1.見直しの背景
地震調査研究推進本部地震調査委員会は、主要活断層帯で発生する地震や海溝型地震等について地震発生可能性の長期的な評価を行い、地震発生確率を公表しています。一方、短期的な予測については、平成10年に予測可能なものとして余震活動の見通しをとりあげ、「余震の確率評価手法について」(以下、平成10年報告書)を取りまとめました。余震確率の実施機関としての気象庁はその手法に基づいて、規模の大きな地震が発生した後に余震活動の見通しを適時に発表してきました。
平成28年(2016年) 熊本地震においても、4月14日のM6.5の地震を受け、平成10年報告書に基づき、気象庁は15日に余震の発生確率等を発表しました。しかし、16日により規模の大きなM7.3の地震が発生し、平成10年報告書が適用できない事象となったため、気象庁は以降の余震の発生確率の発表を取りやめました。これを受け、地震調査委員会は、余震確率の評価手法の改良のみならず、大地震後における地震活動の見通しや防災上の呼びかけ等の指針を検討し、「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」を8月19日に取りまとめました。(https://www.jishin.go.jp/reports/research_report/yosoku_info/)
2.熊本地震を受け明らかになった課題
従来の余震活動の見通しにおける呼びかけのポイントは以下のとおりでした。
- 気象庁は、地震発生直後は概ね全国一律に経験に基づいた見通しを発表。具体的には、一週間程度、最初の大きな地震より一回り小さい余震に注意を呼びかけ。
- 概ね1日後からは平成10年報告書に基づき、本震-余震型と判断できる場合、余震の発生確率を発表。(例:今後3日間に震度○以上の余震が発生する確率は□%)
しかし、熊本地震により、本震-余震型の判定条件が妥当ではなくなったこと、「余震」という言葉がより強い揺れは生じないと受け取られた可能性があること、余震確率値が通常生活の感覚からするとかなり低い確率(安心情報)と受け取られた可能性があること、等の課題が明らかとなりました。
3.新しい呼びかけ
上記課題を踏まえて見直した、新しい地震活動の見通しについての防災上の呼びかけのポイントは、以下のとおりです。
- 地震発生直後は過去事例や地域特性に基づいた見通しを発表。少なからず同程度の地震が引き続いて発生している事実を踏まえ、最初の大地震と同程度の地震への注意の呼びかけが基本(一部領域では、より大きな地震への留意も呼びかけ)。
- 一週間程度後からは、上記に加え、余震確率に基づいた数値的見通しを付加。その際、確率の値(パーセンテージ)のまま発表せず、倍率で表現。(例:震度◇以上の地震が発生する確率は当初の1/△になったが、依然として平常時の☆倍であり注意)
- 地震活動域の周辺に活断層等がある場合には、地震調査委員会の長期評価結果等に基づいて注意を呼びかけ。
しかし、熊本地震により、本震-余震型の判定条件が妥当ではなくなったこと、「余震」という言葉がより強い揺れは生じないと受け取られた可能性があること、余震確率値が通常生活の感覚からするとかなり低い確率(安心情報)と受け取られた可能性があること、等の課題が明らかとなりました。
4.今後に向けて
「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」は、地震学的な観点による技術的検討に加え、得られた地震活動の見通しを災害時に住民の皆様などへ正しく伝えるため、どのような内容や表現とするかといった社会科学的な観点での検討も踏まえたものとなっており、気象庁は報告書に基づき、適切に情報発表を行っていくことになります。
地震調査研究推進本部では今後も引き続き、地震活動の見通しに関する情報と発信方法の改善など、地震調査研究の成果に基づく地震防災・減災対策に資する情報発信の改善に努めていく予定です。
(広報誌「地震本部ニュース」平成28年(2016年)秋号)