独立行政法人 防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター 中島 正愛
E-ディフェンスは、防災科学技術研究所の実大三次元震動破壊実験施設の愛称です。EはEARTH(地球)を表し、地球規模で地震防災をとらえるとともに、人々の生命と財産を守る研究開発への期待が込められています。E-ディフェンスは、平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震が契機となり、 これまでの実験施設では不可能であった実物大の構造物の破壊現象を解明することを目的として計画されました。平成12年1月の建設開始後、5年の歳月をかけて平成17年3月に完成しました。本稿では、E-ディフェンスを活用した耐震実験研究の現状と今後の展望についてご報告します。
E-ディフェンスは、防災科学技術研究所の実大三次元震動破壊実験施設の愛称です。EはEARTH(地球)を表し、地球規模で地震防災をとらえるとともに、人々の生命と財産を守る研究開発への期待が込められています。E-ディフェンスは、平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震が契機となり、 これまでの実験施設では不可能であった実物大の構造物の破壊現象を解明することを目的として計画されました。平成12年1月の建設開始後、5年の歳月をかけて平成17年3月に完成しました。本稿では、E-ディフェンスを活用した耐震実験研究の現状と今後の展望についてご報告します。
防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センターは、平成17年のE-ディフェンス(図1、表1)稼働開始以来、阪神・淡路大震災で見られた構造物被害や耐震補強の有効性等に着目した実大規模の構造物が破壊に至るまでの震動破壊実験を主体的に実施し、構造物の耐震安全性向上に繋がる実証データの取得・蓄積を進めています。ここでは、その代表的な実験を紹介しますが、詳しくは防災科研・兵庫耐震工学研究センターのWebページを参照下さい。
(URL:http://www.bosai.go.jp/hyogo/index.html)
木造建物は、国民に最も身近な構造物であり、兵庫県南部地震では倒壊による被害が多数発生しました。E-ディフェンスでは、耐震性の劣る既存木造住宅を、きたる大地震に備えるため、どのように対処すべきかを課題として、実大実験を実施しています。平成17年度には、同一の施工業者が同時(築31年)に建築した、同じ構法、構造仕様、劣化程度の住宅2棟をE-ディフェンス震動台上に移築し、一方はそのまま、他方は耐震補強工事を施し、震動台実験を行いました。兵庫県南部地震(震度7)で観測された地震波で揺らした結果、写真1に示すように、補強しない住宅(写真左の建物)では1階が完全に潰れてしまう一方で、耐震補強を施した住宅(写真右の建物)は、外壁や庇の落下などの損傷はあったものの、なおしっかりと立ち続けていました。本実験では、これまで得られなかった建物が倒壊する過程の映像や計測データの取得、耐震補強の有効性や耐震診断の信頼性の検証などの数多くの成果を得ることができました。さらに、本実験映像が実験直後の夜のテレビニュースで日本中に放送され、国民から大きな反響を得ることができたことは、E-ディフェンスがもつべき役割の一つを果たしたと言えます。
学校施設は、大地震時に、児童・生徒の生命を守るとともに、避難所としての役割が期待されるもので、構造物の十分な耐震性能のみならず、非構造部材・設備等を含んだ建物としての機能の維持が必要とされます。しかし、今なお耐震性能の低い学校施設は数多く存在しており、耐震改修促進は急務となっています。平成18年度には 学校校舎を模した3階建鉄筋コンクリート試験体2体で、E-ディフェンスで実大震動実験を実施しました。1体は既存の古い基準の設計のままであり、もう1体はまったく同様に設計施工した後に耐震補強(写真2参照)を施しました。震動実験では、兵庫県南部地震の神戸海洋気象台で観測された地震波を入力しましたがその結果、無補強の校舎は1階柱が破壊し、構造物としてはほぼ崩壊状態に至りました。一方で耐震補強を行った校舎は多少の損傷はあったものの健全な状態を維持することができました。なお、この実験では、室内に机椅子を配置し一般の教室内を再現しましたが、補強の有無にかかわらず什器類は大きく移動し、児童・生徒の安全性確保に関わる新たな課題を提示ました。
平成19年度には、平成17年春から開始した、米国NEES(Jorge Brown Jr. Network for Earthquake Engineering Simulation)プロジェクトとの共同研究の一環として、鉄骨造建物、橋梁構造物の実大実験を実施しました。特に、4階鉄骨建物の実験では、兵庫県南部地震における最大規模の観測地震波により、現行基準による設計であっても建物が層崩壊する事例(写真3)を示すとともに、崩壊に至るまでの耐震性能・余裕度について検証することができました。本実験結果は、関係学会が発行する設計指針改訂に反映されており、安心・安全な社会の実現に大きく貢献しています。
一方、基盤研究や技術開発の進歩、社会の変化に伴い、新たな知見や地震防災へのニーズが生まれつつあります。特に、東海・東南海・南海地震等の海溝型の大規模地震が引き起こす長周期地震動が高層建物等へ与える影響や大規模地震時における医療施設等・重要施設の機能を継続させるための研究が望まれるようになってきています。これらの課題に対しては、文部科学省からの委託研究「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」としてE-ディフェンスを活用して実験研究に取り組んでおり、平成19、20年度に実大実験を実施し、成果をあげています(「地震本部ニュース」平成20年(2008年)10月号参照)。
防災科学技術研究所は、E-ディフェンスを利活用した耐震工学研究の基本目標を、「地震災害から国民の生命・財産を守り、安全・安心な社会を実現するため、わが国で近い将来起こるとされている大規模地震に対する、行政・経済・教育・医療・暮らし等の機能を有する建物や、社会を支える産業施設・ライフライン等の構造物について、破壊を含む耐震性能・機能維持性能を、高精度に評価・予測できる技術(数値震動台)を実現するとともに、これらの研究成果を地震防災・減災に効果的に結びつける。」と定めています。E-ディフェンスを活用する今後の実験研究では、建築・土木構造物を始めとし、防災性向上が必要な様々な施設等を研究対象に、それらの破壊過程の解明と数値震動台の構築のために必要な基礎的・実証的データの蓄積を積極的に進めていきます。