地震発生可能性等に関する長期評価について
地震調査委員会では、大きく分けて、地震活動の現状の総合評価及び地震発生可能性等に関する長期的な評価を行っている。現在における評価のやり方及び評価結果の例を説明する。
1 地震活動の現状の総合評価
(1)対象領域
− 選択した地震活動について、
− 評価文の作成及び評価文の背景にある事実を示す図等資料の選択。評価文及び選択した資料の公表。
− 発生している現象が本震・余震型であるか、群発型であるか、又はそれ以外であると懸念されるかの総合的な評価。
− 活動の型の評価結果に応じて、次の評価:
イ 通常の地震活動の場合(平成11年7月の地震活動)
ウ 大きめの震度が観測された地震の場合(平成10年9月及び平成9年3月。臨時会議)
エ 群発地震活動があり、大きめの震度が観測された地震があった場合(平成10年8月。臨時会議)
オ 群発地震活動があった場合(平成10年4月の地震活動)
(1)対象活断層
− 当該断層帯として評価対象に取り込むことについて個別の断層の評価。
− 選択した活断層について、
− 評価文の作成及び評価文の背景にある事実を示す図等資料の選択。評価文及び選択した資料の公表。
地震調査委員会が評価した、以下3つの活断層の評価結果に関する報告書の記述を比較してまとめて表で示した。
糸魚川−静岡構造線活断層系 | 神縄・国府津−松田断層帯 | 富士川河口断層帯 | |
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日本列島のほぼ中央部に位置する、全長140〜150kmの活断層系 | 丹沢山地南縁から相模湾岸に至る延長約25kmの断層帯 | 静岡県東部の駿河湾奥に流れ込む富士川の河口付近から富士山南西山麓にかけて、ほぼ南北に延びる長さ約20kmの断層帯 |
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現在を含めた今後数百年以内 | 現在を含む今後数百年以内 | 今後数百年以内の比較的近い将来 |
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地震が発生する可能性が高い | 地震が発生する可能性がある | ....可能性がある |
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M8程度(M71/2〜81/2) | マグニチュード8程度
注)マグニチュード8程度とは、8±0.5 |
マグニチュード8程度
注)マグニチュード8程度とは、8.0±0.5 |
活動間隔 |
約千年おき | おおよその活動間隔は3千年程度 | 千数百年 |
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約1200年前
762年の地震(美濃・飛騨・信濃)が、この地震に該当する可能性がある。 |
約3千年前 | 千年以上前であった可能性が高い |
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牛伏寺断層を含む区間では、現在を含めた今後数百年以内に、M8程度(M71/2〜81/2)の規模の地震が発生する可能性が高い。しかし、地震を発生させる断層区間(場所)がどこまでかは判断できない。 | この断層帯では、現在を含む今後数百年以内に、変位量10m程度、マグニチュード8程度の規模の地震が発生する可能性がある。震源域は断層帯全体とその海域延長部に及ぶと考えられる。 | この断層帯の次回の活動は、地震時の変位量が7m程度またはそれ以上、地震の規模でいうとマグニチュード8程度、震源域は駿河湾内まで及ぶと考えられる。また、その時期は今後数百年以内の比較的近い将来である可能性がある。 |
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牛伏寺断層を含む区間では、約千年おきに、M8程度の規模の地震が発生してきた可能性が高い。具体的な活動区間と規模は、毎回約1200年前の活動と同様(M73/4〜81/4)程度であった可能性と、牛伏寺断層と同時に活動した断層区間が活動毎に変化し、地震の規模もM71/2〜81/2の範囲でその都度異なっていた可能性とが考えられる。
当該断層系は、約1200年前に白馬から小淵沢までの区間(約100km)で活動し、その地震の規模はM8程度(M73/4〜81/2)であった可能性が高い。歴史地震としては、762年の地震(美濃・飛騨・信濃)が、この地震に該当する可能性がある。 |
この断層帯の最新の活動は約3千年前で、おおよその活動間隔は3千年程度、1回の変位量は10m程度と推定される。その場合、地震規模はマグニチュード8程度、震源域はこの断層帯全体とその海域延長部に及んだと考えられる。 | 富士川河口断層帯は駿河湾内のプレート境界断層に連続している。平均変位速度は少なくとも7m/千年であり、その活動度は日本の中では最大級である。平均活動間隔は千数百年であったと考えられる。
最新活動期は千年以上前であった可能性が高い。 |
[活断層]
活断層とは,最近の地質時代に繰り返し活動し,将来も活動することが推定される断層のことである。最近の地質時代としてどこまでさかのぼるかであるが,「新編日本の活断層」では,第四紀(約200万年前から現在までの間)に動いたとみなされる断層を活断層と定義している。しかし,さかのぼる年代を数十万年前くらいとする研究者もいる。
活断層の存在は,その活断層が繰り返しずれた後が地形や地層に残されていることにより確認される。新しい時代に形成された地形や地層に比べて,古い時代に形成された地形や地層ほど大きくずれていれば,繰り返しずれを生じた証拠と考えられる。古いものほど地震を多数回経験しているので,大きくずれているからである。そしてまた,今後も同じようにずれを繰り返して地震が発生すると考えられる。
活動が活発な活断層は,その活動の繰り返しによってずれが累積するため,盆地・平野などの低地と山地の境界を形成する。したがって,活断層はこのような大きな地形の境界の周辺に見つかることが多い。なお,M7程度より大きい陸域の浅い地震は、活断層で発生することが多い。
また、沖積層が厚く堆積している地域などでは、地下にこれまで繰り返し活動してきた断層が存在しても、繰り返しの断層運動により累積したずれが、必ずしも地表には現れない。このような断層を伏在断層という。
陸域の浅い地震が今後起こる可能性を評価するには、一つ一つの活断層の性質(どのくらい活発なのか:活動度、一回の地震に伴ってどれだけのずれが生じるのか、どのくらいの時間間隔で活断層が活動するのか:活動間隔、最近の活動はいつなのか等)を知ることが重要である。これらの情報を得るために、最近の活断層調査では、地形的な調査だけでなく、直接活断層を掘るトレンチ調査が行われることが多い。
[断層]
地層を観察すると,元はつながっていた地層がある面を境に食い違っていることがある。このような食い違いの構造を断層と呼び,その食い違いの境界面を断層面という。
地震とは、断層面に沿ってその面の両側の岩盤が急激にずれ動く現象(断層運動)である。一般に「ずれ」はある一点から始まり断層面に沿って周囲に広がっていく。この急激な断層運動によって、地下に蓄えられていた歪みのエネルギーが放出される。地震の原因となった断層は多くの場合は地表では観察されないが、陸域の浅いところでM7程度より大きい地震が発生した場合には、地下の断層の一部が地表に現れて、地表にずれが生じることが多い。
断層は、ずれの方向により、縦ずれ断層と横ずれ断層に分けられる。更に、縦ずれ断層は正断層と逆断層に、横ずれ断層は右横ずれ断層と左横ずれ断層に分けられる。実際の断層を見ると、純粋なものは稀で、縦ずれと横ずれの混じったものが多い。