地震調査研究の5年間を振り返って

平成12 1

京都大学 防災研究所


  阪神・淡路大震災を契機として,私共京都大学防災研究所においては気象庁とのデータ交換を進め,西南日本に於ける震源決定精度の向上と,多量で良質の地震データ取得に務めてきた。また,地震調査研究推進本部が進めてきた基盤観測網のうち近畿の38観測点のデータは気象庁とのデータ交換網にのせて、現在は試験的に防災研究所地震予知研究センターに送られている。

 広帯域地震計観測はその設置場所などを提供するなどの協力をする一方、波形データは地震パラメータの解析などに活用されている。GPSの観測網の整備は地殻の定常的、あるいは長期的な変動を明らかにしつつあり、これらを利用して南海地震及び内陸においては中央構造線、花折断層、跡津川断層、山崎断層などの活断層の精査に活用されている。また活断層調査により、その活動歴などが明らかにされつつあり、有馬高槻構造線など近畿の大都市直下の断層運動に伴う地震被害想定,ひいては地域の防災対策に大きく貢献するものと期待される。

 基盤観測網等の構築は着実に進んでおり,世界でも類を見ない観測システムの構築が近い,(と聞いている)。一方,高感度地震計による地震観測では大学の古い微小地震観測網も組み入れられているが,平成114月にまとめられた「地震調査研究の推進について」の中に書かれているように,大学の観測施設について「可能な限り早期の観測施設の整備」が望まれる。

 強震計は自治体等においても相当数配置されている。大学ではこの波形データを収集する計画であるが,一部の都市圏に限られているので,むしろ地震調査研究推進本部において全国的に自治体等のデータを収集する事を検討してはどうか。

これら諸観測によるデータも着実に蓄積されつつある(と聞いている)。今検討されているインターネットによる配信は普遍的,かつ効果的ではあるが,ひとつの方法だけでなく,大学など研究機関,気象庁など現業実務機関,地域防災を担う自治体等に対して複数のデータ流通手段を講じることも検討すべきではないか。

 活断層調査は表層部分が明らかにされたが、発生する地震像をはっきりさせるために深部調査が必要である。活断層の長期評価は「数百年」の単位でしか行なわれておらず,情報を受け取る市民,行政の側に少なからぬ困惑を招いているとの報道もあり,今後この精度を上げるために種々の観測データを総合した地震動の確率予測手法の開発に官学挙げて共同で取り組むことも必要である。

 前述のように,GPS連続観測網の整備により,広域の地殻変動をほぼリアルタイムで把握することが可能となったが,大地震発生前に生じると考えられる断層深部での動きを捉えるには,精度・密度とも十分とは言えず,ボアホールを利用した地殻変動連続観測網の整備が望まれる。

 最後に,市民の間にいまだ震度とマグニチュードの誤解があるように,地震調査研究成果や調査委員会報告などを,市民にわかりやすく伝えようとする努力がやはり必要であろう。


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