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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究

(広報誌「地震本部ニュース」平成20年(2008年)5月号)




 日本列島は、プレートと呼ばれる硬岩盤がひしめき合い、地球上で最も地震活動が活発な地域のひとつです。
太平洋側では、日本海溝や南海トラフなどのプレー卜境界から海洋プレートが沈み込み、M8級の巨大地震が数十〜数百年おきに繰り返し発生します。
一方、日本海側や内陸部には明瞭なプレート境界はありませんが、局所的に変形が集中する「ひずみ集中帯」が存在しています。ひずみ集中帯では、蓄積される大きなひずみのために、活断層や活褶曲といった活構造が形成されます。最近、日本海沿岸部で、2004年10月新潟県中越地震、2007年3月能登半島地震、2007年7月中越沖地震と、相次いで大きな被害地震が発生しましたが、これらはいずれも、「ひずみ集中帯」で発生したものでした。


 ひずみ集中帯には、「新潟−神戸ひずみ集中帯」と「日本海東縁ひずみ集中帯」の2つがあります。前者は、国土地理院のGPS観測網(GEONET) によって検出された現在のひずみ速度の速い領域であり、後者は、過去300 約300万年前から大きな短縮変形が生じたことが地質学的に示されている領域です。
これらの2つのひずみ集中帯は新潟から長野付近で重なり、これらの領域に沿って過去に発生した大地震が分布しています(図1)。では、このひずみ集中帯は、どのようにして形成されたのでしょうか?
もともと日本列島はユーラシア大陸の一部でしたが、約2000万年前から日本海が拡大し、陸から切り離されました。そのときの張力場によって正断層が発達し、部分的には地殻が引き延ばされて薄くなりました。また、至るところで沈降が生じて堆積物が厚く堆積し、リフ卜と呼ぱれる堆積盆地を形成しました。
その後、約300万年前からこれまでの張力場から圧縮場に転じ、日本海拡大時に形成された正断層が、逆断層として再活動を始めたのです。
またこの活動によってリフトの堆積物が隆起し、褶曲地形を形成しました。これらの現象を、インバ-ジョン(反転)テク卜二クスと言います。このようにひずみ集中帯は、昔は引っ張り、今は圧縮の力を受け、地殻の中が非常に複雑になっているのですが、この地域だけにひずみが集中する原因については、まだ詳しくはわかっていません。
最近発生した日本海沿岸の3つの地震は、いずれも反転テクト二クスとしての逆断層運動によって発生したものでした。ひずみ集中帯には、活断層として明瞭な地殻の切れ目が地表まで達しているものと、地形的な撞みとしての活褶曲がありますが、活褶曲の深部では活断層が形成されている可能性もあります。従って、ひずみ集中帯で発生する地震の実体を探り、これらの地震の震源断層モデルを構築することが非常に重要なのです。



 政府の地震調査研究推進本部では、阪神淡路大震災を教訓とし、日本全国に基盤的な地震観測網を整備し、主要断層帯などの調査観測を精力的に進めてきましたが、「ひずみ集中帯」は明確な調査対象としては位置づけられておらず、地震調査観測の空白域でした。
しかし、相次ぐ被害地震の発生によって、この地域で発生する地震像を明らかにする必要が高まってきたことから、文部科学省では「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」を委託研究事業として5カ年にわたって進めることを決定し、独立行政法人防災科学技術研究所や国立大学法人東京大学地震研究所、京都大学防災研究所など合計11機関が参画し、6課題15項目にわたって調査観測研究を進めることになりました。


 この研究プロジェク卜の主たる目的は、東北日本の日本海側及び日本海東縁部に存在するひずみ集中帯の活構造の全体像を明らかにし、震源断層モデルを構築することにより、ひずみ集中帯で発生する地震の規模の予測、発生時期の長期評価、強震動評価の高度化に資することです。
また、ひずみ集中帯の形成メ力二ズムを解明するため、ひずみ蓄積速度の速い他の地域での比較研究も実施されます。例えば、火山は非常に大きなひずみ速度の場として知られており、ひずみ変化に基づく地殻変形や地震発生と地殻内不均質構造との関係、さらには流体との関係を解明するため、桜島火山等の地域での調査観測研究も、今回のプロジェク卜に含まれています。主たる調査観測研究内容は別掲のとおりです。
 この研究プロジェク卜により、ひずみ集中帯における震源断層モデルが構築され、地震動予測地図の高度化に反映されるなど、地震防災面での成果が期待されるだけでなく、ひずみ集中帯は典型的な内陸地震発生の場所であり、内陸地震の発生メカニズムを解明するための非常に重要なデータ及び成果を創出するものとして大きな期待が寄せられています。

自然地震観測
 新潟県などのひずみ集中帯の陸域及び海域において機動的地震観測装置を用いて稠密な自然地震観測を実施し、これらの地域に発生する地震の高精度震源決定を行い、地震波速度や非弾性係数の3次元的な分布を求め、地殻深部の断層構造に関する情報を取得します。そのため、陸域では約300台の機動的地震計を展開し、海域では自己浮上式、またはケーブル式海底地震計を設置します。
地殻構造探査
 陸域では起震車やダイナマイト、海域では工アガンと呼ばれる人工的な震源を用いて、地下から反射して戻ってくる波を観測し、地下構造をより詳細に調べることによって、震源断層の位置や形状に関する情報を取得します(図2)。
特に、平成21年度には、会津盆地西縁からひずみ集中帯を横切って大和海盆にいたる約300kmの測線に沿って海陸統合の探査をする予定です。また、日本海では5カ年で総延長10,000kmを超える海域探査を実施する予定です。上記以外に、GPS地殻変動観測、地形地質調査、古地震調査、強震動予測のための推積平野構造調査、震源断層モデル構築等が実施されます。




(広報誌「地震本部ニュース」平成20年(2008年)5月号)

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