今回の調査対象地域となった三重県の北勢地域には、標高1000m〜1200mクラスの峰が連なる鈴鹿山脈とその東側に位置する伊勢平野という明らかに特徴の異なる地形が見られます。地質学から考えると、隆起する山脈と沈降する平野があり、その境界には断層が存在し、地震をともなう急激な地殻変動が繰り返されてきたことが推定されています。そして鈴鹿山脈の東麓には、山地と丘陵との間にはっきりとした境界をつくる断層(境界断層)と、これよりさらに東側の丘陵と平野の境界にある断層(前縁断層)が断続して南北に連なっており、これらをまとめて「鈴鹿東縁断層帯」と呼んでいます。
●既存資料調査の結果
活断層の動きと関連するような過去の地震を記録した確かな歴史資料は見出されませんでしたが、その一方で今回の調査の参考となる基礎資料を体系的に数多く入手することができました。
●地形・地質調査の結果
藤原町山口付近から亀山市両尾町付近まで南北に境界断層が走る一方で、同じく山口付近から菰野町田光、杉谷付近へは前縁断層が東に弧を描きながら走っていることがわかりまし た。
また平均変位速度は、断層帯の中央部の菰野町田光、湯の山付近で大きく、北端の藤原町山口や南端の亀山市両尾町付近では小さくなっていることがわかりました。さらに、境界断層と前縁断層が平行して走る地域でのそれぞれの平均変位速度は、境界断層で小さく、前縁断層では大きくなる傾向にあることがわかりました。
こうしたことから、調査対象地域においては、前縁断層が境界断層の動きの小さい部分を補うようにして、2つの断層系が一連の活動をする可能性が高いことがわかりました。
●物理探査の結果
青川沿いに行った探査では、地下約2qまでの地層の構造が明らかにされました。その結果、鈴鹿山脈の東麓では地殻変動による地層の変形が見られ、少なくとも3本の断層があるらしいこと、断層の傾きは地表に近づくほどゆるやかになる傾向があること、境界断層と前縁断層は地下深部ではつながっている可能性が高いことがわかりました。
写真1:測定に使用した大型バイブロサイス
●ボーリング調査の結果
各ルートにおいて東海層群や段丘堆積物等の存在が実際に確認され、地下の地質状況を推 定することができました。
また、いくつかの地点で地層の高さのくい違いが確認され、地形・地質調査から推定された断層の存在が検証されました。
写真2:採取されたボーリング・コア
●トレンチ調査の結果
青川周辺で3か所、大安町石榑南で1か所の計4か所でトレンチ(調査溝)を掘削しました。そのうち青川左岸側のトレンチでは、地形から推測されたとおり、活断層が崖の下で確 認されました。また、青川右岸側のトレンチでは、最近のほ場整備の際に削りとられたかつての1〜2mの崖が、断層そのものであることが確かめられました。さらに、大安町石榑南 のトレンチでは、いちばん新しい地層のずれが、11世紀初めから15世紀初めの間に生じていた可能性が高いことが、採取された試料の年代測定結果からわかりました。
写真3:トレンチ調査風景
●調査を終えて
鈴鹿東縁断層帯の調査の結果、鈴鹿山脈の東側では地形の境界をつくる断層によって地層
が大きく上下にずれたり、もともと水平だった地層が急に曲げられたりしている構造があり、現在もなお山脈がのし上がるような地殻変動が続いていることが、物理探査等によりはっきりとわかりました。また、青川周辺のトレンチ調査により判明した地層のずれの量や、地形・地質調査による平均変位速度などの検討結果から、断層の延長は約34qであり、11世紀初めから15世紀初めの間に、マグニチュード7程度の直下型地震が発生した可能性が高いと考えられることがわかりました。さらに、その時の地層のずれが鈴鹿東縁断層帯の平均的な動きであり、その時にエネルギーが十分放出されていたと仮定すると、地震の発生する 平均的な活動間隔は約4000年〜6000年とみられることから、同じ地域で同じ規模の地震が発生するまでにはしばらくの時間が与えられているようです。
しかし、活断層にはまだわからないことも多く、例えば地表にずれが現れないマグニチュード6クラスの地震の発生を予測する方法は現在のところありません。そのような小規模な 地震でも、地下の浅いところで発生すれば、局地的に大きな被害をもたらす原因になりうるので、十分注意していく必要があります。
トレンチ調査――――― 活断層のトレンチ調査は、断層の通過している場所に調査溝(トレンチ)を掘り、その断面や平面の観察によって、過去に起こった断層運動を解読していく方法です。地層の中の土器などの遺跡や植物の化石から年代に関する情報を入手し、断層運動の発生時期や活動の間隔を把握していきます。