「距離減衰」とは、地震の揺れや震度の大きさと震源からの距離との関係を示したもので、地震が発生した場所から遠くなればなるほど、地震の揺れが弱くなる現象のことを言います。例えば、震源に近いところの震度は大きくても、遠い場所では震度が小さくなるのは距離減衰といえます。「距離減衰式」とは、この地震の揺れの強さと震源からの距離との関係を式に表したものです。「地震のマグニチュード」や「震源からの距離」などを計算式に入力すると、震源からの距離に応じて、「地震の揺れ」や「震度」が計算されるという仕組みです。例えば、M7.0の地震が、地点Aという場所で発生したと計算式に入力すると、地点Aから10km離れた地点Bでは震度7、50km離れた地点Cでは震度4になるといった具合です。ただし、実際の式はマグニチュードと震源からの距離だけではなく、地震の発生した深さや、「地盤増幅率」と呼ばれる揺れを知りたい地点での地盤の柔らかさの指標なども必要です。なお、「距離減衰式」は過去に発生した数多くの実際の地震のデータを統計的に処理して作成されている経験的手法に基づいた式です。
では、この「距離減衰式」とは一体何のために活用されるのでしょうか?それは地震の揺れを予測するためです。地震本部ニュース2012年5月号、6月号にも「強震動評価が出来るまで」という記事でその事例が紹介されていますが、例えば、ある活断層で地震が発生した場合、その周りの地域でどの程度の震度分布になるかという予測計算に用いられています。計算した予測震度分布は、地震動ハザードの評価に用いられ、さらにその地震動ハザードを用いて、その場所でどのような被害が発生する可能性があるかを評価することができます。また、緊急地震速報にもこの「距離減衰式」が活用されています。緊急地震速報は、震源に近い地震計が最初にやって来るP波をキャッチし、瞬時に震源の位置やマグニチュードの値を推測し、これを「距離減衰式」などに入力することで、各地の震度を予測する仕組みです。
もちろん、地震の揺れを予測するためには、地形や地下の構造をモデル化し、計算機によって地震の揺れを詳細に計算することも可能です。しかし、そういった手法は時間や労力を費やすため、用途に応じて、比較的簡単に短時間で計算可能な「距離減衰式」を用いるなど、使い分けがなされています。
地震の発生場所から遠くなれば揺れが小さくなる(=「距離減衰」)は当たり前のことではないかと思うかもしれません。しかし、深い場所で発生した地震などでは、地震の波の通ってくるルートなどによって、地震発生場所から遠く離れた場所の方が揺れが大きくなる場合もありますから、一概にすべての地震に「距離減衰式」が当てはまるわけではありません。また、長周期地震動用の距離減衰式など、用途に応じて様々な距離減衰式が使われています。