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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 新たな地震調査研究の推進について

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)5月号)


 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機に、地震に関する調査研究を一元的に推進する地震本部が設立されました。平成11年4月には「地震調査研究の推進について—地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策—(以下、「総合基本施策」)」が策定され、その下で、我が国の地震調査研究は一定の成果を上げてきました。
 一方、それから10年程度が経過し、地震調査研究を取り巻く状況は変化しつつあります。例えば、東海・東南海・南海地震や首都直下地震等の甚大な被害を生じさせる地震が今後30年程度の間に高い確率で発生すると予想されるようになりました。こうした地震災
害から国民の生命・財産を守り、豊かで安全・安心な社会を実現するという国の基本的な責務を果たすため、この10年間の環境の変化や地震調査研究の進展を踏まえつつ、将来を展望した新たな地震調査研究の方針を示す「新たな地震調査研究の推進について—地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策—(以下、「新総合基本施策」)」を地震本部において策定することとしました。本施策は、今後の地震調査研究の基本となるとともに、地震本部の活動等の指針となるものであります。


 平成11年4月に策定した総合基本施策において、当面推進すべき地震調査研究等として示した課題は、この10年間、国、関係研究機関、国立大学法人等が連携・協力した体制の中で、いずれも一定の成果が上げられたと言えます。

(基盤観測網の整備)
 高感度地震観測網やGPS観測網等、 世界的にも類を見ない全国稠密かつ均質な基盤観測網が整備されるとともに、その観測データの幅広い流通・公開が実現しました。

(基礎研究の推進による知見の獲得)
 科学技術・学術審議会の建議等の下、基盤観測網等で得られる観測データを基に、低周波微動やスロースリップ現象の発見、アスペリティモデルの構築等、地震発生メカニズムの解明に繋がる新たな知見の獲得が進みました。

(全国を概観した地震動予測地図の作成)
 全国110の主要活断層帯及び主要な海溝型地震を対象とした調査観測・研究をもとに、地震の発生場所、規模、将来的な発生確率についての評価を行い、順次公表しています。さらに、平成17年3月に長期評価や強震動評価等の結果を統合した「全国を概観した地震
動予測地図」を作成・公表するとともに、最新の成果に基づいて毎年更新を行っています。

(緊急地震速報の開始)
 地震発生直後に震源に近い観測点で観測された地震波を解析して、震源や地震規模を即時推定する技術が開発され、強い揺れが発生する直前にその予測結果を知らせる緊急地震速報について、気象庁が平成19年10月より一般への提供を開始しています。


 総合基本施策の策定から約10年間が経過し、我が国の地震調査研究を取り巻く環境は変化してきています。例えば、この10年間でも大きな被害を伴った地震が幾つか発生し、長周期地震動による構造物等への影響や、ひずみ集中帯や海底活断層で発生する地震の存
在が強く国民に認知されるようになりました。また、インドネシアのスマトラ島沖で発生した地震・津波災害や中国四川省で発生した地震災害によって、地震多発国である我が国においても甚大な被害が発生する危険性があることを改めて認識させられました。


 これまでに地震本部が実施してきた長期評価や現状評価は、例えば、東南海地震のみが発生した後に南海地震がどのように発生するかというような、地震の詳細な切迫度についての情報を提供できる水準に至っていません。我が国の将来を見通したとき、国難となり得る東海・東南海・南海地震やそれらと前後して発生する可能性の高い地震を対象とした調査観測研究を強力に推進することは、最も重要な課題であります。
 また、活断層のごく近傍では、強震動のほかに断層のずれによる被害が生じることが考えられるため、活断層の位置形状の把握が重要ですが、現行の評価で用いられている活断層図の精度は必ずしも十分でありません。
 地震による被害を軽減するためには、理学、工学、社会科学分野の連携の下、具体的な調査観測研究、防災・減災対策に向けた取組を推進する必要があります。



 地震災害から国民の生命・財産を守り、安全・安心な社会を実現するため、将来発生し得る大規模な地震に関して、過去及び現在の地殻活動等を把握し、より精度の高い地震発生予測及び地震動・津波予測を実現します。
 当面は、今後30年間の発生確率が高いだけでなく、発生した場合に我が国の社会・経済活動に深刻な影響を及ぼす東海・東南海・南海地震や、それらと前後して発生する可能性の高い地震、さらに首都直下地震等に関する調査研究を総合的かつ戦略的に推進します。
 こうした調査研究の成果を確実かつ迅速に国民に発信することにより、国難というべき地震災害を生じさせるこれらの地震に対して、被害を最小限に抑えることの出来る社会の構築に積極的に寄与します。


(1)本施策の位置づけ
 新総合基本施策は、これからの30年間程度の長期を見通しつつ、当面10年間に取り組むべき地震調査研究に関する基本目標を示すとともに、その達成に向けた具体的手法、さらに研究推進のために横断的に取り組むべき重要事項等を提示する計画として位置づけま
す。
(2)「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」(建議)との関係
 新総合基本施策は、地震防災・減災の実現に資するため、政府として推進すべき地震調査研究の基本を定めた戦略的な計画であり、ここで示す基本目標の達成に向けては、科学技術・学術審議会の建議に基づく基礎的研究の成果を取り入れて推進していくことが必要であります。



(1)海溝型地震を対象とした調査観測研究による地震発生予測及び地震動・津波予測の高精度化
①総合的な調査観測研究
 現在の長期評価は、過去の地震発生履歴のみに基づいているため、地震の時空間的な連動発生の可能性等を評価できるものではありません。この状況を打破するためには、基盤観測網で得られた観測データ等を用いて、プレート境界の応力やすべり速度等の現状評価を高度化し、それらの成果を数値シミュレーションに取り込むこと等によって、地震発生の予測精度を向上させる必要があります。
 このため、基本目標として、
○海溝型地震の連動発生の可能性評価を含めた地震発生予測の精度向上
を設定し、その達成に向けて、「海域における重点的なリアルタイム地震観測網の整備」、「プレート境界の応力等の把握のための地震・地殻変動観測」、「海陸統合の地殻構造調査」、「海溝型地震の物理モデル構築のための調査研究」、「海溝型地震の発生予測手法の開
発」等を、科学技術・学術審議会の建議による基礎的観測研究の成果も活用しつつ、総合的に推進します。

②戦略的な防災・減災対策に資する取組
(a)地震動予測技術の高度化
 緊急地震速報は、大規模な海溝型地震が発生した場合の震源域近傍における大きな予測誤差が技術的問題として残されており、これを解決する一つの方法として、海域での地震観測網の強化が挙げられます。
 また、直接被害に結びつく地震動の諸特性の解明については、全国を概観した地震動予測地図の作成等を通じて、ある程度の成果があったと言えますが、詳細については未解明の課題も多く、長周期地震動に関する調査研究や、軟弱地盤の挙動把握、人口稠密地域における強震動予測の高精度・高解像度化等を実施していく必要があります。
 このため、基本目標として、
○震源破壊過程の即時推定技術及び各地域の特性に応じた強震動予測の高精度・高解像度化、並びにそれらの適用による緊急地震速報の高度化
を設定し、その達成に向けて、「海域を中心とした地震観測網の強化」、「各地域の特性に応じた地盤データの収集」、「海溝型地震により発生する強震動に関する調査研究」、「地震動の即時予測技術の高度化」、「海溝型地震を対象とした強震動シミュレーションの高度化」
等を総合的に推進します。
 なお、緊急地震速報の高度化については、沿岸部や内陸の活断層で発生する地震に対する減災効果も図るべく、現行システムの技術的困難の克服を目指した研究開発等を推進します。
(b)津波予測技術の高度化
 津波災害軽減のために必要な津波予測には、地震発生直後に出される津波即時予測(津波予報警報)と、地震が発生する前に提供する津波予測があります。前者については、現在は地震発生後数分程度で津波予報警報が気象庁から発表されますが、その精度は必ず
しも良いとは言えません。発生直後に震源に近い海域で観測された津波データを即時に利用することが出来れば、津波即時予測の精度は格段に向上します。また、後者については、将来発生するであろう津波を、津波波源モデルの精緻化や浅海域の詳細な地形データの取得により高度化することで、地域住民や地方公共団体の防災・減災対策や実際に津波が発生した場合の避難行動や安全な土地利用を促す効果があります。
 このため、基本目標として、
○海域で観測された津波データの即時利用や津波波源モデルの精緻化による津波予測技術の高度化
を設定し、その達成に向けて、「海域における津波観測網の整備」、「海底地形・沿岸地質調査」、「海溝型地震により発生する津波に関する調査研究」、「津波の即時予測技術の高度化」等を総合的に推進します。

(2)活断層等に関連する調査研究による情報の体系的収集・整備及び評価の高度化
①総合的な調査観測研究
 活断層等に関連する基礎的情報は未だ十分に整備されておらず、そこで発生する地震については未知な部分も多く、一層の調査研究が必要とされています。
 例えば、首都圏では、地下構造が複雑で、多種の震源断層の存在が想定されているにもかかわらず、十分な情報が得られていません。今後はこうした地域に分布する活断層の詳細位置や地下の震源断層の形状を把握し、当該地域で発生し得る地震動の特性を明らかにする必要があります。このため、平成17年8月に策定された「今後の重点的調査観測について」において調査観測の対象とした活断層に加え、現行の評価結果において大規模地震の将来発生確率が高いとされた地域や大規模地震が発生した場合の社会的影響が大きいと予想される地域等を対象とした更なる調査及び評価を実施し、その結果を広く社会に提供することが重要となります。また、この10年間に被害地震が多く発生した沿岸海域及びひずみ集中帯を対象とした調査を実施し、発生し得る地震の規模と地震発生の可能性を評価していく必要があります。さらに、「地震に関する基盤的調査観測計画」において、調査対象に位置付けられていない短い活断層で発生する地震については、主に既存のデータを活用し、必要に応じ調査を行い、評価を高度化する必要があり、地表面に現れていない断層については、活断層が途切れる場所や活褶曲が分布する地域を中心に調査し、評価を実施する必要があります。
 このため、基本目標として、
○発生確率が高いあるいは発生した際に社会的影響が大きい活断層等が分布する地域を対象とした評価の高度化
○沿岸海域の活断層及びひずみ集中帯を中心とした未調査活断層の評価の高度化
○短い活断層や地表に現れていない断層で発生する地震の評価の高度化
○上記の3つの基本目標の実現による「全国を概観した地震動予測地図」の高度化及び活断層の詳細位置図に各種調査・評価結果を記した「活断層基本図(仮称)」の作成

を設定し、その達成に向けて、「活断層の詳細位置把握のための調査」、「地下の断層面の詳細かつ三次元的な位置形状の調査」、「断層活動履歴に関する調査」、「地震発生の危険度評価の高度化」、「地域特性を反映した強震動予測評価に関する研究」等を総合的かつ効率的に推進します。

(3)防災・減災に向けた工学及び社会科学研究を促進するための橋渡し機能の強化
①総合的な調査観測研究
 防災・減災対策を進めていく上で、地震調査研究と地震防災研究は車の両輪であり、その一方が欠けては社会に還元できる成果とは成り得ません。したがって、地震調査研究の成果を地震防災・減災対策に役立てるため、地震ハザード研究をリスク評価に効果的・戦略的に結びつける等、その成果を工学的・社会科学的な研究へ強力に橋渡しすることが必要となります。
 これら両者の研究を繋ぐためには、地震調査研究の成果をただ公表するだけでなく、成果を工学・社会科学研究の側が有効に活用できなければなりません。
 このため、基本目標として、
○工学・社会科学研究の観点での地震調査研究の成果情報の整理・提供
○地震被害軽減に繋げるために必要となるデータの体系的収集・公開及びこれらを活用した工学・社会科学研究の促進

を設定し、その達成に向けて、「工学・社会科学的な研究のニーズの把握」、「工学・社会科学的な研究に活用可能な各種ハザード情報の整理」を推進します。
 また、地震調査研究の成果を地震被害の軽減に繋げるために必要となる、「強震観測による地表及び構造物等の地震動波形データの取得」、「実大三次元震動破壊実験施設(E−ディフェンス)等を用いた地震動による構造物等の応答に関する研究」、「構造物等の被害を高精度で推定するための研究」、「リスク情報を提供するシステムの構築」等を地震本部として促進します。


(1)基盤観測等の維持・整備
 これまで整備された基盤観測網は、世界的にも類を見ない稠密かつ高精度な観測ネットワークであり、地震調査研究を推進する上で、最も基盤的かつ重要な観測設備でありますが、他方、強震観測網のリアルタイム化や広帯域地震観測網の展開等、残された課題も存在します。このため、
○海域のリアルタイム地震・津波観測網の整備
○陸域の稠密基盤観測網の維持管理・ 強化

を横断的に取り組むべき重要事項として位置づけます。
 これまで、基盤観測網の整備は、国立大学が既に保有していた観測設備を除き、地震本部の方針等の下で国が計画的に実施してきましたが、国立大学の観測設備については法人化に伴う経費節減により、その維持管理が困難になっているので、大学等の観測網が全
体として維持できるように努めます。
 一方、機動的観測は、今後、運用時における研究機関の連携を一層強化するとともに、特定の研究機関の支援等により、観測機器の維持管理・更新がより合理的に実施できるような体制の整備を推進します。
 衛星観測技術や海底地殻変動観測技術は、今後の地震調査研究の進展に大きく貢献すると期待されるため、解析技術の普及と向上のための取組を推進します。
 なお、これらの基盤観測等から得られる観測データについては、地震調査研究をより一層発展させるために、円滑なデータの流通・公開を一層促進します。
 また、地震活動と火山活動は同じ海洋プレートの沈み込みに起因する自然現象であり、地震現象を総合的に理解するために、火山に関する研究を考慮した効率的な観測点配置とすることにも留意します。

(2)人材の育成・確保
 地震は社会生活と関連した自然現象であり、地震調査研究を実施する上では、単に地震現象の理学的な理解のみならず、工学、社会科学的な理解も必要となります。このため、「大学における理学・工学・社会科学の複合的教育の実施」、「若手研究者向けの研究資金制度の活用」等の推進により、地震調査研究を軸に他の分野にも造詣のある新しいタイプの研究者を、関連する学協会等と連携しながら、育成・確保します。
 また、地震調査研究に携わる優秀な人材確保のためには、地震調査研究が知的好奇心を刺激する研究であるとともに、その研究成果は地震による被害の軽減に役立つということを、関係機関が協力して確実に社会に広めていく必要があります。このため、「研究者による積極的なアウトリーチ活動」等を促進します。さらに、児童・生徒の理科離れが進んでいることも懸念されていることから、理数教育の充実に努めます。
 国民が地震調査研究の成果を十分に理解し、防災・減災対策の具体的な取組に結び付けていくには、研究成果を分かり易く伝えられる人材が必要となります。このため、学校や地域の防災教育の担い手として、「橋渡し的な役割を担う専門家の育成」、「大学の学部学生や大学院生、若手研究者等が活躍できるような環境を確保・整備」等を促進します。

(3)国民への研究成果の普及発信
 地震調査研究の成果を着実に国民や地方公共団体等の防災・減災対策に繋げていくためには、地震調査研究の目標や成果を分かり易く国民に示し、地震に関する正しい理解を得られるようにするとともに、地震の発生に伴う被害の認識や、それに備えるための防災・減災対策の必要性等に関する意識向上に繋げ、具体的な取組に結びつけていくことが重要であります。このため、「国や地方公共団体等の防災関係者、民間企業、NPO等に対する研究成果の説明会やその利活用に関する研修の実施」等により、地震調査研究の成果の情報提供・成果発信の多様化・充実を図るとともに、「地震調査研究の成果の利活用や社会への普及啓発を効果的に行う手法の研究」、「研究者による成果普及啓発活動やサイエンスコミュニケーション等の多様な活動の強化」等を推進します。
 さらに、普及発信と並行して、研究成果の国民や防災機関への浸透度及び防災対策促進への寄与度に関する調査や、国民や地方公共団体等のニーズの把握を行い、今後の地震調査研究計画に反映させていくことが重要であります。

(4)国際的な発信力の強化
 我が国はこれまでに地震災害に関する様々な知見を蓄積しており、世界各国で発生する地震災害に対して、地震発生予測や緊急地震速報等に関する知見や技術を積極的に提供し、地震防災・減災分野での国際貢献に努めていくことにより、国際的な発信力を高めることが極めて重要であります。その一環として地震本部も地震・津波に関する研究成果を、人的交流等を通して広く発信していきます。このため、「二国間及び多国間での新たな枠組みによる地震・津波に関する共同の調査観測・研究」、「地震・津波観測データ等の相互の流通・提供」等を推進します。

(5)予算の確保及び評価の実施
 新総合基本施策で設定した基本目標を確実に達成するため、国、関係研究機関、国立大学法人等は、本施策に基づく地震調査研究の推進に必要な予算の確保に向けて、最大限努力します。
地震本部は、関係機関の地震調査研究関係予算の事務の調整を適切に行うとともに、新総合基本施策に基づき、地震調査研究の着実な推進が図られるよう、我が国全体の地震調査研究関係予算の確保に努めます。



 地震本部は、関係機関の協力の下、新総合基本施策に掲げられた基本目標等が確実に達成されるよう、「新総合基本施策に基づき各省庁で実施される事業の定期的なフォローアップ及び評価の実施」、「評価と予算との連動を意識した地震調査研究関係予算の事務の調整」等により、その役割を強化することを検討します。


 地震調査研究で得られた成果については、中央防災会議が策定する防災基本計画や各種地震に関する被害想定、さらには地方公共団体が策定する防災計画に適切に反映されるよう、これまで以上に関係機関等で成果が活用される体制の構築が必要であるため、「中 央防災会議や地方公共団体等と密接に連携・協力を図ることができる連携体制の整備」、「地震調査研究の成果を活用する側からの要請を、地震調査研究に積極的に反映し、確実に成果が活用されるようにするための仕組みの構築」等を行います。

(広報誌「地震本部ニュース」平成21年(2009年)5月号)

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