地層を観察すると、元はつながっていた地層がある面を境に食い違っていることがある。このような食い違いの構造を断層と呼び、その食い違いの境界面を断層面という。
地震とは、断層面に沿ってその面の両側の岩盤が急激にずれ動く現象(断層運動)である。一般に「ずれ」はある一点から始まり断層面に沿って周囲に広がっていく。この急激な断層運動によって、地下に蓄えられていた歪みのエネルギーが放出される。地震の原因となった断層は多くの場合は地表では観察されないが、陸域の浅いところでM7程度より大きい地震が発生した場合には、地下の断層の一部が地表に現れて、地表にずれが生じることが多い。
断層は、ずれの方向により、縦ずれ断層と横ずれ断層に分けられる(図1)。更に、縦ずれ断層は正断層と逆断層に、横ずれ断層は右横ずれ断層と左横ずれ断層に分けられる。実際の断層を見ると、図1の様な純粋なものは稀で、縦ずれと横ずれの混じったものが多い。
このような断層のタイプはそこに働く力の状態と密接に関係している。一般的に、逆断層や横ずれ断層は水平に圧縮される力がかかっているところで、正断層は水平に引っ張られる力がかかっているところで発生することが多い。日本付近では、プレートの運動により圧縮されるような力を受けているので、逆断層や横ずれ断層がよく見られるが、別府-島原地溝帯では正断層が見られる。
図1 正断層、逆断層、横ずれ断層(右横ずれ、左横ずれ)
正断層は、上盤(傾いた断層の上側の部分)が相対的に下がる縦ずれ断層。
逆断層は、上盤が相対的に上がる縦ずれ断層。
横ずれ断層は、断層に向かって人が立ったとき、向かい側の地面が右にずれていたら右横ずれ断層、左にずれていたら左横ずれ断層
地球の内部構造を見ると、まるで卵のような構造をしている。卵の殻にあたる地球の一番外側の部分を地殻、白身にあたる部分をマントル、黄身にあたる部分を核と呼ぶ。
地殻の厚さは、大陸では30~40km、ヒマラヤなどの大山脈の下では50~60kmであるが、日本で30km前後である。また、海域の地殻の厚さは通常10km以下である。どちらにせよ、半径約6,370kmの地球全体から見れば、地殻は地球表面の非常に薄い層である。
マントルは、地殻の下から核の上(深さ約2,900km)までの間の部分にあり、体積にして地球の約83%を占めている。マントルの中は一様ではなく、通常三つの層に分けて考えており、一番地殻に近い層を上部マントルと呼ぶ。
地殻は、マントルに比べて比較的壊れやすい性質を持っているので、陸域の浅い地震は地殻の中で発生している。なお、プレートテクトニクスで用いられるプレートとは、地殻と上部マントルの一部を指し、その厚さは数十kmほどである。
地球の表面を構成する地殻には、さまざまな力が加わり、さまざまな変動が生じている。本報告書では、この変動を地表面の変形として捉えたものを地殻変動という。地殻変動にはさまざまなタイプがあり、地質学的な長期間に亘って山脈が隆起したり、平野が沈降したり、プレートが移動するようなものから、短時間に生じる地震時の変動など、さまざまな時間的・地域的スケールを持つものがある。
広域の地殻変動の検出は、従来から平面位置を求める測量(三角測量など)や高さを求める測量(水準測量)によって行われていた。また、海水面の高さを求めることにより海岸の隆起や沈降を長期的に観測することも行われている。本報告書では、地域別に従来の測量結果を解析して求めた地殻の伸びや縮みを図示した。最近では、効率的でほぼ連続的に実施できるGPS観測などによっても広域の地殻変動が観測されている。このほか、地下のトンネルなどを利用して地面の伸び・縮みや傾きの変化の精密な観測も行われている。
関連する用語:GPS
現在の河川や海の働き(堆積作用)により形成された地層,すなわち最も新しい地層のこと。主に固まっていない泥、砂、石などからなり,低地(沖積平野)を形成している。
沖積層の形成過程は、以下のとおりである。
約18,000年前に海面が最も低下した時期があり、その時期に河川が侵食して深い谷を形成した。その後の海面上昇によりこの谷は堆積物に埋められた。その堆積物が沖積層である。
沖積層は、一般にその下にある古い地層(基盤)に比べ軟弱で、地震に対する危険度も高い。沖積層の厚い(30m程度以上)ところは、地震の際地震動が増幅されやすく、また、構造物の不同沈下や液状化などの地盤災害を起こしやすい。
沖積平野は日本全土の約13%にすぎないが、日本の主要な都市は沖積平野に集中している。そのため、軟弱地盤対策が我が国の地震防災の基本的課題となる。
津波とは、海底の地形が急に変わることによって、海面に生じる波のことである。風波などと異なり、周期が長く、10~20分程度のことが多いため、海岸などでは波と言うよりは、潮の異常な干満のように見えることが多いが、その速度は後述のように非常に早い。津波の原因は、海底下の浅いところで発生した地震による海底の隆起や沈降が主なものであるが、まれに海底火山の噴火、海底地すべり、海岸近くの山崩れの場合もある。なお、津波が発生した領域、すなわち、津波の原因となる海底の隆起や沈降を起こした領域を津波の波源域と呼ぶ。波源域は、地下の震源域の地表面への投影よりは広くなりがちである。
津波の高さは、沖合では比較的小さいが、水深が浅くなるにしたがって大きくなり、沿岸の地形の形状によってさらに増幅されることがある。三陸沖で発生した1896年や1933年の地震による津波災害(それぞれ明治三陸地震津波、三陸地震津波と呼ばれる)は有名であり、津波の高さは20mを超えたところがある。また、1960年のチリ地震津波のように外国で発生した大きな地震による津波が日本に被害を及ぼすこともある。
津波が伝わる速さは、水深が深いほど速く、例えば水深4,000mの外洋では秒速200mにもなる。それに比べ、海岸近くの浅いところでは秒速10m前後と遅くなるが、それでも人間が走る速さよりも速い。
津波地震とは、単に津波を伴う地震を意味することもあるが、断層が通常よりゆっくりとずれて、人が感じる揺れが小さくても、発生する津波の規模が大きくなるような地震を意味することが多い。本報告書では後者の意味で用いている。津波地震の例としては、1896年の明治三陸地震津波を引き起こした地震が有名である。
地震動により、山崩れ等の土砂移動が生じ、人命や建物などに被害を及ぼすことがある。
一般に降雨による斜面崩壊は、表層物質が厚く堆積して、周りから水を多く集める(集水面積の大きい)凹型の斜面で発生することが多いが、地震動による斜面崩壊は、振動が集中しやすい凸型の斜面で発生することが多い。また、地震がきっかけとなって山体そのものが大崩壊することがある。「昭和59年(1984年)長野県西部地震」(M6.8)による御岳崩れや、1792年の島原半島の地震(M6.4)による眉山の崩壊などが有名である。造成地などでも、傾斜した部分で崩壊等が発生することが多いが、地震動が増幅されやすい盛土で発生することが多い。
山腹で崩壊した大量の土砂が谷の堆積物や水を含んで土石流となって流下し、大きな被害をもたらすこともある。また、斜面崩壊や土石流などが発生した場合、河川のせき止め、決壊による二次災害が発生する場合もある。1847年の善光寺地震(M7.4)では山崩れにより犀川が堰き止められ湖が形成され周辺地域が水没するとともに、その後湖の縁が決壊して下流域に甚大な被害が生じた。
地すべりは緩やかな斜面で広い範囲がゆっくりと滑り下る現象であるが、地震動が引き金となって地すべりが発生することがある。「平成7 年(1995年)兵庫県南部地震」でも地すべりが生じたが、神戸側の丘陵地域では、地すべりに伴う亀裂により局所的な被害が生じた。
斜面崩壊や地すべりなどは、地震動や降雨などが原因となって引き起こされるが、地域的な地質、地形、地下水の状況などの自然的な要素がその発生の下地になっている。なお、斜面崩壊や地すべりなどは、本震後の余震や降雨などにより発生することもあるので、本震発生後も注意を必要とする。