● はじめに
2016年4月14日のM6.5の地震、16日のM7.3の地震など、2016年熊本地震と命名された一連の大地震の震源域のほとんどは阿蘇山西方に位置する布田川断層帯・日奈久断層帯という2つの活断層帯に対応したものでした。産総研では、広く日本列島の地質情報を整備し、これをもとに地震災害の軽減などに貢献していくことを使命とする研究機関として、地震発生後、直ちに緊急調査対応本部を立ち上げ、必要な現地調査や情報発信を行いました。
● 緊急調査
産総研では活断層近傍で比較的大きな地震があった時には必ず地表地震断層やその他の変状として、地表に地質学的に何があったのかを調べることにしています。調査データはその地震がどのようなものであったかの評価や、今後の活断層研究の基礎情報として使われることになります。特に今回は、地震本部によって事前に想定していた地震とほぼ同じような規模の地震が発生しました。そのため、活断層情報に基づく事前の評価と実際に起こった地震との比較は、今後、より高精度の活断層評価法を検討する上でも重要なデータになるものと考えられます。
一方、地震で現れた地表変状は、発災後の復旧工事や風雨の影響によりその痕跡が失われる場合が多く、調査は可能な限り速やかに実施する必要があります。また、今回の地震では調査域が総延長で40km程度にも及ぶことが予想されこの広大な地域をできるだけ統一的な基準で調査する必要もありました。これらのことに注意しながら緊急調査の体制を整え、最終的にはおよそ20日間程度の調査を12名の研究者の参加で実施しました(写真1)。その結果は図1のような図にまとめられました。またこれらの調査結果と、地震本部によって事前に想定されていたものとの比較は表1のようになりました。
● 地質情報の発信
今回の地震についての情報発信は、主に産総研地質調査総合センターのホームページから行われました。ここでは、産総研が保有する地質学的な観点からの地震に関連した情報をできるだけ多様な視点で発信するよう心がけました。
具体的には、緊急調査結果や地震そのものの情報、活断層やテクトニクスに関する地質学的背景の整理(図2)、阿蘇火山や斜面崩壊、熊本地方の地下水に関する情報などを発信し、地元企業などにも活用されていました。また、産総研で開発している地質図Naviと呼ばれる地質情報閲覧システムを用いて、産総研の持つ地質情報や熊本地震の本震・余震の震央分布、国土地理院で公開されている干渉SARの結果や地すべり情報なども重ね合わせて表示できるページも用意し(図3)、一般商業誌などでも活用されるなど広く閲覧されています。
● おわりに
産総研では国の知的基盤情報として日本列島の地質情報の整備を進めています。これらの中で地震災害に関係するものとしては、活断層や津波、地盤に関する情報のみならず、二次災害としての地すべりや地下水変化などの被害予測にも活用できるものです。これらの情報は、産総研地質調査総合センターのホームページ(https://www.gsj.jp) の中の“災害と緊急調査”>“地震・津波研究情報”の中の熊本地震関連情報のページで見ることができます。 引き続き、被災地の1日も早い復興をお祈りし、より安全で安心な社会を築くために、地質情報に基づく様々な観点からの研究を進めるよう努力して行く所存です。
(広報誌「地震本部ニュース」平成28年(2016年)秋号)