福岡市では、平成17年3月の福岡県西方沖地震の経験を踏まえ、地震による人的・経済的被害を軽減するためには、住宅・建築物の耐震化が不可欠と認識し、耐震化促進に向けての各種施策を進めています。
 具体的には、建築物の耐震化の目標及び支援策等を定めた「福岡市耐震改修促進計画」( 平成20年3月策定) に基づき、市民への耐震化促進の重要性についての普及啓発、住宅の耐震改修助成制度等の活用を促進するなど、建築物の耐震化を積極的に推進しています。また、地震調査研究推進本部(以下「地震本部」という。)が公表している「警固断層帯の長期評価」や被害想定に基づき、警固断層帯南東部に着目した建築物の耐震対策を実施しています。
 今回は、こうした取り組みの中で、「警固断層帯の長期評価」を活用した事例をご紹介します。

 地震本部地震調査委員会において、平成19年3月に警固断層帯の長期評価が公表されていますが、その内容は以下のとおりです(表1、図1)。

 警固断層帯南東部においては、上記の長期評価で大規模な地震が想定されていること及び福岡市の都市機能が集積している都心部を縦断していることから、「建築物の倒壊等による人的・経済的被害の可能性を極小化する。」「本市の都心機能の保全を図る。」という観点から、この周辺地域において、これから新しく建築される中高層の建築物の耐震性能を強化し、建築物の安全性を高めていただくよう、平成20年10月に福岡市建築基準法施行条例の一部を改正し、長期的な視点に立って耐震性能を強化した建築物への誘導を図っています。

 条例の改正の概要は以下のとおりです。
(1)大地震時における設計地震力を上乗せする区域を設定(図2)
  ①揺れやすさマップ(後掲)で計測震度6.4(震度6強で一番強い震度)が大半(75%以上)を占める区域
  ②警固断層帯南東部直上の区域
  ③土地が高度利用されている区域(容積率600%以上)
(2)対象建築物及び設計地震力の上乗せ基準の設定
  高さが20メートルを超える建築物で、次に定める構造計算を行う場合は、現在の地域係数※(Z)を、その数値に1.25を乗じたもの(Z=1.0)とするよう努めなければならない。( 努力義務)
  ①建築基準法施行令第81条第1項の規定により適用される構造計算
   ・時刻歴応答解析(高さが60メートルを超える建築物)
  ②同施行令第81条第2項第1号イ、ロ又は同項第2号ロに規定される構造計算
   ・必要保有水平耐力計算・限界耐力計算・エネルギー法
  ※地域係数(Z):福岡は0.8、大地震が起こる可能性が高い地域(関東、東南海地域等)は1.0
(3)建築計画概要書への記載の義務づけ
(4)新築・改築する場合のみに適用

 条例化に先立ち、福岡市では各区ごとに「揺れやすさマップ」を作成し、平成20年5月から市民に配布しています。このマップで採用しているマグニチュード7.2についても、警固断層帯の長期評価における「警固断層帯南東部で地震が発生した場合に想定されている地震の規模」を採用しています(図3)。
 また、市民に地震の怖さや建築物の耐震化の重要性を伝える「出前講座」などでも、警固断層帯の長期評価とともに、地震本部の資料から「岩手・宮城内陸地震の長期評価で想定されている3本の活断層とは関係のないところで実際に地震が起こった」という話を引用紹介し、市民に地震への備えを促しています(写真)。

 以上、地震本部の調査研究を活用した福岡市の事例をご紹介しました。警固断層帯南東部については、地下深部の傾斜や平均的なずれの速度が不明であること、陸域の活断層と博多湾内の断層の活動時期・活動回数に違いが見られ、同時に活動する範囲及び活動時期についてさらに検討する必要があることなどから、地震本部では平成23年度から3か年の予定で「警固断層帯南東部における重点的な調査観測」を実施中です。これにより新たなデータや知見が蓄積され、防災対策に還元されていくことを期待しています。