1.活断層の長期評価

 1−2.九州地域の活断層の長期評価の概要(算定基準日 平成27年(2015年)1月1日)

○長期評価における地震発生確率値について

九州地域の活断層の長期評価についての詳細は、活断層の地域評価のページを参照ください。


九州地域において詳細な評価の対象とする活断層のずれの向きと種類及び九州地域
で発生した歴史地震・被害地震の震央
<活断層の地域評価とは>

地震調査研究推進本部では、社会的・経済的に大きな影響を与えると考えられ、マグニチュード(M7)以上の地震を引き起こす可能性のある110の主要活断層帯(基盤的調査観測の対象活断層帯)について、個別に長期評価を行ってきました。  しかし近年、M7未満の地震や主要活断層帯以外の地震によっても被害が生じていることから、ある地域の地震危険度を検討するためには、個別の活断層を評価するだけでなく、その周囲の活断層も含めて総合的に評価する必要があることが明らかになってきました。

 これを受けて、地震調査研究推進本部では、
  ・対象地域に分布する活断層で発生する地震を総合的に評価する「地域評価」の導入
  ・評価対象とする活断層の見直し
  ・地表の長さが短い活断層における、地質や地球物理学的情報を用いた地下の震源断層の位置・形状(長さなど)の評価等を含めた新たな評価手法をとりまとめました(活断層の長期評価手法(暫定版)(平成22年11月25日))。

 こうした新たな評価手法に基づき、陸域及び沿岸海域に分布し、M6.8以上の地震を引き起こす可能性のある活断層について、対象とする地域ごとに総合的に評価したものを「活断層の地域評価」と呼んでいます。

九州地域(評価対象地域)において評価対象とした活断層の分布
詳細な評価の対象とする活断層
1. 小倉東(こくらひがし)断層
2. 福智山断層帯
3. 西山断層帯
4. 宇美(うみ)断層
5. 警固(けご)断層帯
6. 日向峠−小笠木峠(ひなたとうげ−おかさぎとうげ)断層帯
7. 水縄(みのう)断層帯
8. 佐賀平野北縁断層帯
9. 別府−万年山(べっぷ−はねやま)断層帯
10. 雲仙断層群
11−1. 布田川(ふたがわ)断層帯
11−2. 日奈久(ひなぐ)断層帯
12. 緑川断層帯
13. 人吉盆地南縁断層
14. 出水(いずみ)断層帯
15. 甑(こしき)断層帯
16. 市来(いちき)断層帯
簡便な評価の対象とする活断層
17. 糸島半島沖断層群
18. 佐賀関断層
19. 多良岳南西麓断層帯
20. 福良木(ふくらぎ)断層
21. 阿蘇外輪南麓断層群
22. 鶴木場(つるきば)断層帯
23. 国見岳断層帯
24. 水俣断層帯
25. 鹿児島湾東縁断層帯
26. 鹿児島湾西縁断層帯
27.
池田湖西断層帯


(1)九州地域において詳細な評価をおこなった活断層
 ■九州北部








活断層のくくり
評価単位区間
各区間が
単独で活
動する場
合の地震
の規模(M)
複数区間が
同時に活動
する場合の
地震の規模(M)
地震発生確率(注1) 地震後
経過率
(注2)
平均活動間隔
30年以内 50年以内 100年以内 最新活動時期
  小倉東断層 7.1程度 不明 不明 不明 不明 不明
約4,600年前以後-2,400年前以前
  福智山断層帯 7.2程度 ほぼ0%〜3% ほぼ0%〜4% 0.001%〜8% 0.4以上 約9,400年-32,000年
約28,000年前以後-13,000年前以前
西山断層帯(注3)
(大島沖区間)
7.5程度 7.9〜8.2
程度
不明 不明 不明 不明 不明
約20,000年前以後
西山断層帯(注3)
(西山区間)
7.6程度 不明 不明 不明 不明 不明
約13,000年前以後-概ね2,000年前以前
西山断層帯(注3)
(嘉麻峠区間)
7.3程度 不明 不明 不明 不明 不明
不明
  宇美断層 7.1程度 ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% 0.2以下 約20000年-30000年
約4500年前以後
警固断層帯
(北西部)(注4)

7.0程度
7.7程度 不明 不明 不明 ほぼ0 不明
2005年福岡県西方沖の地震
警固断層帯
南東部
7.2程度 ほぼ0.3%〜6% ほぼ0.4%〜9% ほぼ0.9%〜20% 0.6−1.4 約3,100年-5,500年
約4,300年前-3,400年前
  日向峠−小笠木峠断層帯 7.2程度 不明 不明 不明 不明 不明
不明
 
 ■九州中部




 





活断層のくくり
評価単位区間
各区間が
単独で活
動する場
合の地震
の規模(M)
複数区間が
同時に活動
する場合の
地震の規模(M)
地震発生確率(注1) 地震後
経過率
(注2)
平均活動間隔
30年以内 50年以内 100年以内 最新活動時期
水縄断層帯 7.2程度 ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% 0.09 14,000年程度
679年筑紫地震
佐賀平野北縁断層帯 7.5程度 不明 不明 不明 不明 6,600-19,000年程度
不明
 ○ 別府−万年山断層帯
(別府湾−日出生断層帯/東部
7.6程度 8.0程度 ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0%〜0.004% 0.2-0.3 約1,300年-1,700年
1596年慶長豊後地震
別府−万年山断層帯
(別府湾−日出生断層帯/西部
7.3程度 ほぼ0%〜0.05% ほぼ0%〜0.08% ほぼ0%〜0.2% 0.06-0.6 13,000年-25,000年程度
約7,300年前以後-6世紀以前
別府−万年山断層帯
(大分平野−由布院断層帯/東部
7.2程度 7.5程度 0.03〜4% 0.06〜7% 0.1〜10% 0.5-1.0 約2,300年-3,000年
約2,200年前以後-6世紀以前
別府−万年山断層帯
(大分平野−由布院断層帯/西部(注5)
6.7程度 2〜4% 3〜7% 6〜10% - 約700年-1,700年
約2,000年前以後-18世紀初頭以前に2回
別府−万年山断層帯
(野稲岳−万年山断層帯)
7.3程度 ほぼ0%〜3% ほぼ0%〜4% 0.001%〜9% 0.4-1.0 4,000年程度
約3,900年前以後-6世紀以前
別府−万年山断層帯
(崩平山−亀石山断層帯)
7.4程度 −  ほぼ0% ほぼ0% ほぼ0% 0.2以下 約4,300年-7,300年
13世紀以後
雲仙断層群
(北部)(注6)
7.3程度以上 不明 不明 不明 不明 不明
約5,000年前以後
雲仙断層群
(南東部)(注7)
7.1程度  不明 不明 不明 不明 不明
約7,300年前以後
雲仙断層群
(南西部/北部
7.3程度 7.5程度 ほぼ0%〜4% ほぼ0%〜7% ほぼ0%〜10% 0.2-1.0 約2,500年-4,700年
約2,400年前以後-11世紀以前
雲仙断層群
(南西部/南部(注7)
7.1程度 0.5〜1% 0.8〜2% 2〜5% - 約2,100年-6,500年
約4,500年前以後-16世紀以前
布田川断層帯(注8)
(布田川区間)
7.0程度 7.5〜7.8
程度※1

7.8〜8.2
程度※2
ほぼ0%〜0.9% ほぼ0%〜1% ほぼ0%〜3% 0.08-0.9 8,100年-26,000年程度
約6,900年前以後-約2,200年前以前
布田川断層帯(注8)
(宇土区間)
7.0程度 不明 不明 不明 不明  不明
不明
布田川断層帯(注8)
(宇土半島北岸区間)
7.2程度以上 不明 不明 不明 不明 不明
不明
 ※1 布田川断層帯全体が同時に活動した場合
 ※2 日奈久断層帯全体と布田川断層帯全体布田川区間が同時に活動した場合
 
 ■九州南部




 





活断層のくくり
評価単位区間
各区間が
単独で活
動する場
合の地震
の規模(M)
複数区間が
同時に活動
する場合の
地震の規模(M)
地震発生確率(注1) 地震後
経過率
(注2)
平均活動間隔
30年以内 50年以内 100年以内 最新活動時期
 ○ 日奈久断層帯(注8)
(高野−白旗区間)
6.8程度 7.7〜8.0
程度※3

7.8〜8.2
程度※4
不明 不明 不明 不明 不明
約1,600年以後-約1,200年前以前
日奈久断層帯(注8)
(日奈久区間)
7.5程度 ほぼ0%〜6% ほぼ0%〜10% ほぼ0%〜20% 0.2-2.3 3,600年-11,000年程度
約8,400年前以後-約2,000年前以前
日奈久断層帯(注8)
(八代海区間)
7.3程度 ほぼ0%〜16% ほぼ0%〜30% ほぼ0%〜50% 0.1-1.5 1,100年-6,400年程度
約1,700年前以後-約900年前以前
  緑川断層帯 7.4程度 不明 不明 不明 不明 約34,000年-68,000年程度
不明
人吉盆地南縁断層 7.1程度 1%以下 2%以下 4%以下 0.9以下 約8,000年以上
約7,300年前以後-3,200年前以前
出水断層帯 7.0程度 ほぼ0%〜1% ほぼ0%〜2% ほぼ0%〜4% 0.3-0.9 概ね8,000年
約7,300年前以後-2,400年前以前
    甑断層帯
(上甑島北東沖区間)
6.9程度 不明 不明 不明 不明 不明
不明
甑断層帯
(甑区間)
7.5程度 −  不明 不明 不明 不明 2,400年-11,000年程度
不明
市来断層帯
(市来区間)
7.2程度 不明 不明 不明 不明 不明
不明
市来断層帯
(甑海峡中央区間)
7.5程度  不明 不明 不明 不明 不明
不明
市来断層帯
(吹上浜西方沖区間)
7.0程度
以上
不明 不明 不明 不明 不明
不明
 ※3 日奈久断層帯全体が同時に活動した場合
 ※4 日奈久断層帯全体と布田川断層帯全体布田川区間が同時に活動した場合
注1: 確率値は有効数字1桁で記述している。ただし、30年確率が10%台の場合は2桁で記述する。また「ほぼ0%」とあるのは、10−3 %未満の確率値を表す。また、平均活動間隔が判明していないため、地震発生確率及び地震後経過率を求めることができないものは「不明」としている。
注2: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。
注3: 西山断層帯については、これまで単一の活動区間として評価を行っていた(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2004)。その後、同断層帯延長部の分布及び活動履歴に関する新たな知見に基づき、大島沖区間・西山区間・嘉麻峠区間の3区間に区分して評価を行った(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2013b)。
   地震調査研究推進本部地震調査委員会(2004):「西山断層帯の評価」,11p.
   地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013b):「西山断層帯の評価(一部改訂)」,33p.
注4: 警固断層帯(北西部)は、平均活動間隔などが不明のため、地震発生確率は求めることができないが、最新活動時期が2005年であり、地震後経過年数が短いため、近い将来の地震発生確率はごく小さいと考えられる。なお、断層面の位置・形状や活動履歴の検討をするための地形学・地質学的な資料が得られていないことから、長期評価は主に地震観測結果などの地球物理学的な資料に基づいて行った。
注5: 別府−万年山断層帯(大分平野−由布院断層帯/西部)は、最新活動時期が十分絞り込まれておらず、通常の手法では平均活動間隔を求めることができない。ここでは、過去の活動時期から、約2000年前−18世紀に2回の活動があったとして平均活動間隔を求めている。また、地震発生確率の計算に際しては、通常のBPT分布を用いることができるだけの信頼度がないと考えて、ポアソン過程で求めた。同じ理由から、地震後経過率も求められない。
注6: 雲仙断層群(北部、南東部)は、平均活動間隔が求められていないため、地震発生確率は不明となっている。
しかし、信頼度が低い情報ながら、これらの断層帯における平均変位速度は1m/千年程度に達する可能性が指摘されている。このため、これらの断層帯においては平均活動間隔が最新活動時期からの経過時間よりも短い可能性もあり得るため、注意が必要である。
注7: 雲仙断層群(南西部/南部)は、最新活動時期が約4500年前−16世紀と求められているが、平均活動間隔2100−6500年に対して十分に絞り込まれていない。このため、地震発生確率の計算に際しては、ポアソン過程を用いた。同じ理由から、地震後経過率も求めてない。
注8: 布田川断層帯及び日奈久断層帯については、これまで布田川・日奈久断層帯として、北東部・中部・南部に3区分して評価を行っていた(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2002)。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013a)は、その後に得られた新たな知見に基づき、布田川断層帯と日奈久断層帯に二分し、さらに布田川断層帯を布田川区間・宇土区間・宇土半島北岸区間、日奈久断層帯を高野−白旗区間・日奈久区間・八代海区間に区分して評価を行った。
   地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002):「布田川・日奈久断層帯の評価」,35p.
   地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013a):「布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)」,62p.
   
(2)九州地域において簡便な評価をおこなった活断層
活断層 想定する地震
の規模(M)(注9)
今後30年以内にM6.8以上
の地震が発生する確率(%)
平均活動間隔の
推定値(年)(注10)
「詳細な評価の対象とする活断層」とは、地下を含めた断
層の長さが15 km 程度以上で、断層の位置・形状や活動
履歴など活断層の特性を詳細に評価したものである。

「簡便な評価の対象とする活断層」は、地下を含めた断層
の長さが10 km 程度以上、15 km 程度未満で、断層の分
布のみを評価したものである。

   
九州北部 糸島半島沖断層群 6.8 0.3 15,000
九州中部 佐賀関断層 0.3 32,000
多良岳南西麓断層帯 32,000
九州南部 福良木(ふくらぎ)断層 4.2 63,000
阿蘇外輪南麓断層群 38,000
  鶴木場(つるきば)断層帯   63,000
国見岳断層帯 63,000
水俣断層帯 3,200
鹿児島湾東縁断層帯 6.9 5,800
鹿児島湾西縁断層帯 6.8 63,000
池田湖西断層帯 1,500
注9: Mの値は、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2009)でM6.8未満とされているものについても、ここでは鹿児島湾東縁断層帯をのぞき一律にM6.8の地震が発生するとして評価し、
各区域における地震発生確率評価において考慮している。
注10: 平均活動間隔は、1回のずれ量と平均変位速度から算出。
   
 (3)九州地域の長期評価 
 地域の長期評価(M6.8以上、30年確率)(%)注11,12 
区域別の確率値 九州全域の確率値
95%信頼区間(中央値)(注13)
九州北部 7-13(9) 30-42(35)
九州中部 18-27(21)
九州南部 7-18(8)
注11: 個別の活断層の長期評価では、地表に断層活動の痕跡が確認できる「固有地震」(※)の発生確率のみを評価している。一方、マグニチュードが6.8 以上の地震でも明瞭な地表地震断層が出現しない場合や、出現しても長さやずれ量が活断層の長さなどから推定されるものに比べて有意に小さい場合があることを鑑み、本地域評価では、評価対象とした活断層において地表の証拠からは断層活動の痕跡を認めにくい地震の発生する確率も評価している(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,2010)(詳細は、本文 注17 参照)。
 ※「固有地震」とは、同時に活動すると想定される「活断層帯」や「評価単位区間(詳細は、本文の「付録2−1 1回の地震に対応して活動する断層の長さの評価の考え方」参照)」の全体が活動する固有規模の地震のことである。Schwartz and Coppersmith (1984, 1986)が提唱したCharacteristic earthquake modelについて、垣見(1989)が「個々の断層またはそのセグメントからは、基本的にほぼ同じ(最大もしくはそれに近い)規模の地震が繰り返し発生すること」と解釈しているものである。
注12: 「詳細な評価の対象とする活断層」とは、地下を含めた断層の長さが15 km 程度以上で、断層の位置・形状や活動履歴など活断層の特性を詳細に評価したものである。「簡便な評価の対象とする活断層」は、地下を含めた断層の長さが10 km 程度以上、15 km 程度未満で、断層の分布のみを評価したものである。各区域及び九州全域における今後30 年間以内に発生するM6.8 以上の地震発生確率には、「詳細な評価の対象とする活断層」に基づく確率だけでなく、「簡便な評価の対象とする活断層」に基づく確率も含まれている(詳細は本文(説明)「3.九州地域の活断層で発生する地震の長期評価」を参照)。
注13: 確率値は、本文「付録4−3 評価地域の地震の発生確率の幅の統計的扱い」に基づく。