資料 政16−(7)
トルコ及び台湾で起きた地震についての緊急の調査研究について
平成11年度科学技術振興調整費 緊急研究
「1999年トルコ北西部の地震に関する緊急研究」
実施計画
1.研究の趣旨
1999年8月17日未明、トルコ共和国北西部を震源として、震源の深さ約10km、マグニチュード7.4の地震が発生した。この地震は、北アナトリア断層という1000km以上にわたる長大な活断層の西端部付近が活動して発生したものと理解されている。また、この断層では、過去の断層活動(大地震発生)は当該断層の東から西へ順に移動してきたという経緯がある。今回活動した部分では、地震断層が100km以上にわたり出現したとの現地からの報告がある。
今回の地震を起こした北アナトリア断層については、これまで長期にわたり、我が国の地震関係機関の研究協力による調査観測研究が実施され、多くのデータが蓄積されている。したがって、今回活動した断層の範囲を特定し、どのように地震が発生したのかについての調査研究を実施することにより、活断層からの地震規模及び活動可能性評価手法の高度化や強震動予測手法の高度化に向けて、貴重な基礎資料を提供するものと考えられる。また、本研究の成果は,これまでのデータと組み合わせることで、今後のトルコ北西部における地震活動の予測研究に資するとともに,我が国の地震調査研究推進本部における地震動予測地図の作成等の長期的評価に貢献するものと期待される。
なお、これまでの両国研究機関による共同研究を踏まえて、トルコ側から研究機関ベース等での調査研究の協力が求められている。
2.研究の概要
2.1 地震断層の分布と変位量分布の把握
(1)陸域の地震断層調査
今回の地震で出現した地表地震断層について,人工衛星画像解析により断層の全体像を把握し,現地踏査及びヘリコプター等を用いた調査により断層の分布を詳細に追跡するとともに,断層に沿った変位量の分布について,測量等により正確かつ精密に把握する。また,断層周辺地域において,地震の規模を反映したと考えられる軟弱地盤の液状化,側方流動等の調査を行う。これにより,陸域での断層活動の範囲を特定し、活断層からの地震規模評価手法高度化のための基礎資料を提供する。
(2)海域の地震断層調査
今回の地震では,余震分布・被害分布・津波の発生状況から,地震断層はマルマラ海の東部海域に延びていることが推測される。したがって,同海域周辺において高分解能音波探査等を実施するとともに,沿岸部における津波痕跡調査により遡上高を測定する。これにより,海域における地震断層の分布範囲を特定するとともに,変位量を推定し、活断層からの地震規模及び活動可能性の評価手法高度化のための基礎資料を提供する。
2.2 高精度余震観測による震源過程の検討
今回活動した地震断層周辺に地震計ネットワークを拡充・整備するとともに,地震断層近傍で高精度余震観測を行うことで,余震の震源位置決定の高精度化を計ることにより,震源断層の範囲及び形状を明確にし,活断層からの地震規模評価手法高度化のための基礎資料を提供する。
また、高精度余震観測結果から求められた震源断層の範囲及び形状と,地震断層の破壊領域・変位量の分布の調査結果を総合することにより,今回の地震の震源過程を詳細に検討し、強震動予測手法の高度化のための基礎資料を提供する。
2.3 断層近傍の不均質構造調査による強震動の特性把握
今回活動した地震断層周辺において,広帯域MT(magneto-telluric)法(自然の変動電磁界を利用する地下の電磁探査法)による断層近傍の深部不均質構造の調査を実施することにより、断層近傍の水の流動と地震活動との関連を含め,地震発生に至る過程に断層近傍の不均質構造がどの様に関わっているのかを把握する。
また、検討された震源過程及び断層近傍の不均質構造等から導き出される理論波形と高精度余震観測による地震波形データとを比較分析することにより,強震動の特性把握を行う。
3.研究推進の方策
本緊急研究の調査観測対象は、地震断層、余震活動等の地震活動に伴う諸現象であるが,そのような現象は地震発生後、時間とともに失われるか,終息に向かう場合が多い。このため、調査観測の立ち上げは早急に行う。
また、本緊急研究では,これまでトルコにおいて研究協力を行ってきた通商産業省工業技術院地質調査所及び東京工業大学を中心にして,関係機関の協力の下に実施するとともに,現地の研究機関とも協力する。
4.研究の年次計画
研究項目 |
11年度 |
研究実施機関 |
1.地震断層の分布と変位量分布の把握 |
||
(1)陸域の地震断層調査 |
← 調査研究 → |
通商産業省工業技術院地質調査所 ○佃 栄吉 建設省国土地理院 宇根 寛 |
(2)海域の地震断層調査 |
← 調査研究 → |
通商産業省工業技術院地質調査所 粟田康夫 高知大学理学部(委託) 岡村 眞 |
2. 高精度余震観測による震源過程の検討 |
← 調査研究 → |
科学技術庁防災科学技術研究所 飯尾能久 通商産業省工業技術院地質調査所 堀川晴央 東京工業大学(委託) 本蔵義守 |
3.断層近傍の不均質構造調査による強震動の特性把握 |
← 調査研究 → |
通商産業省工業技術院地質調査所 小川康雄 東京工業大学(委託) 本蔵義守 |
4. 研究推進 |
← 研究推進 → |
科学技術庁研究開発局 |
(注:○は研究リーダー)
研究推進委員会構成
委 員 |
所 属 |
石田瑞穂 |
防災科学技術研究所 総括地球科学技術研究官 |
○宇根 寛 |
国土地理院地理調査部地理第三課長 |
大志万直人 |
京都大学防災研究所助教授 |
○岡村 眞 |
高知大学理学部教授 |
奥村晃史 |
広島大学文学部地理学教室助教授 |
菊地正幸 |
東京大学地震研究所教授 |
○佃 栄吉 |
地質調査所地震地質部変動解析研究室長 |
◎長谷川 昭 |
東北大学大学院理学研究科教授 |
古屋逸夫 |
気象庁地震火山部地震津波監視課長 |
○本蔵義守 |
東京工業大学理学部長 |
(注:◎は研究推進委員長、○は課題実施者)
研究課題 |
1999年トルコ・イズミット地震とその災害に関する調査研究 |
研究代表者 |
須 藤 研 東京大学生産技術研究所教授 |
研究組織 |
東京大学生産技術研究所・地震研究所・新領域創生科学研究科,
東北大学災害制御研究センター,東京工業大学総合理工学研究科,
京都大学防災研究所・工学系研究科,愛媛大学工学部,九州工業大学工学部,東京都立大学都市研究所,文教大学情報学部の研究者(12名) |
研究目的 |
1999年8月17日未明,トルコ国イズミットに発生したマグニチュード7.4の地震は,同国に甚大な被害をもたらした。
本調査研究では,今回の地震の発生源となった北アナトリア断層の西端部分は長く空白域として注目されその危険性は広く認識されていたにもかかわらず,大災害となった理由・背景を解明分析することを目的とする。
また,地震発生ポテンシャルとそれに対する震災軽減防止策の具体的な取り組みについて詳細な調査研究を行い,大都市,工業都市における今後の地震防災施策に資する。 |
調査内容 |
1.活断層と近傍地盤の挙動
横ずれ型断層の破壊過程及び断層近傍地盤に生じる地盤変動を調査し,断層の破壊と近傍に及ぼした地盤の挙動の関係を明らかにする。
2.地震動と被害
地震被害を被災者数や各種構造物など様々な指標を用いて都市間比較を試み,それを地震動と関係づけることで,都市の全体としての地震に対する脆弱性の定量化を行う。
3.都市防災と災害社会学
危険性が指摘されていたにもかかわらず,大災害となった原因を明らかにする視点から,災害時の救急・緊急対応などを調査する。
○ 以上について,ボガチチ大学を含むトルコ国の地震防災研究機関と共同で調査研究を実施する。 |
調査期間 |
9月6日から14日まで |
調査成果 |
「自然災害科学」18巻3号−1999年トルコ・コジャエリ地震とその災害に関する調査・研究− により発表 |
1999年トルコ北西部の地震
第1次緊急調査報告
平成11年9月30日
工業技術院地質調査所
要 約
地質調査所では、1999年9月13日〜22日にかけて、トルコ北西部において調査を実施した。今回の調査では、陸域に出現した地震断層(約100qの区間)の約60地点で、断層運動による変位量を測量した。その結果、今回の地震では7つの断層が活動したこと、最大変位量が4.9m
であることが明らかになった。本調査はトルコの国立研究機関との共同研究として実施され、同機関の協力により高精度空中写真・最新地形図を利用することができた。このため本調査結果は、今回の地震に関する最も精度の良い記録である。なお、本年10月中旬から、第2次調査を実施し、さらに詳細な調査を実施する予定である。
1.はじめに
1999年8月17日の未明に発生したマグニチュード7.4の地震は、トルコ北西部一帯に大きな被害をもたらした。この地震は北アナトリア断層の活動により引き起こされたもので、被害の分布もおおよそそれに沿って東西に広がっている。今回の活動域は地震の空白域として、地震の発生が1970年代末より指摘されていたところであり、当所もこれに関連して1980年代はじめより、活断層調査に関して研究協力を継続していたところである。今回の緊急調査の目的は、永年継続してきたトルコ鉱物資源開発調査総局(MTA:トルコ地質調査所)との研究協力のもとで、MTAを技術的に支援することと地震断層について研究上貴重な資料を得ることにある。今回の調査においてはMTAとの研究協力体制の確認を行うとともに、第1次調査として地震断層に関する概要を調査し、その後の詳細調査の準備を整えた。また、今回の調査及びその後の詳細調査により、断層活動域と変動量を正確に把握することができ、今後、近傍での断層活動可能評価の基礎的かつ重要な資料が得られるものと考えられる。
2.第1次調査の概要
調査期間: 9月13日〜22日
調査地域: トルコ北西部北アナトリア断層地域
第1次調査チームの構成:
加藤碵一 次長
佃 栄吉 地震地質部変動解析研究室 室長
粟田泰夫 地震地質部活断層研究室 主任研究官
吉岡敏和 地震地質部活断層研究室 主任研究官
3.トルコ鉱物資源開発調査総局及び地質調査所との研究協力の確認
Murat Erendil MTA副総裁、加藤次長及び研究担当者は、今回の地震災害に関連して短期的及び長期的な共同研究課題について意見交換を行い、今後の予算確保の問題はあるもののその内容について大筋で了承した。C. Arak MTA総裁からは今後とも、積極的な研究協力推進への期待が述べられた。さらに、今回の地震に関して、関係各国の中で研究支援を申し出たのは地質調査所だけであり、強い感謝の意が示された。また、日本へのMTA担当大臣他の調査団派遣の申し入れがあり、その受入について打診があった。
4.現地調査結果の概要
現地調査では、地表に出現した地震断層の分布概要を明らかにした。調査にあたっては地震前後の1万分の1空中写真、2万5千分の1地形図を利用した。陸域の地震断層約100km 区間において、約60地点において正確に変位量を測定し、全体として大小7つの断層が活動したことをはじめて明らかにした。断層変位量の最大値は右ずれ、4.9mであることが確認された。なお、精度のよい調査のベースとなった空中写真、地形図の利用はMTAとの協力があって初めて可能となったものであり、ドイツ、フランス、米国などの大学・機関はこれを利用できていない。したがって、この地震に関する地調の成果は世界的にみて、もっとも精度のよい記録となる。なお、今回の第1次調査結果は地質ニュース、学会の速報誌等で報告する予定である。
5.第2次調査について
第1次調査で明らかとなった各断層セグメント毎の最大変位量区間、平均変位区間、末端部の特徴などについて、詳細な変位量分布を求めるため、地震断層全域にわたって平均300m間隔で合計約300地点の計測を行う必要がある。MTAサイドでは第1次調査の後、未計測地点で概要調査を行うこととしている。したがって、地質調査所の第2次調査においてはMTA概要地点の内、主要な150地点について再計測を行い、MTAと共同で測量図を作成する。また、これらのデータをとりまとめて、2.5万分の1地震断層分布図及びデータベースを作成する。 添付図・資料リスト
本件に関する問い合わせ先
所在地 〒305-8567 つくば市東1−1−3
地質調査所地震地質部変動解析研究室 佃 栄吉 電話0298-54-3656
〃 〃 活断層研究室 粟田泰夫 電話0298-54-3694
〃 〃 活断層研究室 吉岡敏和 電話0298-54-3554
〃 企 画 室 電話0298-54-3572
平成11年10月20日
地震調査研究推進本部
政策委員会予算小委員会
1999年9月21日未明、台湾中部の集集付近を震源として、マグニチュード 7.7の地震が発生した。10月6日に開催された第60回地震調査委員会において、この地震発生による我が国の地震活動に対する影響が評価されたところであるが、このような大きな地震断層を伴う内陸型の大規模な地震は、8月17日に発生したトルコのコジャエリ地震と同様に、極めて希な現象である。
また、今回の地震は、我が国に多く存在する逆断層型の内陸地震である。台湾地域は我が国同様活断層の分布密度が高いと言われているが、今回活動した断層を含めて、活断層の活動時期、最新活動時期、一回あたりの変位量などは解明されていない点が多く、この種の研究者の数も少ないことから、我が国の研究者の協力が必要とされている。
したがって、今回の台湾の地震について調査研究を行うことは、台湾、さらには世界の地震調査研究の発展にとって貴重な基礎資料を提供するものと期待される。とくに、内陸地震のみならず、海溝系の巨大地震・津波地震のメカニズム解明や被害予測に役立つととともに、総合基本施策に基づき推進することとしている強震動予測手法の高度化にとっても、大きく貢献するものと思われる。
以上のことから、地震調査研究推進本部政策委員会予算小委員会は、我が国の関係機関による緊密な連携のもと、APECの研究協力の枠組み等を活用して、今回の台湾の地震についての調査研究を実施することが重要であると考える。
研究課題 |
1999年台湾集集地震とその災害に関する調査研究 |
研究代表者 |
家村 浩和 京都大学工学研究科教授 |
研究組織 |
京都大学工学研究科・防災研究所,東北大学理学研究科,東京大学地震研究所・工学系研究科,東京工業大学理工学研究科・総合理工学研究科・工学研究科,神戸大学工学部,九州大学人間環境学研究科・工学研究科,東京電機大学工学部の研究者(15名) |
研究目的 |
1999年9月21日午前1時47分頃,台湾中部の南投県において発生したマグニチュード
7.7の地震は,台湾に甚大な被害をもたらした。 |
調査内容 |
1.活断層と近傍地盤の挙動
内陸型の巨大地震という日本にとって最も警戒すべき地震の発生メカニズムを解明する。
2.地盤震動の分布
広範囲にわたる地盤震動の分布を強震計網のデータを活用し,地盤震動の分布を高精度に解析する。
3.各種構造物の破壊とその機能低下
耐震設計などがかなりの水準にある構造物の破壊メカニズムの解明,巨大地震下における耐震性能の調査を実施するとともに,各種施設の破壊に伴う機能低下の程度についても調査を進める。
4.都市防災と災害社会学
大災害時の救急・緊急対応・情報伝達など,広範囲に及ぶ災害を社会学的な観点から調査分析する。
○ 以上について,本研究グループは,台湾側の関係学術機関の研究者と共同で調査研究を実施する。 |
調査期間 |
10月7日から一週間 |
調査成果 |
平成11年11月26日(火)於:東京大学工学研究科8号館82講義室
「内陸におけるプレート境界大地震の脅威
−台湾921集集地震調査速報会−」の開催 |