地震調査研究推進本部が実施している長期評価では、活断層で発生する大地震や大規模な海溝型地震がどの程度の頻度で発生してきたかをもとに将来の地震を評価しています。このために、過去に、いつ・どこで・どのような地震が起きたかを知る必要があります。このとき重要な役割を果たすのが地層の年代測定です。
活断層やプレート境界で発生する地震を調べる際には、主に平野や扇状地あるいは段丘などの地形をつくる新しい地層が年代測定の対象となります。こうした地層の年代がわかれば、活断層の地震による地形の食い違いや撓みの発生時期、海溝型地震による海岸の隆起沈降、津波の発生時期等を知ることができます。さらに、古文書等から大地震の発生時期が明らかになっている場合でも年代測定は重要です。どの断層が動いたか、どの程度の津波が来たのかを知るためには、現地調査による証拠が必要だからです。
では、どのようにして地層の年代を決めるのでしょうか。新しい地層は、古い岩石が風化・浸食され堆積したものが多いため、地層を作る粘土、砂や石ころの年代を直接測って地層の年代とするのは難しいです。そのため、地層の堆積時に取り込まれた木片や種子、貝殻等の動植物の化石の年代を測定したり、あらかじめ年代がわかっている特定の火山灰や土器を見つけることで、間接的に地層の年代を決めます。
活断層やプレート境界で発生する地震の調査では特に過去数百年~数万年前の情報が重要です。木片や貝殻を対象にこうした範囲の年代を決めるには、主に放射性炭素年代測定(14C年代測定)が用いられます。これは、大気中あるいは海洋中に一定の割合で含まれる炭素の放射性同位体14Cが、それを取り込む生物(木や貝等)の死滅とともに放射性崩壊を起こし、時間とともに一定の割合で減っていく特性を利用した測定方法で、放射性炭素の割合を正確に測定することにより木片や貝殻の年代を知ることができます(実際には細かい補正を行います)。長期評価では、補正後の14C年代をyBPという単位で表しています。これは、西暦1950年を基点とする年代であり、500yBPならば西暦1450年、2000yBPならば紀元前50年です。現在の技術では5万年前程度までの年代を測ることができます。もっと古い年代については、別の放射性同位体を用いたり、別の原理に基づく年代測定法が用いられます。
火山灰については、火山灰(火山ガラス)の色・形や鉱物組成、それらの屈折率等を調べ、既知の火山灰と対比することで火山灰を同定し年代指標とします。特に、広域火山灰(広域テフラ)と呼ばれる巨大噴火に伴う火山灰が重要な指標となっています。約7千3百年前の鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)、およそ2万8千年前の姶良丹沢テフラ(AT)、8万5千~9万年前の阿蘇-4テフラ(Aso-4)が有名です。2011年東北地方太平洋沖地震を機に貞観の津波(西暦869年)がよく知られるようになりましたが、この津波堆積物が広域に評価できるのは、貞観の地震後に起きた大規模な火山噴火(西暦915年十和田火山の噴火による十和田aテフラ)の火山灰が指標として使えるからという側面もあります。
このように、地層の年代測定なしでは過去の地震について詳しく知ることはできません。まさに、地層の年代測定は長期評価や地震防災の縁の下の力持ちなのです。地震本部のホームページで公開されている数々の報告書をご覧いただくと、どれほど多くの年代測定が実施され、いかに役立っているかを知ることができるでしょう。