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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 緊急地震速報の開発と将来展望
独立行政法人 防災科学技術研究所 堀内 茂木

 日本は世界に先駆け、信頼性の高い緊急地震速報システムを開発し、その運用を開始しました。東海、東南海、南海地震等の巨大地震は、将来必ず発生し、国家予算規模の甚大な被害をもたらすと考えられています。数値シミュレーションの結果は、緊急地震速報を普及させ、活用することにより、被害を大幅に軽減できることを示しています。しかし、現在開発されているシステムには、1)受信装置が高価で、普及が進んでいない、2)直下型地震に対応できない、3)精度の高度化、等の課題や技術的限界があります。本稿では、緊急地震速報システムの開発状況、課題、広く普及させるための展望について述べます。


 防災科学技術研究所は、文部科学省「高度即時的地震情報伝達網実用化プ ロジェクト」等により、気象庁と共同で、緊急地震速報を実用化するための研究開発を行ってきました(詳細は、防災科研ニュース、2007年秋号,No.161,特集「緊急地震速報を支える防災科研の技術」をご覧ください)。緊急地震速報を早く配信するには、多くの観測点にデータが集まるのを待って解析 を行うことはできません。我々は、着未着法といって、地震検出後2〜3秒間で震源位置を推定する手法を開発しました。この手法は、地震を検出していないという情報を不等式で表し、数値的に解く方法です。この方法は、ノイズが混入した場合や、2個の地震が同時に発生した場合の対策にも応用でき、この結果、99%の震源位置がほぼ正確に決定できるようになりました(図1)。また、震度をより正確に推定するための新しいパラメータ(震度マグニチュード)の開発にも成功しましたが、これは緊急地震速報には未だ導入されていません。
 緊急地震速報の一般運用では、震度5弱以上の揺れが予測される場合、テレビやラジオで警報が放送されることになっています。しかし、これまで5弱以上の地震でも、予測精度の関係から緊急地震速報の警報が発表されない場合がありました(このような場合でも緊急地震速報の予報は発表されています)。地震の揺れの強さは、地盤により大きく変わり、100m程度の違いで、揺れが数倍変わる場合があります。また、断層の向きや、断層運動の伝播方 向等により、揺れの分布が変わります。
これらの影響で、震度の推定には誤差が生じます。この誤差のため、震度5弱前後の地震の警報が発表されないことがあるのです。しかし、約10年間分 の過去のデータを使った私の見積もりでは、大きな被害をもたらす震度6以上の地震の場合に限れば、90%程度の確率で、マグニチュード8の地震の場合には、ほぼ100%の確率で警報配信が行われます。


 現在の緊急地震速報には、震源までの距離が30km以内の直下型地震の場合、情報が間に合わないという技術的な限界があります。間に合わない範囲を10km程度以下にするには、現在の10倍以上の観測点が必要です。防災科学技術研究所は、民間企業と共同で、緊急地震速報の受信装置に、安価な民生用の地震計を組み込んだ受信装置を開発しました。内蔵の地震計を用いたいわゆるオンサイトのウォーニング機能も含まれています。
安価な地震計でも、震度をほぼ正確に測定できます(図2)。
このような装置が普及すると、伝達が間に合わない範囲を狭め、地震への対応がさらに進むことが期待されます。  現在の緊急地震速報は、点震源モデルで震度を計算しています。このため、断層が100kmを超える巨大地震の正確な揺れの予測は困難です。この課題は、震源とマグニチュードのみを配信する現方式では決して解決できません。
しかし、各観測点の揺れの情報をリアルタイムで流通させる仕組みができれば、解決は意外に容易です。なぜなら、ユーザーが位置する地点での揺れは、その近傍や周辺に位置する観測点の揺れから、容易に予測できるからです。長周期地震動が自分の近くの観測点で大きければ、エレベータを止めればよいのです。インターネットが高速化されているので、観測点情報の流通が可 能となれば、防災上有益な活用が促進されると思われます。  データ流通の重要な効果は、多くの国や民間の研究者が研究に参画できる点です。震源とマグニチュードだけを配信する現方式では、参画する余地がありません。しかし、観測点情報を利用できれば、例えば、ある特定の高層ビル用に、長周期地震動等の最適予測システムや制御システム、被害軽減システム等を構築できます。観測データの中には、雷や、工事による各種ノイズも含まれていますが、今後、ノイズの除去が、信頼性の高い観測点情報の流通では大変重要です。




 現在の緊急地震速報のもう一つの課題は、安価な緊急地震速報受信装置の開発が遅れている点です。緊急地震速報は、大多数の国民に伝達されて、初めて有効に機能するシステムです。テレビやラジオによる放送とともに、国民一人ひとりが直接知る機会を得ることが自らの安全・安心の向上に重要と考えられます。一般に、多くの国民は日々の生活に追われ、防災に投資する のは後回しになりがちです。安価な受信装置の開発には、日本全国、どこでも容易に、遅延時間なしで受信できる緊急地震速報(災害)専用放送が不可欠であると思われます。受信に外部アンテナが必要だとコストがかかります。
時刻の専用放送は、安価で、高精度な大量の電波時計を生み出しました。同様に、災害放送が開始されると、それを受信する安価なチップが開発され、時計、火災報知機、玄関のチャイム、スピーカー等、多くの機器に組み込むことができます。チップに、安価な地震計が同時に組み込まれれば、オンサイトのウォーニング機能も利用できます。緊急地震速報は、大多数の国民に伝達されて、初めて有効に機能するので、それを可能とするインフラ整備は是非必要であると思われます。
 緊急地震速報の本格的な研究の歴史は浅く、試行錯誤で各種システムの開発が行われていますが、改良の余地は大きいと思われます。次の東海・東南海・南海地震(図3)発生までに、大多数の国民に緊急地震速報を伝達し、被害を確実に軽減できる体制整備を行う必要があります。

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