変化を捉えるために必要です。発生する信号が不安定だと、その変化が地下構造によるものか、震源によるものかがわからなくなるからです。また耐久性が必要な理由は言うまでもありませんが、断層面の固着の変化は緩やかであるため、長期的にも安定した信号を出すことができる必要があるからです。




 私たちは、淡路島および東海地震の震源域において実験を進めています。淡路島の野島断層近傍では兵庫県南部地震後にアクロス震源を設置して実験を始めました。いくつかの予備的な実験の後に2000年1月から15ヶ月の連続運転を行い、その期間に発生した有感
地震による地下構造変化を捉えることに成功しました。変化は、強震動による深部地下水の移動と解釈することができました。またその後の繰り返し運転により、長期的には地震波速度と振幅が増加するという傾向を得ています。
 一方、東海地震の震源域では、愛知県豊橋市と静岡県森町に名古屋大学と気象研究所がそれぞれ震源装置を設置しています。それらの観測を進めるとともに、先行して設置されていた土岐市の震源の信号を用いて、50km離れた愛知県鳳来の地震でとらえた記録に見られる時間変化の解析を行っています。その結果、深部のプレート境界付近を通過してきたと考えられる波の伝播速度に長期的な時間変化が見られることがわかりました。現在、この変化が低周波微動や短期的スロースリップと関係があるかどうかの検討を進めているところです。


 アクロスのような定常的な震源を用いて断層の固着の変化を把握する手順を図3に示します。ターゲットとする地域は、地下構造が詳しく調査されている必要があります。アクロスでは地下構造の時間変化を把握するわけですから、あらかじめできるだけ正確な地下構造がわかっていなければなりません。そのような地域に複数のアクロス震源と多くの地震計を配置し、地震計で記録する信号の変化から断層の固着変化を推定します。固着の変化は断層面の固さの変化として検出できるほか、断層周辺の応力変化にともなう地震波速度や異方性の変化として捉えられることが期待されます。
 震源と地震観測点の記録を用いた逆解析手法については開発が必要ですが、現在、比較的狭い範囲をターゲットとして扱うことのできる、火山における手法の開発に着手しています。

※弾性波:固体の中を伝わる波。地下を伝わる弾性波は、地震波とも呼ばれる。

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)7月号)

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