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  3. 「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」-南海トラフ巨大地震の誘発発生モデルの提案-

(広報誌「地震本部ニュース」平成28年(2016年)春号)

次の南海トラフ地震とそれに向けた取り組みの概要

1 次の南海トラフ地震とそれに向けた取り組みの概要

 駿河湾から日向灘沖にいたる南海トラフ沿いでは、巨大地震が90—200 年程度の間隔で繰り返し発生していることが知られています(図1)。本年は、前回の南海トラフ巨大地震(1946年昭和南海地震)の発生から70 年目にあたり、平均的な繰り返し間隔から見れば、南海トラフ地震の繰り返しサイクルの中盤~終盤に差し掛かりつつあると考えられます。また、2011年東北地方太平洋沖地震での甚大な被害の記憶とも相まって、次の南海トラフ巨大地震がいつ・どういった形で起こるのかが危惧されています。

図1 過去の南海トラフ地震の震源域、発生時系列

平成25年度から実施している南海トラフ広域地震防災研プロジェクトでは、その前身となる東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクトの成果を踏まえ、南海トラフ巨大地震の被害軽減に資するため、調査観測によって過去の南海トラフ地震像の実態を明らかにするとともに、次に起こり得る地震の発生シナリオを網羅するために数値シミュレーションを活用しつつ研究を行なっています(図2)。

図2 南海トラフ地震の繰り返しを模擬する地震サイクルモデル

2 南海トラフ巨大地震の発生シナリオの再検討

 最新3回の巨大地震(昭和・安政・宝永)について、1944年昭和東南海地震・1946年昭和南海地震、1854年安政東海地震・安政南海地震では、南海トラフ巨大地震の東海側の震源域が先行して破壊し、時間差をもって南海側の南海地震震源域側が破壊しています。また、1707年の宝永地震では、どちら側の破壊が先行したかは明らかではありませんが、ほぼ同時に広域な震源域が破壊したと考えられています。東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクトでは、最新3回の巨大地震(昭和・安政・宝永)の発生パターンが南海トラフ震源域の典型的な地震発生特性を表すと仮定し、南海トラフ地震シナリオの構築を試みました。つまり、東海・東南海ならびに南海地震の各震源域間の相互作用をベースに、シナリオ研究を進めました。しかしながら、宝永以前を含め、過去の地震像の見直しが進むにつれ、東海・東南海・南海の3つの震源域が相互作用によって2連動あるいは3連動するといったシナリオでは、これまでに明らかになってきた南海トラフ地震の震源域の多様性(図1)を理解するには不十分であることが分かってきました。
 従来のシナリオと実際の地震との齟齬を埋めるための1つのアプローチとして、我々は、3つの巨大地震震源域周辺で発生した地震が、南海トラフ地震の発生時期や規模、震源域の広がりに与える影響を評価することが重要だと考えました。例えば、シミュレーション領域の西端を四国沖から九州沖に拡張し、日向灘でのM7 クラスの地震サイクルを含めたところ、M7.5の日向灘地震の発生とそれによる余効すべりによって、日向灘地震発生の数年後に南海地震が誘発され、その1年後に東海地震が発生するシナリオが得られました(図3)。

図3 南海トラフ域西端にM7 級摩擦不均質を加えた場合のシナリオ例

 さらに、日向灘地震による誘発が、南海トラフ地震のサイクルのどのタイミングで起こり得るのかを詳しく調べました。その結果、南海トラフ地震の繰り返し間隔の半分強でも誘発される可能性があり、その場合、規模がもとの1/4程度に小さくなるものの、M8前半の巨大地震には充分に成り得ることが明らかとなっています(図4)。

図4 日向灘地震の発生タイミングによる誘発南海トラフ地震の様子変化

 過去の南海トラフの歴史地震の中で、誘発によって発生したことを示す明確な例はまだ確認されていませんが、前述の図3ようなシミュレーション結果は、震源域近傍での地震による誘発が、南海トラフ地震の多様性の一因になり得ることを示しています(図5)。

図5 近傍地震発生による誘発南海トラフ地震の様式変化の概念図

3 今後の研究

 以上のことから、南海地震震源域側からの破壊も視野に入れたシナリオにもとづく被害軽減や地震像の研究が今後は必要です。さらに、南海トラフ巨大地震震源域の周辺で発生する地震が、南海トラフ地震に対しどういった影響を及ぼしうるかの評価や、南海トラフの一部の震源域で単独での地震が発生した後の、周辺に壊れ残る震源域への時間差連動発生に備えるには、海域での地殻変動モニタリングによる余効すべりの評価(海域の地殻変動データの逐次同化による推移予測)が重要です。このように、今後の南海トラフ広域地震防災プロジェクトでは、DONET 等の海域を含めた地殻変動データの利活用による予測研究・シナリオ研究を推進します。

金田 義行(かねだ・よしゆき)

著者の写真

香川大学 学長特別補佐/四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 副機構長 特任教授/ 海洋研究開発機構 上席技術研究員。理学博士。
昭和54年東京大学理学系大学院地球物理専攻修士課程修了。旧石油公団等を経て海洋研究開発機構に着任、地震津波・防災研究プロジェクトリーダー等を務め、平成26年より現職。
地下構造調査、地震・津波モニタリング、シミュレーション等を活用した減災科学研究に取り組む。南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト総括責任者、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」プロジェクト課題責任者、内閣府南海トラフ巨大地震モデル検討委員会委員。


(広報誌「地震本部ニュース」平成28年(2016年)春号)

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