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新潟大学災害復興科学センターは、中越地震以降、新潟県防災局と連携し、復興期の課題解決ならびに効果的な災害対応に関わる知見の確立・発信を行 ってきました。平成19年7月16日10時13分の中越沖地震の発災を受け、新潟県災害対策本部会議(写真1)に陪席、助言を行う立場となった筆者ら研究者チームは、新潟県中越沖地震災害対策本部長である泉田裕彦知事の要請をうけ、産官学民チームを組織し、地図作成による状況認識の統一に関わ る支援を開始しました。この地図作成班の活動によって、わが国初の「災害対応の主体となる被災自治体内」における「産官学民連携チーム」による「災 害対応の意思決定における地図活用」が実現しました。
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まず着手したのは、支援チームを組織することでした。「産」については、中越地震におけるGISボランティア活動を契機として発足した、地元GIS関 連企業による連合組織「にいがたGIS協議会(代表・坂井宏子氏)」が参画、「学」については、新潟大に加え、京大防災研究所・林春男教授、生存基盤 ユニット・浦川豪研究員ら、「民」については専門ボランティアとして、GIS防災情報ボランティアネットワークや地域安全学会GIS特別研究委員会 等から人的資源の提供を得ることで、「官」である行政の対応支援が実現しました。
新潟県災害対策本部・総務班、情報政策課、管財課等と調整することで、災害対策本部脇に「地図作成受付」を1室、少し離れた場所に「地図作成工 場」を1室確保し、効果的な機能分化を実現しました(写真2)。受付では行政職員からの地図作成に関わる相談、データの作成方法の指導などが実施さ れ、ここにGIS企業のベテランメンバーを配置することで、行政情報の可視化が短時間で可能になりました。また、にいがたGIS協議会を中心とした企業 の厚意により、機材の確保・搬入が完了し、本格的に活動を開始したのが発災後3日目のことでした。
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また、これらの地図については、①被災市町村から新潟県災害対策本部への情報提供(FAX)、②地図作成班受付メンバーの指導を受けた新潟県職員による情報のデータ化、③地図作成工場による地図の作成・印刷、④災害対策本部会議資料として災害対応の意思決定に使用、⑤マスコミへの説明資料として使用・公開(写真3)、という手順が確立され、これらの過程を経ることで、被災地の復旧状況がどのようなものであるかを知るためのシンボル的な存在になりました。
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23日間の新潟県災害対策本部での活動は198種類463枚の地図を作成、終了しました(表1)。被災地での復旧・復興活動が本格化する中、地図作成班は次の活動の場を、被災市町村である柏崎市に移しました。柏崎市では、新潟県庁での応急期の活動とは違って、復旧・復興のために必要な情報を、より長いスパンで作成し、円滑な被災地対応を支援しました。柏崎市で作成した地図の一例として「被害集計図」(図2)を示します。建物被害程度ごと、地域ごとの被害を可視化することで、その後の施策展開と対応を考える上で、役立てられました。
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状況認識の統一には、他分野の専門性を有したメンバーからなる支援チームの存在が不可欠であることが明らかになりました。しかし、これらの技術を自治体独自で確保することは困難であることが想定されます。DMAT(災害派遣医療チーム)が、災害発生と共に急性医療を実施するチームを現地に送り込むための仕組みであるように、全国規模による支援チーム「EMT(Emergency Mapping Team)」を組織し、被災自治体への迅速な現地派遣の仕組みを考える必要があります。
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*地図作成班の活動は、「SAG(Special Achievement in GIS Award)賞」を受賞(GIS最大手のESRI社(米国)が「GIS分野において顕著 な功績を収めた団体」に贈るもの)した。また、にいがたGIS協議会が、平成20年度防災功労大臣賞を受賞
(広報誌「地震本部ニュース」平成20年(2008年)10月号)