気象庁地震火山部管理課 松森 敏幸
緊急地震速報は、検知した地震波を迅速に処理し、強い揺れが到達することをその到達前に提供しようというものです。本稿では、一般向けに提供を開始してから1年を経過した緊急地震速報の発表状況及び利活用状況などについて報告します。
緊急地震速報については、平成19年10月から一般に提供を開始し、同年12月から“地震動に関する予報・警報”と法令上位置づけ、特に一般向 けの緊急地震速報については警報として気象庁にその発表の責任を負わせています(図1)。
気象庁が発表する緊急地震速報(警報)は、NHKをはじめテレビ・ラジオ(一部)による放送のほか、全国瞬時警報システム(J-ALERT)を通じた防災行政無線による放送(一部市区町村)や携帯電話(ドコモ、au)により国民に伝えられます。この警報は極めて短い時間内に伝えられる必要があり、最大震度が5弱以上と予測した地震について、全国を187に分けた地域ごとに予測した震度が4以上の地域名やその地域が属する都道府県名などを報じることとしています。
任意の地点での震度等の予測については民間事業者に委ねることとし、予測震度や猶予時間(主要動到達予測時刻から算出)の提供を、民間事業者が実施する「地震動予報業務」として整理し、当該予報事業を行う場合は気象庁長官の許可を得なければならないことについても法令に定めています。
気象庁は平成19年10月1日9時から一般向けに緊急地震速報の提供を開始後、平成20年9月末までに8つの地震について一般向けの緊急地震速報 (警報)を発表しています(表1)。
緊急地震速報が所定の機能を発揮した地震として、図2に事例3の平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震の際の緊急地震速報(警報)を発表し た時点での主要動の猶予時間を示します。この地震ではP波検知後4.5秒で警報を岩手県(全域)、宮城県(北部、中部)、秋田県(内陸南部、沿岸南部)、山形県(最上)に発表しています。その後、震源推定の見直しにより強い揺れがより広い地域に予測されたことから警報発表の17.9秒後(P波検知の22.4秒後)に、強い揺れの地域として、福島県(全域)などを追加した第2報を発表しています。(表2、図3)
この岩手・宮城内陸地震での緊急地震速報の利活用事例として、震度4を観測した秋田市で、専用端末からの緊急地震速報を聞いた一般の家庭において、テーブルの下に隠れ身の安全を確保できたというものや、福島県の伊達市にある保育園では、保育士がテレビの緊急地震速報に気が付き、部屋にいた園児を1箇所に集めて揺れに備えることができたという報道がなされています。
また、工場での活用事例としては、震度5弱を観測した宮城県大おお衡ひら村むらにある半導体製造メーカーでは、自動制御により、揺れの約12秒前に製造機械を停止したり、化学薬品の供給を遮断したりすることができました。さらに、交通の分野の活用事例として、仙台空港では、緊急地震速報の表示を参考に、管制官が航空機に対して上空で待機するよう指示したことが報告されています。
岩手・宮城内陸地震の時の秋田市の一般家庭や伊達市の保育園のように緊急地震速報を利活用し減災に役立てるためには、数秒から十数秒という時間でどう行動するか、事前に決めておきそれを日頃から訓練しておくことが重要です。写真1は7月4日に岩手県釜石市で行われた防災行政無線による緊急地震速報の訓練の模様です。この訓練では、住民に訓練時刻をお知らせせず、抜き打ち的に行われました。このように緊急地震速報を見聞きしたらどう行動するか、訓練を日頃から行うことで、とっさの行動ができるようになります。
緊急地震速報を見聞きした際は、「周囲の状況に応じて、あわてず、まず身の安全を確保する」(緊急地震速報利用の心得)ことを心がけましょう。ま た、緊急地震速報を見聞きできないまま、強い揺れにあった場合も、緊急地震速報を見聞きしたときと同じように周囲の状況に応じて、あわてず、先ず身の安全を確保できるようにしておきましょう。
最後になりますが、緊急地震速報にはその仕組み上、震源に近い場所では強い揺れに間に合わない場合がある、震度の予想に±1程度の誤差は避けられない、という原理的、技術的な限界があり、それを理解した上での利活用をお願いします。
(広報誌「地震本部ニュース」平成20年(2008年)11月号)