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  3. 「地震発生確率」について解説します

(広報誌「地震本部ニュース」令和6年(2024年)春号)

 阪神・淡路大震災が発生した1995年当時、専門家の間では近畿地方には活断層が多く存在することが知られていましたが、このことは国民や自治体等の防災を担当する機関には十分に伝わっておらず、「近畿地域は地震が少ない地域である」との考えが広まっていました。そこで地震調査研究推進本部では、地震研究の成果をわかりやすい形で社会に伝え、それにより、国民の防災意識の向上や、自治体等が地震防災対策の重点化を検討する際の参考にできるようにするなどのために、地震動予測地図の作成や、その作成にも必要な、将来の長期的な地震の発生の可能性を評価する「長期評価」を実施し、公表しています。※1

 長期評価では、確率と言う数字で地震の発生可能性を表しています。確率値は毎年、その年の1月1日を基準日としたものに更新を行っており、今年も1月15日に2024年1月1日現在の確率値に更新しました。今年の更新では、主なところでは、「宮城県沖の陸寄りの地震」の30年以内の発生確率が、70%~80%から70%~90%になりました。

 一方で、「地震発生確率の数字が何を意味しているのかが分からない」という声を多く聞きます。そこで今回は、「地震発生確率」について、いくつかの観点から解説します。

※1 「地震予知」は現在の科学的知見では困難という現状がある中、それでも地震研究の成果を社会に活かしたいという思いで地震動予測地図の作成や長期評価を実施しています。

 冒頭で、確率値を2024年1月1日現在のものに更新したと述べましたが、確率値には毎年数値が更新されるものとされないものがあることを、ご存じでしょうか。実は、長期評価の確率の計算方法には2種類の方法があり、一方の計算方法で計算した場合は毎年更新をしていて、もう一方の計算方法で計算した場合は更新をしていません。※2

※2 実際の地震の現象としては、計算方法1と計算方法2とできっちり分けられるものではなく、地震は両方の性質を持ちます。

●計算方法1:時間の経過とともに確率が変化するモデル

 このモデルでの確率計算は、「同じ場所で同じような地震がほぼ一定の間隔で繰り返す」という仮定のもとに行っています。例えば、南海トラフ地震は、過去に100~200年程度の間隔で繰り返し発生していることが知られています。※3

 確率を計算する上で、必要な情報は主に、①地震の平均的な発生間隔、②最後にいつ地震が発生したか、③発生間隔のばらつきの度合い、の3つです。③は分かりにくい概念かもしれませんが、「地震は実際には等間隔では発生しない」という性質を表しているもので、とりあえずのところ、「③が違うと、後述の図1のグラフの縦軸の最大値や左右のすそ野の広がり方が変わってくる」と理解すれば十分です。

 では、①と②をもとに、確率の計算を行ってみます。図1は平均発生間隔100年のある海溝型地震の例になります。「経過年数0年」は最後に地震が発生したときです。現在は、最後に地震が発生してから70年が経過しているものとします。このとき、今後30年間(最後に地震が発生してから70~100年の間)に地震が発生する確率は、「(Aの面積)÷(Aの面積+Bの面積)」で計算でき、約51%となります。その後1年間地震が発生しない場合、その後30年間(最後に地震が発生してから71~101年の間)に地震が発生する確率は、図1のAの部分を1年だけ右にずらすことで計算でき、1年前に比べるとわずかに確率は上昇することになります。

※3 「100~200年では、全然「一定の間隔」ではない」と感じられるかもしれませんが、地震はきっちり一定の間隔で起こるわけではありません。そのため、確率計算は地震の発生間隔にばらつきがあることを前提に行っています。

●計算方法2:時間が経過しても確率が変化しないモデル

 地震の中には、例えば「平均すると100年に1回発生しているが、発生間隔は不規則」なものもあります。このような平均発生間隔が一定だが不規則に発生する事象の発生確率は、時間的に一定であることが知られています。また、①平均的な発生間隔は分かっているが、②最後にいつ地震が発生したかが分からないという場合もあります。例えば「過去300年間に3回地震が起こっていることは分かっている(つまり、平均発生間隔が100年であることは分かっている)が、最後の地震が具体的にいつだったか分からない」という場合です。

 これらの場合は、確率値の計算に図1は用いず、「最後に地震がいつ起こったかは関係なく、平均発生間隔が100年の地震が今後30年以内に起こる確率」を計算します。このため、今後30年以内に地震が発生する確率は、今年も来年も再来年も変わりません。

 この答えを簡単に述べると、「地震の平均的な発生間隔が海溝型地震の方が短いから」です。ここでは、「平均発生間隔100年の海溝型地震」と「平均発生間隔1,000年の活断層で発生する地震」を例に見てみます(③ばらつきの度合いは同じとします)。

 図2は(1)「平均発生間隔100年の海溝型地震において、最後の地震から70年経過したときの今後30年以内に地震が発生する確率」(約51%)と、(2)「平均発生間隔1,000年の活断層で起きる地震において、最後の地震から700年経過したときの今後30年以内に地震が発生する確率」(約3%)を表したものです。これを見ると、活断層で起きる地震のグラフの方がグラフのすそ野が広く、その結果として「(A′の面積)÷(A′の面積+B′の面積)」の値が小さい(確率が低い)ことが分かるかと思います。これが海溝型地震の発生確率は高く、活断層で起きる地震の発生確率は低くなる仕組みです。もっと簡単に言うと「平均発生間隔が長ければ長いほど、今後30年間に地震が発生する確率は計算上低くなる」ということです。

 このように、「今後30年以内に地震が起きる確率」は、計算上平均発生間隔が短い海溝型地震の方が高くなります。一方で、「30年以内の発生確率が低い=地震が起こらない」という意味ではありません。既に述べたように、「平均発生間隔1,000年の活断層で起きる地震において、最後の地震から700年経過したときの今後30年以内に地震が発生する確率」は約3%ですが、100年以内に発生する確率は13%、500年以内に発生する確率は80%、1,000年以内に発生する確率は99%となるように、期間を長くすれば確率はどんどん大きくなります(図3)。このことは、いわば、「地震はいつかはほぼ必ず発生する」ということを意味しています。また、「確率の高い地震は、確率の低い地震より先に発生する」とも限りません。これは野球の試合で、打率の低いバッターの方が、高いバッターよりも先にヒットを打つことがあることと同じです。

 次に、地震の発生確率を他の事象が発生する確率と比べてみます。統計データ※4から計算すると、例えば今後30年以内に、交通事故で死亡する確率:0.084%、火災で死傷する確率:0.18%などとなっており、これと比べてみると活断層で発生する地震の発生確率が決して低い値ではないことが分かるかと思います。

 また、地震は交通事故等と同様に、一度起きるとその被害が甚大になる可能性があります。皆様は交通事故に遇わないように日ごろから気をつけると同時に、任意の自動車保険にも入られているかと思います。

このようなことを踏まえると、いつ地震が起きてもよいように、耐震化、家具の固定など、日ごろから地震への備えをしておくことが重要であることが分かるかと思います。

※4 「令和元年警察白書」、「令和元年消防白書」

 今回の記事は、地震調査研究推進本部事務局の職員が、地震発生確率(つまり、地震研究の成果)を社会に役立てたい(つまり、皆様に活用いただいて、それにより、少しでも皆様の安心・安全につながってほしい)、という思いで記述しました。今回の記事が、少しでも地震防災を考える際の助けになれば幸いです。

地震発生確率の計算方法を詳しく知りたい https://www.jishin.go.jp/reports/research_report/choukihyoka_01b/

2024年1月1日現在の地震の発生確率を詳しく知りたい https://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evaluation/lte_summary/

(広報誌「地震本部ニュース」令和6年(2024年)春号)

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