資料 政11−(5)
中央防災会議大都市震災対策専門委員会提言について
国土庁防災局
T 経緯 |
大都市震災対策専門委員会(座長:岡田恒男東京大学名誉教授)は、平成10年1月13日付けの中央防災会議決定により中央防災会議に設置され、これまで4回の会合を開催して大都市地域特有の課題に対応する震災対策のあり方について検討を行ってきた。
その成果について、専門委員会の提言として取りまとめ、平成10年6月10日に中央防災会議に報告した。
(参考)大都市震災対策専門委員会専門委員(敬称略・50音順)
阿部 勝征
東京大学地震研究所教授
安藤 雅孝
京都大学防災研究所地震予知研究センター教授
石川 幹子
工学院大学建築学科教授
岡田 恒男
(座長) 芝浦工業大学教授・東京大学名誉教授
片山 恒雄
科学技術庁防災科学技術研究所長
熊谷 良雄
筑波大学社会工学系教授
島崎 邦彦
東京大学地震研究所教授
土岐 憲三
京都大学大学院工学研究科長・工学部長
廣井 脩
東京大学社会情報研究所教授
室崎 益輝
神戸大学工学部教授
森地 茂
東京大学大学院工学系研究科教授
吉井 博明
文教大学情報学部教授
(参考)大都市震災対策専門委員会開催状況
○平成10年1月30日(金)
・大都市地域における大規模震災 ・大都市地域の地震活動の評価
○平成10年3月3日(火)
・予防対策のあり方 ・応急対策の備えのあり方
○平成10年4月21日(火)
・地震防災に関する研究成果、情報の活用 ・大都市地域特有の震災対策
○平成10年5月26日(火)
・提言(案)
U 大都市震災対策専門委員会提言の概要 |
1 はじめに
○ 阪神・淡路大震災の教訓を活かした震災対策の充実については、従来から各機関において対策を講じてきたが、複数の機関の連携が必要な課題については、予防・応急対策等の取組をより効果的なものとすることが必要。
特に、大都市地域の大規模震災の甚大性・広範性を踏まえれば、国、地方公共団体等の複数の機関が高度な連携を図りながら実効的対策を講じることが重要であるため、あらためて政府全体の検討を深め、詳細かつ具体の対策につなげていくことが必要。
○ 専門委員会は、今後、国、地方公共団体等の関係機関において、本提言を踏まえた対策の具体化に向けた検討及び施策の推進が図られることを期待。住民等においても、本提言を踏まえた取組の推進が図られることを期待。
2 本提言の対象区域
○ 専門委員会は、大都市特有の課題に対応する震災対策のあり方を検討することとしているが、今回は、都府県の区域を越えた広域的な市街地で大規模な地震が発生した場合の特殊性に焦点を当てて、その対策のあり方について検討。このため、本提言は、都府県の区域を越えて市街地が広域化している三大都市圏の区域を対象。
3 大都市地域における地震活動の評価
○ 南関東地域における地震活動については、従来からの評価どおり、直下の地震の発生が切迫している。
○ 近畿圏及び中部圏においては、市街地の内部又は近隣に活断層が密集しており、次の南海トラフ沿いの巨大地震の発生に向けて地震活動が活発化する可能性が高い活動期に入ったと考えられる。
4 大都市地域における大規模震災の特殊性
○ 大都市地域は、地震による揺れが大きい沖積平野に人口や諸機能が集積する市街地が広範囲に広がっており、大規模地震が発生した場合には極めて大きな被害が発生しやすく、単独の都市に発生する災害に比べて対応すべき課題が多い。
・多数の施設や構造物への甚大な被害発生の可能性、応急対策需要量の増大
・広域な市街地の広がりにより、帰宅困難者の発生など被害の広域性・複雑性
・重要な政治・経済・社会機能への影響の発生、国家的・国際的拡大
5 大都市地域における震災対策の重点課題
以下の基本的視点を踏まえて、予防対策・応急対策の備えに関する重点課題の検討、具体化が必要。
(1) 基本的視点
○ 大都市地域の大規模震災に備えるためには、施設・構造物の耐震化、地震に強い都市構造の整備等による予防対策の推進が重要。そのためには、住民や企業等も建築物の耐震性・安全性の確保などに主体的に取り組むとともに、さまざまな主体が行う予防対策を総合的・横断的に推進することが必要。
○ 予防対策の推進のためには、地震防災に関する調査研究について、地震学、土木工学・建築学、社会学など関連分野間の相互連携に留意しながら、総合的に推進し、その成果を防災対策に活用することが必要。
○ 応急対策の実践的な備えも平常時から進めておくことが重要であり、各主体間の的確な連携を確保しながら対策を講じることが重要。
(2) 予防対策の重点課題
@ 地域の地震防災に関する整備の現状把握・整備目標等の共有
【検討すべき施策】
○地域における各種の施設・構造物等の耐震性、市街地の面的整備状況等の横断的把握、認識の共有
○危険度マップの汎用化等による住民の理解を促進するための情報の公表
○地域の地震防災性の向上に向けた目標の設定、共有
A 震災時に有効に機能する施設整備における関係機関の連携推進
【検討すべき施策】
○関係機関の連携により、公園、緑地等のオープンスペースの計画的確保、震災時の避難収容を想定した施設整備の推進
○関係機関の連携により、震災時の輸送活動を想定した交通・輸送施設のネットワーク形成、施設整備の推進
○関係機関の連携により、震災時の消火・生活用水の確保方策の推進
B 耐震基準・耐震改修方法等に関する情報の交換・共有
【検討すべき施策】
○地質・地盤情報、地震動情報等を含め、施設・構造物に関する基準や改修工法等の情報について、学識経験者等を含む情報交換の場の設定。
C 圏域を対象とする多様な地震被害想定の検討
【検討すべき施策】
○三大都市圏の各圏域で、関係都府県、関係省庁等により、予防対策や応急対策の備えに実践的に活用するための広域的な地震被害想定の実施。
(3) 応急対策の備えにおける重点課題
@ 実践的な備えの推進
【検討すべき施策】
○応急対策活動のうち特に各機関の連携を確保しながら事前対策を講じておくべき課題について、実践的な備えを推進。
・負傷者の搬送などの分野ごとに、災害時の特別の状況下でも有効に機能する実践的な対応パターンの構築。
・要請手続き等の明確化
・応急対策に活用する施設の指定
○負傷者の搬送など人命に直接的に関係する活動や、関係機関が多岐にわたる活動から順次検討するとともに、その検討成果については、中央防災会議の場で申し合わせるなど各機関で共有。
A 情報の共有の推進
【検討すべき施策】
○被災状況や各機関の対応状況等を総合的に収集し、効果的な対応パターンに沿った応急対策が可能となるよう、関係機関の情報の共有の推進。
○災害時の情報を迅速・的確に収集・伝達し、関係機関で共有できるよう、情報の種類、伝達方法、手順等の事前決定、システムのネットワーク化の推進。
B 広域防災拠点を核としたネットワークの形成
【検討すべき施策】
○陸上、水上及び空路による輸送をネットワーク化した応急対策活動を迅速・的確に実施するため、広域防災拠点やオープンスペースを活用した応急対策活動のネットワークの形成。
○広域防災拠点のあり方、平常時も含めた活用・運用方策、広域防災拠点を核とした応急対策活動のネットワークのあり方等についての検討、整備の推進。
6 地震発生可能性の評価に関する情報の活用
○ 地震学の成果による地震発生可能性の評価に関する情報は、行政や住民の具体的な防災対策・行動に結びつけることにより、死者の軽減等の被害の軽減が可能。
○ 地震発生可能性の評価については、活断層評価など新たな成果が得られつつあるが、一方で、その成果を具体の防災対策に活用する上での課題も多い。
・情報内容のあり方
・地震発生可能性の評価を的確に活用する手法
・情報を行政や住民の具体の対策・行動に繋げる方策
・調査研究の成果の活用に当たっての重点化
○ 今後とも将来的な地震予知の実用化を目標とした調査研究の推進が必要。
○ 地震調査研究の成果を防災対策に活用するため、相互の連携が必要。また、地震学と地震学以外の地震防災研究の相互連携も必要。
7 大都市地域の震災対策に関する各種対策の体系的あり方
(1) 大都市地域の震災対策に関する国と地方公共団体の連携の推進
○ 大都市地域においては、大規模な地震が発生した場合の被害の広域性・甚大性等から、国と地方公共団体等の連携のもと、対策を一層推進していく必要。
(2) 圏域ごとの連携による震災対策の充実・強化策のあり方
○ 「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」(平成4年8月21日中央防災会議決定)について、本提言の考え方に基づき、阪神・淡路大震災の教訓等を踏まえ、速やかに改訂するとともに、同大綱に基づく対策の具体化及び推進を引き続き図ることが必要。
○ 近畿圏及び中部圏においても、地震活動の活発化が懸念されるとともに、震災による被害は甚大かつ広域に及ぶため、地方公共団体の意向も踏まえながら、現行の震災対策を充実・強化するための連携方策のあり方について、具体的に検討を進めることが必要。
(3) 特定の課題ごとに作成する実践的な対策
○ 「南関東地域震災応急対策活動要領」(昭和63年12月6日中央防災会議決定)について、本提言の考え方に基づき、阪神・淡路大震災の教訓等も踏まえ、速やかに改訂することが必要。
○ そのほか、広域的な連携を確保して実践的な応急対策の備えを行うべき課題の抽出、個別の課題ごとに国レベルで講じるべき施策及び国による地方公共団体の支援方策について、国の関係機関及び関係地方公共団体間の連携のもとに検討することが必要。
8 大都市地域の震災対策の推進体制
○ 広域的な連携や国と地方公共団体の連携の重要性を踏まえ、国と関係地方公共団体の連携強化が必要。このため、圏域ごとに、国と圏域内の関係地方公共団体により、相互連携の具体的あり方等を検討・調整していくことが必要。
○ 専門委員会は、今後も定期的に会合を開催し、本提言を踏まえて講じられる各種の施策についてフォローアップを行うとともに、必要に応じて新たな検討課題を抽出し、検討を行う。
−大都市地域の震災対策のあり方について−
平成10年6月10日
中央防災会議
大都市震災対策専門委員会
目 次
T.総論
第1 はじめに
第2 本提言の対象区域の考え方
第3 大都市地域における地震活動
第4 大都市地域における大規模震災の特殊性
U.大都市地域における震災対策の推進
第5 大都市地域における震災対策の重点課題
第6 地震発生可能性の評価に関する情報の活用のあり方
第7 大都市地域の震災対策に関する各種の対策の体系的あり方
第8 大都市地域の震災対策の推進体制
J.総論 |
第1 はじめに
戦後の我が国の大都市直下を襲った初めての大規模地震災害である阪神・淡路大震災のさまざまな教訓については、今後の防災対策に十分に活かしていく必要がある。大震災以降これまでに、国、地方公共団体等の各機関においてそれぞれの課題に応じた対策を講じてきているところであり、現在までに得られた大震災の教訓を活かした防災基本計画、地域防災計画等の改訂、新たな施策の検討・実施等がおおむね出揃ってきているところである。
しかしながら、関係する複数の機関が的確な連携を図りながら対策を講じるべき課題については、各機関で講じてきた施策を前提として、さらに各機関の有機的な連携を確保し、事前対策、応急対策等の取組をより効果的なものとするよう、あらためて政府全体としての検討を十分に深めていく必要がある。
特に、都府県の区域を越えて市街地が広域化している大都市地域において大規模な地震が発生した場合には、その被害は甚大かつ広範なものとなるため、国、地方公共団体等の複数の機関が高度な連携を図りながら対策を効果的に実施することが重要であり、あらためて政府全体としての検討を深め、詳細かつ具体の対策につなげていく必要がある。
本専門委員会は、以上のような趣旨を踏まえ、平成10年1月13日付けで中央防災会議に設置され、大都市特有の課題に対応する震災対策のあり方について、これまでに4回にわたる調査・検討を行ったところであるが、その結果を以下の提言として報告する。
本専門委員会としては、今後、各省庁、地方公共団体等の関係機関において、本提言を踏まえた対策の具体化に向けた検討及び施策の推進が図られることを期待するとともに、大都市地域内の住民や企業等においても、本提言を踏まえた取組の推進が図られることを期待するものである。
第2 本提言の対象区域の考え方
本専門委員会は、大都市特有の課題に対応する震災対策のあり方を調査・検討することとしており、その検討対象区域は、本来、いわゆる三大都市圏に限定されるものではなく、政令指定都市や道府県庁所在市など、その現状として「大都市」としての性格や課題を有する都市についても、検討課題に応じて対象に含めながら調査・検討を行うべきものである。
しかしながら、本提言は、都府県の区域を越えて市街地が広域化している大都市においては、大規模な地震が発生した場合にその被害が甚大かつ広範なものとなり、国、複数の都府県等の多岐にわたる機関が高度な連携を図りながら対策を効果的に実施していくことが必要である、という特殊性に特に焦点を当てて、そのための対策のあり方について検討を行ったものであり、都府県の区域を越えて市街地が広域化しているいわゆる三大都市圏の区域を検討対象としている。
第3 大都市地域における地震活動
1 南関東地域における地震活動の評価
(1) 中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会は、南関東地域に被害をもたらすおそれのある地震等について検討を行い、昭和63年6月27日付けの中間報告では、特に南関東地域直下の地震の発生について、ある程度の切迫性を有していると指摘している。
また、平成4年8月21日付けの同専門委員会検討結果報告でも、南関東地域直下の地震のうちプレート境界近くで発生するものについて、「相模トラフ沿いの規模の大きな地震に先立ってプレートの潜り込みによって蓄積された歪みのエネルギーの一部がいくつかのマグニチュード7程度の地震として放出される可能性が高いと推定される。関東大地震の発生後既に70年が経過していることを考慮すると、今後その切迫性が高まってくることは疑いなく、次の相模トラフ沿いの規模の大きな地震が発生するまでの間に、マグニチュード7程度の規模のこのタイプの地震が数回発生することが予想される」と指摘している。
(2) このようなプレート境界近くの地震の発生は、南関東地域の極めて複雑なプレート構造に起因しており、フィリピン海プレートの上面や内部で発生するやや深い地震(深さ20〜50q)、太平洋プレートの上面や内部で発生する深い地震(深さ50〜100q)と、いくつもの活動域で大規模な地震の発生の可能性があるというメカニズムについての考え方は、現時点でも維持されるものである。
また、最近の観測結果からも、次の相模トラフ沿いの巨大地震発生に向けての歪みの蓄積が着々と進んでいることが示されており、それに先立って発生することが想定されるプレート境界近くの地震の発生が、依然として「ある程度の切迫性を有している」との評価は、現時点においても変わらないものと考えられる。
さらに、南関東地域は、プレート構造の複雑さに起因してさまざまなタイプの地震が発生する可能性があるという点において、他の地域と比較して地震の危険性が高い。
(3) また、南関東地域に著しい地震被害をもたらすおそれのある地震としては、相模トラフ沿いの地震、神縄・国府津−松田断層帯等の活断層による陸域の浅い地震、房総半島沖の地震、神奈川県西部の地震についても、その発生の可能性を考慮する必要がある。
2 近畿圏及び中部圏における地震発生可能性の評価
(1) 近畿圏及び中部圏において著しい被害をもたらすおそれのある地震のうち、南海トラフ沿いの巨大地震については、最近のものとして1944年の東南海地震(M7.9)と1946年の南海地震(M8.0)が発生している。
このタイプの巨大地震は、ほぼ100〜150年間隔で発生し、また、隣り合う東海沖と南海沖の震源域で短い時間をおいて連続的に、又は同時に発生してきたことが分かっている。1944年及び1946年の地震は、地殻変動の記録からはその前回の安政の地震の4分の3程度の大きさであったと推測されることから、「次の地震までの時間は前の地震の大きさに比例する」という時間予測モデルに従えば、今後20〜30年後に次の巨大地震が発生し得るとの見解もあり、相模トラフ沿いを震源とする関東大地震の再来よりもその発生時期は近いとも考えられる。
(2) 陸域の地震についてみると、近畿圏の中央構造線より北側は日本の中でも活断層の密度が最も高い地域であり、平野・盆地と山地との境目に沿って活断層が分布し、近畿圏の盆地(京都盆地、奈良盆地)や沖積平野(大阪平野)に広がる市街地の内部に、又は市街地に近接して活動度の高い活断層が存在している。
なお、平成7年兵庫県南部地震は、兵庫県南部の阪神地域から淡路島にかけて延びる六甲・淡路島断層帯で発生したが、今後それに隣接する活断層系で連鎖反応的に地震が起こる可能性が高いことを指摘する見解もある。
また、中部圏においては、沖積平野(濃尾平野、伊勢平野)に広がる市街地の内部に、又は市街地に近接して活動度の高い活断層が存在している。
(3) 南海トラフ沿いの巨大地震発生の数十年ほど前から西南日本において陸域の地震活動が活発となり、直下型地震が数回発生するとの見解もあるが、この数年の西日本の地震活動をみると、21世紀前半の次の南海トラフ沿いの巨大地震発生に向けて、近畿圏及び中部圏を含む広い範囲について地震活動が活発化する可能性が高い活動期に入ったと考えられる。
3 地震発生による危険度
現在、地震調査研究推進本部においては、各地域の地震発生可能性の評価について検討が進められているが、本専門委員会としては、現時点において大都市地域における震災対策に関する検討を行う前提として、以上のように大都市地域の地震活動に関する評価を行うものである。
以上のような南関東地域、近畿圏及び中部圏における地震発生可能性の評価を踏まえると、従来から直下の地震発生の切迫性が指摘されてきた南関東地域のみならず、近畿圏及び中部圏を含めた大都市地域については、地域の地震発生の危険性と災害ポテンシャルを勘案した被害の甚大性から、大規模な地震の発生に備えるための対策の必要性は極めて高いと考えられる。
特に、南関東地域においては複雑なプレート構造の上に首都機能をはじめ社会経済活動に関する諸機能や人口が集積していること、近畿圏及び中部圏においては社会経済活動に関する諸機能や人口が集積した沖積平野や盆地の内部に、又は近接して活動度の高い活断層が存在していることから、大規模な地震による危険度を十分考慮して対策を講じる必要性が高い。
第4 大都市地域における大規模震災の特殊性
大都市地域は、一般に地震による揺れが大きいとされる沖積平野に人口や諸機能が高度に集積する市街地が広範囲に広がっており、その直下又は周辺で大規模な地震が発生した場合には極めて大きな被害が発生しやすい状況にある。
こうした大都市地域における大規模震災は、被害の甚大性・広域性・複雑性、応急対策活動の困難性、国家レベルへの影響の拡大・長期化など、単独の都市に発生する災害に比べて対応すべき課題が多いという特殊性がある。
(1) 施設・構造物等の被害の甚大性
大都市地域においては、耐震性に課題がある古い住宅や多数の人々を収容する都市的建築物、応急対策活動に必要となる施設・建築物、交通施設やライフライン等の都市基盤施設、産業施設等の危険物を扱う施設が高密かつ大量に存在している。
さらに、地盤の悪い地域や崖地に近接した地域でも土地利用がなされており、地震動の増幅、液状化や斜面の崩落による災害が生じやすい。
このため、大規模な地震により多数の施設・構造物等に被害が発生する可能性が高く、人的・物的被害や経済・社会活動の停止・混乱による影響が甚大なものとなり、さらに、救助・救急、消火、避難収容、がれき処理等の応急対策需要量の増大や応急対策活動への支障が生じる可能性が高い。
(2) 高密な市街地の広がりと被害の広域性
大都市地域においては、行政区域を越えて市街地が広域に連たんしており、また、多くの人・モノが常時広域に移動・流通していることから、広い範囲に強い地震動が発生した場合には、火災の多発・拡大のおそれがあるほか、経済・社会活動に関する被害も含めて広域的な被害が発生する可能性が高い。
このため、応急対策活動の困難性、円滑な応急対策活動を実施するための各機関の相互調整・連携の複雑化、帰宅困難者や移動中の避難者対策など、大都市地域に特有の課題を生じることとなる。
(3) 被害の重大性と影響の拡大
大都市地域においては、我が国の政治・経済・社会機能において極めて重要な機能が集積しており、また、重要な文化財等の文化的な資産も多数存在していることから、大規模な地震が発生した場合の被害は他の地域や国民生活全体、さらには世界的に波及するなど極めて甚大な影響を及ぼすこととなる。
(4) 都市的な社会環境と対応の困難性
大都市地域においては、地域コミュニティの不在、多くの外国人や高齢者の存在による住民構成の特殊性など都市的な社会環境が震災時の被害の拡大やその対応を複雑化・多様化させる要因がある。
U.大都市地域における震災対策の推進 |
第5 大都市地域における震災対策の重点課題
大都市地域における震災対策については、以下の1に掲げるような基本的視点を踏まえた施策の推進が必要となる。特に、各主体による横断的な予防対策の推進、各機関の連携に配慮した応急対策の備えの推進に関して、2及び3に掲げるような重点課題がある。
1 大都市地域における予防対策・応急対策の備えの基本的視点
(1) 大都市地域における大規模震災の特殊性を考慮すれば、大規模な地震発生の事前において、施設・構造物の耐震化、避難路、避難地、延焼遮断帯、防災活動拠点等として機能する都市基盤施設や市街地の面的な整備、防災に配慮した土地利用の実現等により、地震に強い都市構造を形成するための予防対策を講じ、人的・物的被害の防止・軽減、さらには社会・経済活動への支障の防止・軽減や、応急対策需要量の縮減を図ることが重要である。
特に、大都市地域には、個人住宅をはじめ住民や企業等が所有・管理する建築物が多数集積しているため、倒壊や延焼の危険性が高い老朽木造住宅が密集した市街地の整備改善や不特定多数の者が利用する都市的な建築物における安全性を確保することが必要である。そのためには、建築物の耐震性・安全性の確保や建築物の共同建替えの推進など、住民や企業等がその責務として主体的かつ積極的に予防対策に取り組むことが重要である。
また、大都市地域においては、国、地方公共団体をはじめ様々な主体が整備・管理を行う施設や構造物が集積し、交通施設やライフライン等の都市基盤施設や産業施設等の危険物を扱う施設も高密かつ大量に存在するとともに、市街地の土地利用も稠密・高度になされているが、適切な土地利用の確保や市街地の整備という市街地の面的な防災性の確保から個々の施設・構造物の耐震性の確保に至るまで、各主体の行う予防対策を総合的・横断的に推進することにより、地震に強い都市整備、施設整備を進める必要がある。
このような予防対策の推進に当たっては、高度に土地利用がなされた市街地の現状や複雑な権利・利害調整の困難さ、合意形成の困難さなど、大都市地域特有の隘路があるが、その原因の分析等を踏まえてその解決に向けての検討を進める必要がある。
(2) さらに、各主体による予防対策を的確に推進するためには、地震防災に関する調査研究の果たす役割が重要である。
地震防災に関する調査研究は、地震発生メカニズムや地震発生可能性の評価等の理学的研究としての地震学や、地震動が構造物に与える影響、耐震設計、構造の耐震補強、市街地火災延焼抑止技術等に関する土木工学、建築学など工学的・応用科学的な分野での調査研究、さらには、災害時の人間行動や情報伝達など社会学的な分野での調査研究など、多岐にわたる内容を含むものである。地震防災に関するこれらの調査研究の成果を防災対策に的確に活用するよう、特に関連分野の調査研究との相互連携に留意しながら、今後ともその総合的な推進を一層図る必要がある。
(3) また、地震による被害の軽減を図るためには予防対策を推進することが基本であるが、予防対策の現状を踏まえれば予防対策のみで被害の発生を防ぐことには限界があるため、実際に大規模な地震により被害が発生した後においては、応急対策を迅速かつ的確に講じることにより、被災地の住民の生命、身体及び財産を保護することが重要であり、そのための準備を平常時から進めておくことが必要である。
特に、被害が甚大かつ広範なものになるという大都市地域における大規模震災の特殊性を踏まえれば、防災関係機関の活動が著しく制限されることも予想されるため、住民や自主防災組織が地域社会において自主防災活動に積極的に従事することが求められるとともに、被災地内で応急対策を行うための備えを市町村及び都府県単位で行うことが原則的な対応になる。
しかしながら、迅速かつ的確な応急対策活動を行うためには、特定の課題について市町村及び都府県のみならず国が一定の役割を担い、各主体間の的確な連携を確保しながら対策を講じることが重要であり、そのための実践的な備えを事前に講じておくことが必要となる。
2 予防対策における重点課題
(1) 地域の地震防災に関する整備の現状把握・整備目標等の共有
現在、各種の公共施設に関しては、管理者である国、地方公共団体等において、一般に重要度の高いものから耐震性の点検や診断を行い、目標を定め、順次耐震化を進めている。また、民間の施設を含む市街地整備においても、住民や企業の自主的な取組によるもののほか、耐震改修促進法、密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律、市街地開発事業等に基づく施策により、建築物の耐震化及び市街地の整備改善が進められているが、複雑な権利調整や合意形成の困難さなどその推進を図る上で困難な課題があるのが実状である。
こうした状況を踏まえ、それぞれの大都市地域において課題の解決を図りながら各主体が効果的に予防対策のための取組を実施するためには、地域における各種の施設・構造物等の耐震性や市街地の延焼危険性等について、国や関係地方公共団体が横断的・即地的に把握し、認識を共有することが、まず求められる。
また、整備の進捗状況に応じて、地域における最新の地震防災に関する整備の現状を踏まえた対策の推進を図るため、定期的にフォローアップを行う必要がある。
このため、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。
○ 国及び地方公共団体等が管理する施設・構造物等の耐震性の把握状況や耐震化の推進状況、さらに民間の施設等も含めた市街地の面的な地震防災に関する整備の状況について、国と関係地方公共団体が横断的に把握し、認識を共有するとともに、住民が地域の地震防災に関する整備状況を認識し、理解を促進するような情報の公表を行うこと。
この際、危険度マップの汎用化や地域社会・住民の防災力の評価等の把握・公表方法等について、国、関係地方公共団体等で検討を行うこと。
○ 都市計画の方針等で定められた整備目標やその推進状況について、国の関係機関及び関係地方公共団体間で情報を共有し、地域内の住民等に周知するとともに、地域内の地震防災性の向上に向けて一定期間を掲げた整備目標を設定し、関係機関及び住民で共有すること。
○ 地震防災対策特別措置法に基づき地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備に関して都道府県知事が策定した地震防災緊急事業五箇年計画について、その推進状況等に関して定期的にフォローアップを行うとともに、結果を関係機関の間で共有すること。
(2) 震災時に有効に機能する施設整備における関係機関の連携の推進
大都市地域における予防対策の効果的推進を図るためには、国、地方公共団体等の関係各機関が連携して取り組むことが必要であり、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。
○ 延焼遮断効果等を踏まえた公園、緑地等のオープンスペースの計画的な整備や、震災時の利用を想定した避難収容等の機能を備えた施設の整備について、防災機関と施設整備機関の連携により推進すること。
○ 道路、鉄道、港湾、飛行場等の交通・輸送施設について、震災時の輸送活動等を想定したネットワークの形成を図るとともに、輸送する物資、緊急車両等を考慮した機能を備えた施設の整備について、各機関の連携により推進すること。
○ 震災時に求められる消火・生活用水を確保するため、消防水利施設の充実及び耐震化を図るとともに、公園、河川、上下水道等の整備において消防・防災機関と施設整備機関等が連携し、災害時に有効に活用し得る施設整備を推進すること。
(3) 耐震基準・耐震改修方法等に関する情報の交換・共有
阪神・淡路大震災以降、各機関において各種施設・構造物等の耐震基準や耐震改修に関する技術的な検討が進められ、耐震化が推進されているが、大都市地域においては、複雑な構造を有する施設・構造物等が多く、地震動を動的に捉えるなど精緻な設計方法が必要となる場合が少なくない。
このため、設計用地震動に関する情報や、最新の研究成果を踏まえた想定地震の設定、耐震工法等の技術情報について、各機関の間で交換・共有することが必要であり、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。
○ 地質や地盤に関する情報、地震動に関する情報(地震動の波形、強さ等)等を含め、施設・構造物等の新設・改修に必要な基準、改修工法等の情報について、学識経験者等を含めて情報交換を行うための場を設けること。
特に、最新の地震学や地盤工学等と耐震工学の連携を図り、地域特性に応じて合理的な設計用地震動の設定等を図るため、国の各機関や地盤情報等を有する関係地方公共団体等を含めた情報の交換を行うこと。
(4) 圏域を対象とする多様な地震被害想定の検討
予防対策や応急対策の備えを効果的に、かつ、地域の実情に応じてきめ細かく推進するためには、地方公共団体により地震被害想定の作成及び想定結果の活用に努める必要があるが、大都市地域においては、被災範囲が相対的に狭い直下型の地震であっても都府県の行政区域を越えた被害が発生するため、各機関が連携して事前対策を実施するためには、地震被害を広域的に想定することが求められる。
現在、都道府県等で行われている地震被害想定は、行政区域を超えた被害を総体的に想定していないが、関係各機関が連携して大都市地域の圏域を対象とした地震被害想定を行い、各主体における対策を効果的に推進することが必要である。
このため、予防対策や応急対策の備えなどの活用目的に応じ、圏域を対象として多様な被害を機動的に想定し、その成果を活用することが必要であるため、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。
○ 三大都市圏のそれぞれの圏域において、関係都府県、関係省庁、関係機関等により、予防対策や応急対策の備えに実践的に活用するための広域的な地震被害想定を実施すること。
その際、圏域内の都府県等で既に行われている被害想定手法及び結果、さらにそれに基づく施策等を調査・検討する必要がある。
3 応急対策の備えにおける重点課題
(1) 実践的な備えの推進
大都市地域における大規模震災において迅速かつ的確な応急対策活動を行うためには、特定の課題について、関係機関の連携のもとに実践的な備えを事前に講じておくことが必要となる。
このため、応急対策活動のうち特に各機関の連携を確保しながら実践的な備えを事前に講じておくべき課題について、災害時の特別の状況下でも有効に機能するような実践的な対応パターンを構築し、それに対応して、要請手続き等の明確化、応急対策に活用する施設の指定等について検討を進めるべきである。
このような検討に必要となる観点は、次のとおりである。
○ 実践的な対応パターンの構築
負傷者の搬送、緊急輸送等の応急対策の分野ごとに、効果的・実践的な対応パターンを具体的に定めておく必要がある。なお、災害発生時に入手できる情報等は限定されることを前提として、講じるべき応急対策の主な流れと相互関連や優先順位について、あらかじめ定めておくことが必要である。
○ 要請手続き等の明確化
応急対策の実施に必要な要請手続き等について、その相手方や必要な情報を明確にしておく必要がある。要請の相手方等については、情報伝達網が輻輳する場合等も想定し、バックアップも含めて明確にしておく必要がある。なお、名簿や資料等として整理しておくだけでなく、人的な交流を深めてネットワークを構築しておくことが災害発生時には極めて有効であるため、定期的な打ち合わせ等についても、積極的に進めていく必要がある。
○ 応急対策に活用する施設の指定等
応急対策ごとの対応を含め、応急対策に活用可能な施設等について、指定及び周知を行っておくことは極めて有効であり、管理者等との事前手続きを含めて、平常時から進めておく必要がある。
以上のような検討に当たっては、負傷者の搬送など人命に直接的に関係する活動や、関係機関が多岐にわたる活動から順次行っていくとともに、その検討成果については、国の機関が関係するものについては中央防災会議等の場で申し合わせることにより各機関で共有し、国として国レベルと地方公共団体レベルの施策の整合性の確保や、地方公共団体における防災体制充実の支援を行っていく必要がある。
また、検討成果の実効性の確保を図るため、関係者が習熟するための機会を設けるなどの具体的方策について検討を進めるべきである。
(2) 情報の共有の推進
各機関が連携して効率的な応急対策を実施するためには、被災状況や各機関における応急対策の実施状況に関する情報を総合的に収集・分析し、関係機関の間で共有することが極めて重要である。
このため、実践的な応急対策の備えに関する検討を踏まえ、応急対策に活用可能な施設等の情報を関係機関の間で共有し、効果的な対応パターンに沿った対策を迅速に講じることが可能となるよう、積極的に検討を進めるべきである。
一方、災害時における情報については、より迅速かつ的確に収集・伝達するとともに、関係機関の間で共有できるよう、あらかじめ、情報の種類、伝達方法、手順等を決めておくことが有効であり、これらの点についても関係機関の連携により検討を進める必要がある。
なお、情報の共有の推進に当たっては、既存のシステムを相互に活用し、入力等の負荷を極力小さくするよう留意しながら、関係機関のシステムの連結、端末ベースでの共有等のネットワーク化を推進する必要がある。
(3) 広域防災拠点を核としたネットワークの形成
災害時において緊急輸送活動等の応急対策活動を迅速かつ的確に実施するためには、広域的な防災拠点やオープンスペースを活用し、緊急輸送路による陸上輸送、海上及び内陸に至る河川を活用した水運及び空路による輸送を相互にネットワーク化した応急対策活動の実施が有効であるため、そのための事前の備えとして、広域防災拠点を核とした応急対策活動のネットワーク形成を進める必要がある。
このため、大都市地域については、圏域ごとに、広域的な防災拠点のあり方、平常時も含めた活用・運用方策、広域防災拠点を核とした応急対策活動のネットワークのあり方等について関係機関の連携により検討し、その整備を推進するとともに、広域防災拠点を核とした関係機関の交流や訓練についても、推進すべきである。
なお、南関東地域においては立川広域防災基地等の整備が進められているが、地域内の防災拠点間のネットワークを形成するための検討及び取組を推進する必要がある。
また、近畿圏においては、圏域内の防災拠点間のネットワークを形成するための検討を推進する必要がある。
第6 地震発生可能性の評価に関する情報の活用のあり方
地震発生可能性の評価に関する情報の活用については、大都市地域に限らず全国共通の課題であるが、特に、大都市地域における大規模震災による被害の甚大性等を踏まえれば、事前対策を確実に行うことが重要であり、そのために地震発生可能性の評価に関する情報を活用する意義は大きいため、本専門委員会で検討を行ったものである。
1 地震発生可能性の評価に関する情報の防災対策への活用のあり方
(1) 地震防災に関する調査研究のうち、地震による被害の軽減に資するものとして、地震学を中心とした地震調査研究の成果による地震発生可能性の評価がある。
地震発生可能性の評価については、いつ(時間を示す要素)、どこで(場所を示す要素)、どの程度の大きさ(規模、地震動の大きさを示す要素)という3要素を備えた情報とし、防災機関のほか、行政、住民、企業、施設管理者などが行う具体的な防災対策・防災行動(施設・構造物等の耐震化、都市基盤整備、応急対策の備え、施設等の立地選択等)に結びつけるようその情報を活用することにより、死者の軽減、二次災害の軽減、国民生活や地域経済への影響の軽減など地震による被害の軽減に繋げることが可能となるものである。
(2) 地震発生可能性の評価については、地震調査研究推進本部等を中心とした地震調査研究の進展に伴い、活断層に関する評価や余震確率評価手法など新たな成果が得られつつある一方で、現在の調査研究の水準の限界から、その成果に関する情報を具体の防災対策・防災行動に活用する上での課題も多いが、次のような課題に留意して、関連する調査研究との連携を図りながら、検討を進める必要がある。
@ 情報内容についての検討の必要性
地震発生可能性の評価を情報として伝える際には、定量的な評価と定性的な解説を併せて発表することや、他の地域との比較や過去の地震との比較についての情報も併せて発表するなど、情報内容に工夫を講じることにより、防災機関や住民の防災対策・防災行動に繋げやすい形で発表するよう、検討を進めるべきである。
特に、長期的な期間を対象とする地震発生可能性の評価に関する情報については、地域における地震発生の危険性・切迫性を実感できる情報内容とする必要がある。例えば、数十年単位の期間を対象とした情報として提供されることが望ましい。
A 地震発生可能性の評価を的確に活用する手法の必要性
活断層に関する評価をはじめとする地震発生可能性の評価に関する情報を、地域の防災体制、被害想定やハザードマップ、住民に対する広報・啓発の材料などとして具体的に応用・活用する手法について、検討を進めるべきである。
その検討においては、地震発生可能性の評価に関する情報を具体的な手法に応用・活用可能なものとするとともに、その手法については、行政や住民の災害予防のための対策・行動に具体的に繋げる契機となるよう留意する必要がある。その際、地震学と関連工学(土木工学、建築学等)、社会学など関連分野との相互連携により、調査研究を総合的に推進する必要がある。
B 情報を行政や住民の具体の対策・行動に繋げる方策の必要性
地震発生可能性の評価に関する情報を地域防災計画、被害想定やハザードマップ、住民に対する広報・啓発の材料などとして活用し、地震による被害の軽減という効果を達成するためには、地震学的な情報及びそれを応用・活用した情報をさらに行政や住民の具体的な防災対策・防災行動に繋げる方策が必要である。
このため、例えば次のような方策について、地震発生可能性の評価に関する情報を活用可能なものとするとともに、それを行政や住民の具体の防災対策・防災行動に繋げることが可能となるよう、検討を進める必要がある。
・ 都市整備による火災の延焼防止や救助体制の準備等の事前の備えに結びつけるための方策として、防災都市づくりの目標・マスタープランを策定し、地域防災計画、都市計画等に反映すること。
・ 危険地域への立地を減少させるような選択に結びつけるための方策として、軟弱地盤、液状化危険地域、土砂災害危険区域、延焼危険区域など土地条件等に応じた詳細な危険性を把握し、住民に対する公表により周知すること。
・ 施設・構造物等の耐震補強による倒壊防止、ライフラインの支障防止等に結びつけるための方策として、公共施設及び民間施設の耐震性の評価・診断結果を活用すること。
C 調査研究の成果の活用に当たっての重点化の必要性
地震発生可能性の評価に関する情報を地震による被害の軽減という最終的な効果に結びつけていくための方策を検討するに当たっては、死者の軽減等重要な効果に確実に結びつく分野に特に重点を置いて、情報の活用を検討する必要がある。
例えば、阪神・淡路大震災では圧死が死因の9割近くを占めたことから、圧死者の軽減に確実につながる個人住宅の耐震補強を促進するため、地震発生可能性の評価に関する情報をどのように住民に伝え、耐震診断・耐震改修という行動に繋げていくかについて、特に重点を置いて検討を進める必要がある。
D 地震予知研究の推進
地震の直前予知は、東海地震を除き一般には困難であるのが現状であるが、地震の直前予知が可能となれば適切な予防措置をとることによって地震による被害を大幅に軽減できる可能性がある。
被害の軽減を図るための事前対策としては、直前予知に全面的に依存するのではなく、予防対策や応急対策の備えのための施策が重要であることは当然であるが、それらにより被害を軽減することには限界があること及び直前予知の効果の大きさを考慮した場合、今後も直前予知の実用化に向けた期待は大きい。そのため、地震発生に至る全過程の把握によってその最終段階にある地域の特定を進めるなど、将来的な地震の直前予知の実用化を目標とした調査研究推進の努力を今後も継続する必要がある。
2 地震防災対策と地震調査研究との関係のあり方
阪神・淡路大震災以後に設けられた地震調査研究推進本部を中心として、地震調査研究の新たな成果が得られつつあり、防災機関は、その成果を十分に理解するよう努める必要がある。また、地震調査研究においては、今後、その成果による情報が防災機関や住民の防災対策や防災行動に一層実効的に活用可能なものとなるような調査研究を一層推進することが望まれる。
このため、今後、「地震による被害の軽減」という共通の目標のもとに、防災対策と地震調査研究の相互の連携を一層図る必要があり、両者の情報交換を行うための場を設けることなど連携の具体的あり方を検討する必要がある。中央防災会議においても、地震調査研究推進本部等との連携を図りつつ、地震調査研究の成果を活用した防災行政の推進及び防災行政に実効的に活用可能な地震調査研究の推進を図るべきである。
また、地震学における調査研究と地震学以外の地震防災に関する研究についても、相互の連携を一層図りながら総合的に推進し、防災行政への活用を図っていく必要がある。
第7 大都市地域の震災対策に関する各種の対策の体系的あり方
1 大都市地域の震災対策に関する国と地方公共団体の連携の推進
大都市地域においては、大規模な地震が発生した場合の被害の広域性・甚大性、社会環境の特殊性等から、関係機関の連携による震災対策の推進が重要な課題である。
現在、関係都府県・市町村においても地域防災計画の作成及び実施等を通じて各機関の連携が図られているほか、地方公共団体間で締結されている災害時相互応援に関する協定等により、広域的な対策の推進も図られているところであり、これらの地方公共団体レベルの各種対策については、防災対策の基本的主体が地方公共団体であることを踏まえれば、今後とも主要な対策として位置付けられるものである。
一方、大都市地域における大規模震災の特殊性を踏まえ、現行の震災対策の推進を支援し、充実する上で特に重要な大都市地域特有の課題について、国と地方公共団体等の連携のもと、対策を一層推進していく必要がある。
2 圏域ごとの連携による震災対策の充実・強化策のあり方
(1) 南関東地域については、直下の地震の発生による被害の防止・軽減をあらかじめ図るため、平成4年8月21日に「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」を中央防災会議で決定し、当該地域において講ずべき地震防災に関する対策について、当該対策を総合的に推進する上で当面する課題を掲げるとともに、当該課題に係る施策の進め方の基本方針を示しており、国、関係地方公共団体、関係公共機関等においては、緊密な連携のもとに、同大綱に基づく対策の具体化及び推進を図っているところである。
南関東地域については、我が国の首都を擁し、人口や国際機能、経済機能等の諸機能が過度に集積しており、また、直下の地震の発生についてある程度の切迫性を有していることが現在も指摘されることから、特別の枠組みに基づく震災対策の推進が引き続き必要である。
このため、本提言の考え方に基づき、阪神・淡路大震災から得られている教訓等を踏まえ、南関東地域直下の地震対策に関する大綱を速やかに改訂するとともに、同大綱に基づく対策の具体化及び推進を引き続き図っていく必要がある。
(2) 近畿圏についても、大阪湾岸から京都盆地にかけて広域的に広がる市街地に人口や諸機能が集積しているため、大規模な地震が発生した場合の被害は甚大かつ広域に及ぶことが想定される。
このため、近畿圏における地震活動活発化の可能性、被害の甚大性・広域性、地方公共団体における取組の現状等を総合的に勘案して、地元地方公共団体の意向を踏まえながら、圏域の震災対策の現状と課題を検証し、現行の震災対策を充実・強化するための連携方策のあり方について、具体的に検討を進める必要がある。
これまで、近畿圏災害対策協議会等において広域的な取組の検討が進められているが、今後、本提言の考え方に基づき、国と地方公共団体で広域的な連携を図りながら対応することが必要な課題の整理や施策の推進方策について、国と地方公共団体間で検討を進めるべきである。
(3) 中部圏についても、濃尾平野から伊勢平野にかけて広域的に広がる市街地に人口や諸機能が集積し、また、南関東地域と近畿圏との中間に位置しているため、大規模な地震が発生した場合の被害は甚大かつ広域に及ぶことが想定される。
このため、中部圏における地震活動活発化の可能性、被害の甚大性・広域性、地方公共団体における取組の現状等を総合的に勘案して、地元地方公共団体の意向を踏まえながら、圏域の震災対策の現状と課題を検証し、現行の震災対策を充実・強化するための連携方策のあり方について、具体的に検討を進める必要がある。
3 特定の課題ごとに作成する実践的な対策
圏域ごとの震災対策のあり方を検討するに当たっては、特に重要であると考えられる課題ごとに、実践的かつ具体的な対策のあり方を明らかにするための検討が必要であり、以下の視点に留意した検討を進める必要がある。
(1) 南関東地域で大規模な地震が発生した場合にはその被害は激甚かつ広域なものとなるおそれがあることから、被災都県を越えた広域的な、また、関係機関が効果的な連携をとった総合的な災害応急対策の確立を図る必要があるため、昭和63年12月6日に中央防災会議で「南関東地域震災応急対策活動要領」を決定し、緊急災害対策本部を中心とした関係機関の基本的な役割分担等、広域的かつ総合的な災害応急対策活動体制についての活動の要領を定めている。
同要領については、本提言の考え方に基づき、阪神・淡路大震災から得られている教訓等も踏まえ、緊急災害対策本部を中心に関係機関が連携して実施する応急対策の新たな分野について基本的な役割分担を追加する等のため、速やかに改訂する必要がある。
(2) そのほか、大都市地域における特定の課題については、連携面に配慮して実践的な応急対策を講ずることが必要である。
このため、広域的な連携を確保して実践的な応急対策の備えを行うべき課題の抽出、個別の課題ごとに国レベルで講じるべき施策及び国による地方公共団体の支援方策について、国の関係機関及び関係地方公共団体間の連携のもとに検討する必要がある。
(3) 予防対策についても、大都市地域における特定の課題を抽出し、個別の課題ごとに、連携面に配慮して国レベルで講じるべき施策及び国による地方公共団体の支援方策について、国の関係機関及び関係地方公共団体間の連携のもとに検討する必要がある。
第8 大都市地域の震災対策の推進体制
1 連携面に配慮した震災対策の推進体制
我が国の震災対策は、災害対策基本法により、国において中央防災会議、地方公共団体において地方防災会議を設置して推進されているが、大都市地域の震災対策の推進、特に、広域的な連携に配慮して対策を講じるべき特定の課題の推進に当たっては、国の関係機関、関係地方公共団体等の連携を十分に確保しながら進めていく必要があり、これまでの取組を充実する観点から、連携体制の充実について検討を進める必要がある。
阪神・淡路大震災後、地方公共団体間における相互応援協定の締結や南関東地域における七都県市や近畿圏災害対策協議会の取組など、地方公共団体間の広域的な連携のための取組が充実されているところであるが、今後とも一層の推進が必要である。
また、大都市地域の震災対策の推進のためには、広域的な連携や国と地方公共団体の連携の重要性を踏まえ、また、地方公共団体における連携を促進するため、国と関係地方公共団体の連携を強化する必要があり、例えば、国レベルと地方公共団体レベルの施策の整合性の確保や、国のノウハウの提供などについて、国が一定の役割を担いながら対応していく必要がある。
このため、圏域ごとに、国と圏域内の関係地方公共団体により、相互連携の具体的あり方等を検討・調整していく必要がある。
また、中央防災会議においても、事務局に設置されている大都市震災対策連絡会議等の場を活用しながら、関係省庁間の施策の連携に配慮した対策の検討等を行い、大都市における震災対策の充実を今後とも推進していく必要がある。
2 今後の本専門委員会の活動
本専門委員会は、平成10年1月の設置以来4回の会合を開催し、三大都市圏の区域を当面の検討対象として、大都市特有の課題に対応する震災対策のあり方を調査・検討し、その成果を本提言として報告するものである。
今後、各省庁、地方公共団体等の関係機関、さらには大都市地域内の住民等において、本提言を踏まえた対策の具体化に向けた検討及び施策の推進が図られることを期待するものであるが、本専門委員会としては、今後も定期的に会合を開催し、本提言を踏まえて講じられる各種の施策についてフォローアップを行うとともに、必要に応じて新たな検討課題を抽出し、検討を行うこととする。
中央防災会議大都市震災対策専門委員会専門委員
(敬称略・五十音順)
阿部 勝征 |
東京大学地震研究所教授 | |
安藤 雅孝 |
京都大学防災研究所地震予知研究センター教授 | |
石川 幹子 |
工学院大学建築学科教授 | |
座長 |
岡田 恒男 |
芝浦工業大学教授・東京大学名誉教授 |
座長代理 |
片山 恒雄 |
科学技術庁防災科学技術研究所長 |
熊谷 良雄 |
筑波大学社会工学系教授 | |
島崎 邦彦 |
東京大学地震研究所教授 | |
土岐 憲三 |
京都大学大学院工学研究科長・工学部長 | |
廣井 脩 |
東京大学社会情報研究所教授 | |
室崎 益輝 |
神戸大学工学部教授 | |
森地 茂 |
東京大学大学院工学系研究科教授 | |
吉井 博明 |
文教大学情報学部教授 |