パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 新総合基本施策の審議を振り返って(長谷川昭)

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)7月号)



 地震被害軽減を目指した我が国の地震調査研究は、1995年兵庫県南部地震以降、地震本部が策定した「総合基本施策」に基づいて進められてきました。その結果、「全国を概観した地震動予測地図」の作成、「緊急地震速報」の運用開始など、総合基本施策に掲げられた当初の目標がほぼ達成されるなど、大きな進展がみられました。しかし、その総合基本施策の策定からほぼ10年が経過することから、将来を展望した新たな地震調査研究の方針を示す「新総合基本施策」を策定することとなり、その取りまとめのため「新しい総合的かつ基本的な施策に関する専門委員会」が政策委員会の下につくられました。
 一昨年の10月から延べ13回にわたる専門委員会での審議に基づき、新しい総合基本施策が取りまとめられ、本年4月に地震本部において「新たな地震調査研究の推進について—地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策—」として策定されました。我が国の地震調査研究は、今後はこの施策に則って進められることとなります。

 専門委員会で新総合基本施策を取りまとめるうえで基本としたのは、「総合基本施策に基づき地震本部でこれまで進めてきた調査研究の成果と課題を抽出し、それを踏まえて将来を展望した新たな地震調査研究の方針を示す」ということでした。将来を展望したとき、具体的にどのような施策が考えられるか、関係機関へのアンケート、専門家からのヒアリング、インターネットを利用した一般の方々からの意見募集、委員会での時に喧々諤々の議論を交えながらの長時間にわたる審議を通して、検討を進めてきました。新総合基本施策は、このようにして取りまとめられたものです。今、委員会での審議を振り返ると、作業を終えてほっとするとともに、衆知を集めれば何とかなるものだとつくづく感心しているところです。(貢献していただいた多くの方々に感謝いたします。)
 地震本部による調査研究の大きな成果の一つに、地震発生の長期評価があります。それによると、東南海地震・南海地震の今後30年の発生確率は極めて高く、それぞれ60−70%および50−60%です。中央防災会議の被害想定では、最大で死者約15,000人、経済損害約52兆円が見込まれています。特に、東南海地震が単独で発生した場合には、次の南海地震の発生が極めて近いことから、復興工事にも支障が出るほどのパニックが生じることも懸念されています。
 委員会で最初に議論となったのは、発生した場合に甚大な被害が予測されるこれらの地震、いわば国難に、国としてどう対処するかということでした。10年後には、地震発生が目前に迫るという深刻な状況になっているはずであり、それにきちんと対応できるよう今から施策を着実に講じていくことが国の責務です。このような認識に立って、被害を軽減させるためには、どのような調査研究を推進すべきか、熱心な議論が行われました。

 その結果、当面10年間に取り組むべき基本目標の第一番目に、「海溝型地震を対象とした調査研究による地震発生予測及び地震動・津波予測の高精度化」を採り上げることとしました。これには、海底下にリアルタイム稠密地震・津波観測網を整備することが必須となります。陸域の基盤観測網に加え、海底下にも稠密観測網を整備すれば、緊急地震速報・津波警報の精度を現在よりも格段に向上させることが可能となり、地震直後の適切な避難を促すなど、相当の被害軽減が期待されます。それとともに、プレート間滑りの進行状況を高精度で把握し、地震発生に至る推移予測を目指すこととしました。それにより、社会の種々のレベルで地震への備えが着実に促進されると期待されます。
 沿岸域を含めた陸域の地震は、直下に起こることから、ひとたび発生すると大きな被害を引き起こします。一方で、活断層に関する基礎的情報はまだ充分には整備されていません。活断層の情報が整備され、地震を起こす断層がどこにあって地下でどんな形状をしているのか、自宅との位置関係が分かる程度の詳しさで地図上に表示してあれば、国民一人ひとりの意識の向上にも役立つはずであるなど、多くの議論が行われました。その結果、基本目標の二つ目として、「活断層等に関連する調査研究による情報の体系的収集・整備及び評価の高度化」を掲げることとしました。活断層調査や強震動予測などを進めることにより、現在の「全国を概観した地震動予測地図」を高度化し、その詳細版をつくるとともに、活断層の位置などの情報を地図上に詳細に記した「活断層基本図」を作成することを目指します。
 地震調査研究の成果が被害軽減に有効に活かされるためにはどうしたらいいか、委員会では多くの時間を費やして活発な議論が行われました。本来は、国の地震防災・減災対策の中に地震調査研究と地震防災研究とがきちんと位置づけられ、それらを含め一体として地震防災対策を策定するべきです。現状は形式的に一応それに近い構図になっているとはいうものの、実際には、地震本部の総合基本施策はあくまでも地震調査研究の方針のみを示すものです。そのため、調査研究の成果が被害軽減に有効に活かされるという点が課題となっていました。そうは言っても、地震本部の所掌範囲はそのように法律で規定されています。
 そこで、これまでの経験を踏まえ、地震調査研究の成果が有効に活かされるよう、可能な範囲で工夫をしました。すなわち、当面10年間に取り組むべき基本目標の三つ目として、「防災・減災に向けた工学及び社会科学研究を促進するための橋渡し機能の強化」を掲げることとしたのです。これは、地震防災研究に活用できるように地震調査研究の成果を整理・提供することや、地震防災研究に必要なデータを体系的に収集して被害軽減に役立てることを目指しています。さらに、E−ディフェンスを用いた構造物の応答に関する研究など、調査研究の成果を被害軽減に繋げるために必要となる研究も、地震本部で促進することとしました。
 今後は、この「新総合基本施策」に基づいて地震調査研究が着実に推進され、被害軽減に結びつく多くの成果が得られることを期待します。




(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)7月号)

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する