国民が支える地震調査研究。
伝えることの大切さ忘れずに
伝えることの大切さ忘れずに
今から30年以上前、新聞社の科学記者として駆け出しの頃、「プレートテクトニクス」について記事を書いたことがあります。今でこそ日本列島に押し寄せるプレートの動きが地震の原動力になっていることは小学生でも知っていますが、当時はまだほとんど知られていませんでした。取材した研究者も「学界でもまだ必ずしも定説にはなっていない」と話していたのを記憶しています。
当時から考えると、地震に関する研究はなんと飛躍的に進んだことかと感じます。地殻変動の観測網の充実によってアスペリティ(固着域)やプレスリップ(前兆すべり)の解明が進み、プレート境界で起きる地震については地震発生のシナリオがかなり具体的に描けるようになりました。また、地震発生直後、大きな揺れが届く前にその規模や震度に関する情報をいち早く伝え、人々に注意を促す緊急地震速報も始まりました。
もちろんこうした成果は、研究者たちの地道な研究のたまものです。
しかし、そうした研究を支えてきたのは何よりも国民の意識の変化にあると思います。地震調査研究の最近の成果に、全国の主要活断層を評価した地震動予測地図がありますが、かつてはこうした地図は不動産価格への影響などから反対が強く、とうてい受け入れられないと考えられていました。それが今では当然のように受け入れられています。
むろん、そうした国民意識の変化の背景には、6400人あまりの犠庫県南部地震)や日本海中部地震、北海道南西沖地震などがあります。しかし、被害を受けなければ意識も変わらないと思うのはやはり考え違いでしょう。
研究の成果を国民にどう伝え、被害軽減にどう活かすかを考え続けることは、地震調査研究に携わる者にとって研究成果そのものと同じくらい重要なはずです。地震の調査研究では、基礎研究といえども被害の軽減という明確なミッションを背負っていることを忘れずにいたいと思います。
(広報誌「地震本部ニュース」平成20年(2008年)9月号)