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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 震災被害の状況を把握する 航空機搭載合成開口レーダ

(広報誌「地震本部ニュース」平成28年(2016年)春号)

調査研究レポート震災被害の状況を把握する航空機搭載合成開口レーダ

1.はじめに

 東日本大震災発生の翌日(2011年3月12日)午前8時ころの仙台空港周辺の様子を図1に示します。空港の滑走路や津波による冠水域を黒い領域として見ることができます。この図は航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)により取得したものです。合成開口レーダ(SAR)は上空から雲に遮られることなく、また夜間でも地上の様子をつぶさに観測することができるため、地震や火山、水害等の被害状況の把握に役立ちます。航空機搭載のSARは機動性が高く災害時の活用が期待されることから、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では、この目的に沿った航空機SARを開発してきました。


2.Pi-SAR2の概要 

Pi-SAR2は分解能として30cmを有し、かつ7km以上の幅を一度に観測することができます。図1は紙面の都合上、分解能を粗くしていますが、画像の領域は5km四方であり元の画像は2万×2万画素です。画像には色が付けてありますが、これはポラリメトリといって電波の振動面(偏波)の性質を利用したものです。垂直方向または水平方向に振動する電波を地表に当てると森林や農作物のように複雑な形状を有する事物からは偏波が変化する性質があり、人工物はあまり変化しません。これを利用して色付けをすると、植生(ここでは緑色)と非植生や人工物(ここではマゼンタ)等に識別されて容易に判読することができます。
 また、Pi-SAR2はアンテナを機体の外につけたポッドの中に入れていますが、図2のように左右2つのアンテナを有します。これにより地面の起伏を同時に測ることができます(インターフェロメトリ)。

図1 Pi-SAR2で観測した東日本大震災翌日の仙台空港周辺。5km×5akmの領域。ポラリメトリ機能を用いてカラー化している。赤枠は図4の領域。

図2  Pi-SAR2を搭載した航空機(ガルフストリームII)。翼下の2つのポッドの中にアンテナを収容。2つのアンテナで取得するデータの位相差は視差に起因することから、表面の起伏(高さ)を計測できる。

3.2004年新潟県中越地震 

 Pi-SAR2は2006年から開発を開始し2009年より本格的な運用を開始しましたが、航空機SARとしては、それまでにPi-SAR(初号機)を開発していました。これはPi-SAR2にくらべ分解能が1.5mであるほかは、ポラリメトリやインターフェロメトリの機能をすでに備えていました。Pi-SARは2000年の有珠山や三宅島の2つの火山噴火で災害状況の判断に有効なデータを提供することができました。そして2004年10月末に旧山古志村(現 新潟県長岡市)を震源に発生した、2004年新潟県中越地震では地震発生3日後に観測を行いました。その結果、図3のように地震による土砂崩れにより道路が崩壊した個所を明瞭に捉えたほか、さらに1週間後の観測を実施したデータの比較から、土砂崩壊による土砂ダムが発生して水が溜まった場所等の特定が可能でした。しかし、この地震は山岳地域に発生したこともあり、非常に多数の土砂崩壊を起こしていたのですが、SARデータからだけでは、それらの場所すべてを特定することはできませんでした。また、この地震直後は通信や道路、鉄道が不通となったため、せっかく観測した画像を現地に届けることが困難な状況でした。後に、Pi-SARの研究グループが画像を持って現地に赴いたところ、彼らが判読できなかった崩壊箇所でも現地の住民の方には容易に指摘することができたことが、Pi-SAR2開発のきっかけになりました。Pi-SAR2開発の主なコンセプトは、小さな土砂崩壊も判読できるように分解能を高くすることと、データを迅速に現地に渡すことです。

図3 Pi-SARで観測した新潟県長岡市の土砂崩れ場所(丸印)。2004年10月27日に観測。

4.東日本大震災 

 2011年3月11日、Pi-SAR2の研究グループは東京・小金井で大きな揺れを感じました。即座に航空機の手配と飛行計画等の準備を開始、航空機と機材がある名古屋空港に向けて車で出発し、空港に着いたのが翌早朝でした。そして午前7時に離陸、関東から東北にかけての太平洋岸を中心に観測を行いました。航空機の機内では、観測のための装置の操作のほか、コースの合間の時間には、記録したデータからいくつかの場所について少しずつ画像化する処理を進めました。正午頃、観測を終え名古屋空港に到着すると、画像化したデータを小金井のNICTに送り始めました。NICTではそれを速報画像として逐次Web掲載する一方、関係機関に直接メール等で送りました。図4はその速報データの一例です。図1と同じデータから仙台空港の一部を単偏波(白黒画像)で処理したものです。こうした機上処理の画像データは午後2時くらいまでには公開を終え、生データが小金井に到着後、フル処理を行ったカラー画像のデータを逐次Webに掲載していきました。  こうして、速報としては発災から24時間以内のデータの配布を実施し、新潟県中越地震の教訓の後半は達成されたかに思えましたが、東日本大震災の被害の領域があまりにも大きく、当時の機上処理では可能な画像領域が小さすぎる、また白黒では画像の判読性がかなり劣ることもあり、新たな課題として認識させられることになりました。


5.つぎに備えて

 東日本大震災後、上記の課題は処理の高速化をさらに進めることにより一応の解決を見ています。現在では偏波によるカラー画像化と広い領域を通常の機上処理として実現しており、図1のレベルの画像でも機上で数分のうちに作成できます。2014年に発生した御嶽山の火山噴火時には、カラー化した画像を商用衛星経由で逐次伝送しました。一方でSAR画像は光学による航空写真とは異なる要素も多く、ある程度専門的な判読能力を必要とします。
 NICTでは、今後も災害時の状況把握のために、さらに航空機SARの性能向上を目指すとともに、データを一般市民が容易に利用できるための判読支援のための高次な処理技術の開発を進めています。

図4  図1と同じデータを機上で画像化処理した速報画像。2km×2kmの領域(図1の空港滑走路北端赤枠部分)。単偏波(垂直偏波)のみの画像。
浦塚 清峰 浦塚 清峰(うらつか・せいほ)
国立研究開発法人情報通信研究機構 電磁波研究所統括。1983年東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修士修了。同年郵政省電波研究所(現 情報通信研究機構)入所。1990年工学博士(北海道大学)。1994年から航空機SARの研究開発に参画。1998年から同プロジェクトを率いる。2000年の有珠山の噴火災害から2011年の東日本大震災を経て2014年の御嶽山噴火まで災害時の状況把握のための航空機SARの研究開発を推進。

(広報誌「地震本部ニュース」平成28年(2016年)春号)

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