防災教育支援推進ポータル
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噴火の記憶データベースプロジェクト

〔吉川美由紀・池辺伸一郎・須藤靖明(阿蘇火山博)・鍵山恒臣・吉川 慎(京大院)・宮本利邦(阿蘇市教委)・山村隆文(南阿蘇村教委)・寺田暁彦(東工大院)・阿蘇火山博・京大院・阿蘇市教委・南阿蘇村教委・阿蘇市・南阿蘇村〕
 本プロジェクトは、阿蘇火山博物館、京都大学火山研究センター、阿蘇市教育委員会、南阿蘇村教育委員会らでプロジェクトチームを結成し、2009年4月より2年間の計画で活動実施している。我々の目的は、阿蘇社会全体の防災意識向上である。その手段として、地域の学校が主体となって「噴火の記憶データベース」を作成していく過程で、自然と児童および市民の防災意識が向上する仕組みを構築した。現在、その実践を行っている。
阿蘇地域の防災への取り組み(現状)
 20世紀初頭から1970年代までの阿蘇山は、噴火による死傷者がわが国で最も多い火山の1つであった。その後、関係者の努力によってこの不名誉な状態は改善されてきた。現在の阿蘇地域では、防災に関する取り組みは、いくつかの小グループによってスポット的に取り組まれている。しかしながら、これらは組織的・継続的には行われていない。また、近年の阿蘇は火山活動が静穏化した状態にある。そのため、阿蘇地域では噴火経験者がどんどん減少していく傾向にあり、火山防災に役立つであろう噴火経験の伝承が難しくなりつつある。
 ところで、阿蘇火山博は、阿蘇地域で継続的に火山防災啓蒙活動に取り組む組織の一つである。これまで、京都大学や熊本大学、NPO法人などの協力を得ながら、地域の小学校との学習連携事業「めざせ一流!われら阿蘇の研究者」、熊本県民を対象とした「火山と環境シンポジウム」、修学旅行生を対象とした「火山体験活動(トレッキング)」などを実施している。また、噴火ビデオの製作や啓蒙書の発刊なども行っている。
プロジェクトの構成
 啓蒙活動を実施する場合、我々は経験的に、「研究者主導の教材」による教育よりも「児童の調べ学習」を起爆剤とした啓蒙活動のほうが効果的であることを理解している。したがって、「噴火の記憶データベースプロジェクト」は、小学生による(1)「地域に残る噴火経験の掘り起こし・調べ学習の実践」を起点とした「災害記憶(記録)のデータベース化(教材作成)」を計画の主軸と位置づけた。児童が調べ学習を進める上で、当然必要なのは疑似科学(エセ科学)から児童を守れる指導者である。そうした指導者(教員)を育成・指導するため(2)「教員研修カリキュラム」を実施する。また、児童による学習活動は、総合学習や理科、社会の授業でも活用できる学習指導計画および指導案としても記録し、社会に提案できる(3)「防災教育のモデル」を作成する。
 また、阿蘇地域は非常に観光者の多い地域であり、外国人観光者も含めると年間1800万人もの人々が訪れる。こうした観光者たちの防災意識の向上も目指し、(4)「東アジア4ヶ国語対応リーフレット」を作成し、観光者たちの防災意識向上もめざす。
期待される効果
 児童は学習活動を通して「災害に対する知識」を得ると同時に、「災害に対して冷静に判断する能力」が養われ、さらには「わたしたちの阿蘇」という郷土愛を芽生えさせる効果などが期待できる(阿蘇火山博物館2009年度年報参照)。また、本プロジェクト事態、情報提供者としての市民の力が必要となる。市民が情報を児童たちに提供し、児童がそれらを学習(研究)成果として公表することにより、市民のモチベーションの向上、ひいては、社会全体での防災意識の向上が期待できる。
今回の発表について
 2009年8月現在、我々は7/30に(2)教員研修カリキュラムを実施した。また、(1)「災害記録のデータベース化」の実施も進めつつある。今回の発表では、これらの成果のほか、プロジェクトの構成要素(1)から(4)の詳細についても紹介する。