5.試案に寄せられた意見の全文
★意見1
氏名:小澤 邦雄
立場:防災関係者
該当個所:全般、「はじめに」、表題
「はじめに」
・・・同部会は長期評価の一環として、平成9年11月に「長期確率評価手法検討分科会」を設置し、プレート境界やプレート内部の弱線である活断層で発生する大地震を、活動間隔・平均ずれ速度・最新活動時期・活動区分等のパラメータを用いて、その長期的な発生可能性を確率という数字で評価する手法を検討した。発生する地震の規模や地震による揺れの最大加速度等を含めた最終的な長期評価のためには、上述の他にも様々なパラメータを取り込む必要があると考えられるが、ここではまず、地震発生の時系列的なところまでを扱うこととした。・・・
意見:
◎ 活断層によるもの以外の地震発生確率について
===「活断層がなくても直下の大地震はおこる」という認識を社会に徹底したほうがよいと考える。(石橋克彦、1998地球惑星科学関連学会合同大会予稿集P314)===という意見もあり、長期的地震発生確率の評価手法の検討において、活断層によるもの以外の地震発生確率は、別途行うのか、長期評価になじまないのか、評価するに値しないのかを明らかにすべきである。別途評価する必要がある場合は、本報告書のtitleも考慮されるべきであろう。
例えば「活断層による長期的な地震発生確率の評価手法及びその適用例について」というように活断層に基づく評価であることを表示するべきである。
★意見2
氏名:小澤 邦雄
立場:防災関係者
該当個所:全般、「はじめに」
意見:
◎地震発生確率の持つ防災情報としての意味について
1)
本報告で述べられている地震発生確率は、単独で防災情報として利用できないと思われる。少なくとも、都道府県、市町村、ライフライン機関の防災実務担当部門でこれを利用するには、個々のケースの確率数値の意味を検証し、その都度解説をつけなければならない。
この報告書(試案)が公表された際の報道に対し、「東海地震の今後30年の発生確率は36%」(表4.1)という数値から、「東海地震の発生危険度は意外に低く、地震対策の必要はないのでは」と云う反応が多く寄せられた。
また、表4.2の東海地震の集積確率38%や各種指標も、われわれ防災業務担当者でも理解するのは難しい。(担当が理解できないものは使えない。)
従って、地震発生確率を現状のまま公表することは、防災対策推進上からは逆効果となるおそれもあり、現状のままで地震発生確率を公表する場合は、報告書のまえがき等主旨を述べる部分で「防災情報ではなく防災情報を生み出す基礎的情報である」旨明記すべきと考える。
2)
地震発生確率を防災情報として活用するためには、これを更に発展をさせ、例えば次のようなA,B,Cの3ランクに区分して示すなどの工夫が必要と考える。
Aランク:数年オーダーで、緊急に震災対策が必要な地震
Bランク:数十年オーダーの中・長期的に震災対策を講じる必要のある地震
Cランク:緊急の震災対策は必要としないが、長期的には考慮すべき地震
また、地震規模情報を震度に変換し、いわゆる「河角マップ」の現代版作成も防災関係者が望んでいるところであろう。
★意見3
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:全般
意見:
全体的方向について
・概要:長期的な地震発生確率の評価の公表について賛同する。
・趣旨:長期的な地震発生確率の評価の公表については,地域防災計画(地震災害対策計画)の基礎資料として,非常に有用な情報であり,実施の方向で進めていくことについて賛成する。
★意見4
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:第2章 手法、ほか
意見:
評価手法の全体について
・概要:行政等防災関係者にとって手法がわかりにくい。
・趣旨:長期評価手法については,統計学的手法を主体として,非常に専門的で,わかりにくい。したがって,例示を示す等,行政等防災関係者にも分かり易く,理解しやすい書き方としていただきたい。
また,評価が統計学的手法によるところが多いため,地震学の最近の知見や測地学的アプローチも含めて解説を入れ,分かりやすい説明としていただきたい。
★意見5
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:4.1 妥当な統計モデル
意見:
42頁 経過年数に対する30年確率の増減について
・概要:発生間隔を越えた場合の確率の減少は奇異に感じる。
・趣旨:評価手法で用いている,対数正規分布によると,発生間隔のおよそ2倍程度の期間が経った場合には,30年発生確率が減少しており,普通の感覚では発生間隔をこえた場合,ますます高い確率になるように考えられるので,一般的感覚では奇異に感じる。
例えば,歪みが徐々に蓄えられている予想震源域に対して,発生間隔の2倍の時期から確率が減っていくのは疑問がある。
★意見6
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
44頁 確率評価の適用例について
・概要:南関東地震の評価をするべきである。
・趣旨:主なプレート間地震について,評価の適用例を示しているが,本調査が最終的には,防災行政の資料とするものであることを考慮すると,首都圏の重要性を鑑みれば南関東地震について評価するべきと考えられる。
中央防災会議においても,今後100年か200年先には発生すると報告されており,整合を図るべきと考えられる。
★意見7
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
44頁 確率評価の適用例について
・概要:東海地震の30年確率が低い。
・趣旨:明日起こっても不思議でないとされ,法律も施行されている東海地震の30年確率が,36%というのはいかがなものか。
評価手法による限界と考えられるが,多くの防災関係者が努力している地震対策への取組みに対して,ブレーキになるような位置づけになるように受け取られるので,最近の地震学の知見,測地学的観測結果,東海地震判定会会長の私的シナリオとの兼ね合い等総合的に確率を判定するべきと考えられる。
手法の限界ということであれば,東海地震という特に防災上重要な地震については,単純に今回の評価手法のみを使用することは再考するべきではないか。
★意見8
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:表4.2 断層の活動を注意喚起するための指標
意見:
50頁 断層の活動を注意喚起するための指標について
・概要:指標のランク化を実施するべきではないか。
・趣旨:地震発生の切迫性を評価する手法として,今回の評価手法による確率の算出は分かりにくく,50頁の指標についても,印象としてストレートに理解しがたい。
指標については,最終的には数値によることにこだわることなく,例えばA〜Dランクのようなものにし,
Aランク:早急に地震防災対策に取り組むべきもの
Bランク:中期的に地震防災対策を取り組むべきもの
Cランク:長期的に地震防災対策を取り組むべきもの
Dランク:当分の間は発生の考えられないもの
といった指標を,成果として出していくことを要望する。
★意見9
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:
意見:
最終目標のための途中段階であることの宣伝
・概要:今回の試案が地域評価に対する途中段階であることを強くアピールする必要性がある。
・趣旨:今回の試案は,最終的には地震調査研究推進本部が目指す地域ごとに,発生する地震の規模や地震の揺れの最大加速度等を含めた長期確率予測であるとされているので,単に個々の地震の発生確率に左右されることなく,地域に発生する可能性のある地震を総合的に評価していくことを目指していることを,もっとアピールしていくべきと考えられる。
例えば,中央防災会議においては,南関東地域直下の地震についてある程度切迫性があるとし,震度6相当以上になると推定される地域の範囲が指定されていることを鑑みれば,それを補完するような試案としていくべきと考える。
また,この試算結果を公表する場合には,防災情報又は安心情報として理解すべき性質のものではない旨の表示を行うなど,誤解を生じさせない措置を必ずとるべきであると考えられる。
★意見10
氏名:神奈川県環境部地震対策課長 野本 紀
立場:防災関係者
該当個所:B.1 地震発生確率一覧表
意見:
61頁 神縄・国府津−松田断層帯の30年確率について
・概要:3.5%の発生確率は防災対策をするべきか困惑する。
・趣旨:今回の試案による評価手法をとった場合,神縄・国府津ー松田断層帯の30年確率は,3.5%であった。
一般的感覚からすれば,プレート境界上の断層が同様の確率であれば時間的余裕があると考えるのが素直である。しかし,陸域の断層については,発生間隔が長期(数千年)となるため,確率が高くならないので,この確率でも可能性が高いものと受け取るべきと説明されても,にわかに理解することが不可能である。
発生間隔の過ぎている場合なので,単純に30年確率をとるより,累積確率と今後30年確率の和で表現していくほうが,切迫性をよりアピールすることができ,感覚とも一致するのではないか。
または,意見8に示した意見のようにランク分けした指標を示していくことを望む。
★意見11
氏名:望月 一範
立場:防災関係者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ、4.3 発生確率の時間変化
意見:
長期的な地震発生確率評価による結果については、それを行政や市民における具体的な防災対策、防災行動に繋がるように活用することが必要であるため、確率の数値を定量的に示すのみではなく、数値の持つ意味を定性的な解説としてあわせて発表することや、他の地域との比較や過去の被害地震との比較に関する情報もあわせて発表するなど、情報内容及び情報の活用方策についての検討を進めるべきであり、その検討を経ないで本試案による手法を用いることは防災対策上の意義が乏しいと考える。
試案4.3においては、さまざまな指標が提案されているが、数値の持つ意味が防災行政の担当者や市民に理解が得られやすく、かつ、安心情報としてのみ受け取られることのないよう、情報内容、提供方法について、さらに検討する必要がある。
その際、国や地方公共団体の防災関係機関の意見が十分に踏まえられる検討体制が講じられることを期待する。
★意見12
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:全般
意見:
総体的に難しい数式が多く,行政の立場では本文をめくるだけで終ってしまうのでないだろうか。
この冊子ではいろいろの統計モデルで検討されているので、かなり複雑な取り扱いが記されています。これらの中で最も良く適合するモデルを用いた場合のみの、地震発生確率を各断層について示して戴きたい。
★意見13
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:第1章 長期確率評価の考え方について
意見:
短期的地震予知が困難となってきた現状下で,時系列データを主体に長期確率の評価を行ったことは防災や耐震構造分野に広く寄与できると明言致します。
さて、これまで数十年先のことは中期予知といわれてきたようですが、ここでいう長期とはおよそ何年くらい先から後のことでしょうか。
★意見14
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:図1.1 長期確率評価手法の概念図
意見:
2ページのフローチャートについて
地震発生の時期が全くわからない断層または有史以来地震のない断層の中にも社会的に重要な場所に存在するものがあります。これらについてのUを求める方法を教示していただきたい。
★意見15
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:表4.1 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における、今後30年以内の地震発生
確率
意見:
44ページ表4.1について
得られた確率が小さいからといって危険度が小さいわけではないのですが、このことは一般には理解されにくいと考えられます。だれにもわかるような説明を希望します。
★意見16
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:表4.1 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における、今後30年以内の地震発生
確率
意見:
44ページ 表4.1について
この冊子全体を熟読すればある程度内容の理解はできますが、将来マスメディアを通して外部(行政サイド、一般人)にいづれは公表することになるものと考えられます。
理解し納得のいく解説を十分行って戴きたい。
★意見17
氏名:山岸 登
立場:防災関係者
該当個所:4.5 長期確率評価によって得られる確率の数値の理解に向けて
意見:
(2)の確率の信頼度について
海域の地震と陸域の地震とでは発生間隔はもちろんそのバラツキも大いに異なるにもかかわらず、得られた地震発生確率の値(例えば表4.1)をそのままう呑みにする危険性がある。
このため暫定的なデータとはいえ現時点で得られた最適の成果を,より効果あらしめるため表4.2の指標も考慮しながら,確率の数値そのものではなく海域は海域(例えばA〜D),陸域は陸域(例えばA’〜D’)というような4段階くらいのランク付けで表現したらいかがでしょうか。
なし
★意見18
氏名:荒木春視
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:第1章 長期確率評価の考え方
意見:
(1)将来、完成されるであろう地震危険度地図が、学問的ではなく、社会的にどのような影響を与えるか。十分に検討されていると思考する。基本的な考え方を示すのがよい。
(2)「地震」との言葉から市民は被害/震度を連想するが、学者はエネルギー/規模を連想し、被害を結果として理解する。被害/震度に直接、連動しない地震確率は市民からは責任回避の学者体質を反映した遊技理論して見られてしまう。「地震」から「震度」へと、地域に即した、防災を主眼にした確率まで発展させるものであって欲しく、その構想があれば付記するのがよい。
(3)地震をおこすと予想される以外の断層とは、過去に大地震がありながら、地形的な変状が現れてない断層を指している。問題は、そのような見えない断層を探す方法である。これまでの方法を援用するのであるならば、莫大な費用がかかる。これまでの断層探査成果と的中率を市民レベルで公開・公表がなければ、税金を使っての調査でもあり、国民の納得が得られない。
(4)個々の断層が完全に独立しているものであれば、この基本的な考え方は理解できる。連続していると考えていた断層が、実は、別の断層であった、と言うことは無いのだろうか。その場合、活動しなかった断層は、空白域に位置し、最も危険な断層と言えないこともないのである。この点の配慮が必要であろう。
(5)平均にも、いろいろある。測量でも平均値の精度は測定回数の増加と共にあがる。計算された「地震の活動間隔」の出現する確率が議論されていない。計算された「活動間隔」を確かなデータとの前提に立つ地震確率は統計的にみても問題が残る。計算に使用したデータの母集団は同じと見なせるのか。地域・区域分けの前提・仮定、データの個数からの誤差、年代分析法に内在する誤差等、計算に使われたデータが当該断層を代表しているとの証明が十分でない。要するに恣意的な点が懸念される。
(6)30年以内に地震が起こる確率とするなかで、「以内」の文言が気にかかる。地震が明日おきても不思議ではない、との逃げ口上にも読みとれる点である。確率論で、危機を長期的に予測するのであるならば、例えば5年から30年以内とのように、長期の期間を明確にするのがよい、と思考する。それを、毎年、見直しすれば良い。それが住民に「安心感」を与える。
以上、地震予知問題に取り組んでいる一研究者として、疑問点を申し述べました。参考になれば幸甚です。なお、ここでは試案の全般についての私見を述べているものから、「意見の部分」を試案で「考え方」を記述している「第1章」としました点を付記します。
★意見19
氏名:荒木春視
立場:地震および関連分野の研究者、技術者
該当個所:第2章 手法
意見:
1.更新課程について
(1)概要に関して 「ある銘柄の株価・・・変動の物理学的あるいは社会学的なメカニズムの解明が不十分で、将来を正確に予測できない段階においては、統計的な処理が有効・・・、地震発生という現象についても同様」とある。地震発生を、統計的処理として、株価変動と同じ視点でみることには疑問である。株価と地震とでは、時間・空間的な要因が全く異なる。地震は自然界の法則で動くが、株価は人間社会の動向で変わる。自然法則が解明できれば、地震発生は予測できる。しかし株価変動は人為的操作が可能である。株価変動から見ればデータ(情報)の質が、地震発生ではデータ(情報)の量が重視される。株価には多量の変動データが存在するが、地震には株価から見れば無に等しい。地震発生は株価変動と同じ統計処理に馴染まない事象である。
2.時間予測モデルの利用について
(1)概要に関して「最新の地震時のずれの量Ulastと長期的な断層のずれ速度Vから、最新の地震から次の地震までの期待される経過時間Tt.p」が次式
Tt.p=Ulast/V
から求められる、としている。ここでの問題点は、Ulast及びVのデータの信頼度である。地震時のずれの量については、野島地震断層においても観測されているように、場所で異なっており、どのような量をUlastとして使うのか、また地震断層のトレンチから、ずれ量を計測している場合も、断層の一側面しか観測されていないことから、データの信頼性に疑問が残る。さらに断層のずれ速度Vについても、ずれ量が累積されたものである点で、データの信頼性に問題がある。時間予測モデルは十分に理解できるにしても、取得データの質に疑問が残る。
3.不確定性の取り扱いについて
(1)最新活動時期の不確定性に関して 「活断層調査の結果からは、前回の地震発生時期が確定されるものはむしろ少なく、ある幅をもっていることのほうが多い。そこで、最新の地震発生時刻がある分布に従っているとして」とある。この論法は理解できない。地震発生の時刻がある分布にしたがっていることを示し、検証が先ず必要と考える。仮説作業は避けるのが賢明である、と思考する。
4.論理ツリーの適用について
「試案」は将来の「指針」として受けとめられがちである。特に本節のような研究的な側面の強いものについては、内容構成の中で一層の配慮をされたほうが理解しやすい、と思考する。
以上、地震予知問題に取り組んでいる一研究者として、疑問点を申し述べました。参考になれば、幸甚です。なお、敢えて私見として補足させて貰うなら、確率論は基本的に賛成です。ただし、導入の目的と方法は異なります。
★意見20
氏名:荒木春視
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:第3章 適用例
意見:
1.プレート間地震について
(1)南海トラフ沿いの巨大地震
1)更新過程を利用する事例に関して 今後30年、50年、100年間に巨大地震発生確率を過去の地震から表3.1(data
set T)で求め、表3.3の対数正規と比較すると
単純な生起確率 0例/8例中= 0%、1例/8例中=13% 5例/8例中=63%
確率密度関数(対数正規) 4.5% 14.3% 52.3%
となる。過去の地震では発生間隔が最短で91.9年であり、今後の30年間では前回の地震から82年にも満たない。それでも確率密度関数からは4.5%となり、単純な生起確率の0%のほうが確からしさを与える。なお、表3.1の発生間隔が小数2桁以下の表示は意味がない。データ数が少ない場合は統計処理法として、試案の統計モデル適用には疑問が残る、と思考する。
2)時間予測モデルを利用した事例に関して 今後30年、50年、100年間に巨大地震発生確率を、単純な生起確率と室戸港での時間予測モデルとで比較すると
単純な生起確率 0% 13% 63%
時間予測モデル 22.9% 64.7% 99.2%
となる。更新過程で述べたと同じ理由で時間予測モデルにおける今後30年間に発生確率は過去の発生事例と全く調和がとれていない。問題は室戸港で求めた活動間隔を、データ数が少ないにも拘らず、平均値として扱っている点にあるものと推測する。活動間隔を算出する際の関係データの信頼性(データ数が少ないこと)に問題がある、と思考する。
(2)宮城県沖地震
1)更新過程を利用する事例に関して 今後の5年、10年、20年及び30年間に宮城県沖地震の発生確率を過去の地震の表3.7(data
set T)で求め、表3.9の対数正規と比較すると
単純な生起確率 1例/10例中=10% 3例/10例中=30% 7例/10例中=70% 9例/10例中=90%
確率密度関数(対数正規) 5.9% 22.0% 66.2% 90.8%
発生間隔の短い宮城県沖地震では単純な生起確率と確率密度関数からの発生確率が近似している。試案の統計モデル適用のデータ数の少ない中で、敢えて使用する根拠に疑問がある、と思考する。
2. 陸域の活断層で発生する地震について
(1)更新過程を利用する事例に関して(事例:長野盆地西縁断層) 今後の30年、50年、100年間に長野盆地西縁断層を震源域とする1846年時点の地震発生確率を過去の地震から表3.20(data
set T’)で求め、表3.22の対数正規と比較すると
単純な生起確率 4例/7例中= 57%、4例/7例中= 57%、4例/7例中=
57%
確率率密度関数(対数正規) 9.3% 15.1%
28.8%
となる。翌年の善光寺地震を単純な生起確率のほうが確率密度関数より遙かに強く予想している。ここでも試案の統計モデル適用をデータの数の少ない中で、敢えて使用する根拠に疑念を持つ。
以上、地震予知問題に取り組んでいる一研究者として、疑問点を申し述べました。参考になれば幸甚です。なお敢えて私見を述べるなら、更新過程の導入の目的と方法は異なりますが確率論は基本的に賛成で、時間予測モデルでは「ずれ量」として地震前の沈下量に関心を持っています。
★意見21
氏名:荒木春視
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:第4章 まとめと今後の課題
意見:
1.妥当な統計モデルに関して
「4つのモデルに特に差異が見られないのであれば、直感的に理解しやすい対数正規分布を用いることが妥当」との文言に疑問がある。実際に統計を取ってみると対数正規分布になるのであれば、確かに妥当であろう。特に差異が見られないのは、データ数が増えても同じなのか。そこが疑問である。私の経験では、自然科学の種々の分野で数百を越えるデータを扱う機会が多かったが、不思議に対数正規分布を示す。結論は正しいと思うだけに、過程が間違っていれば、論理が崩れ、科学的結論とは言い難い。期待と信頼の損なわれる事を危惧するものである。
2.長期確率評価によって得られる確率の数値の理解に向けてに関して
本節に見られる考え方に基本的な異論はない。しかし、残念に思うのは、この考え方が、後書き風に記述されている、点である。これを試案づくりの前提に据えて、地震確率の検討が進められていたら、試案とは別の確率論の展開になっていた、と推測するものである。
(1)データの精度 「精度が悪い場合・・・変更される場合もありうる」のであれば、確度の高いデータを集めたらよい、と誰もが思う。確度の低いデータでもよいから、地震発生確率を出さざる理由があるのであれば、巻頭記述しておくのがよい,と思考する。
(2)確率の信頼度 信頼度と確率が併記され、混乱を読者に与える。「確率の数値の信頼度」についての疑問を示す。例えば、ある事象の起こる確率が99%だとして、データの信頼度が最高Aであったとすれば、「確率の値が今後変わらない」と判断できるのか、と言う点である。そのような信頼度の高いデータは、まず、得ることはできないし、だからこそ、確率論の導入が必要だったのではなかろうか。心情は理解できるが、逃げ口上に読み取れる点が残念である。
(3)確率の上限 「低い数値であっても、単に安心情報と理解せず、・・・最大値と比較して考える必要がある」としている。ここも記述者の心情は理解できるが、残念ながら、逃げ口上に聞こえる。統計モデルは正しくても、データ数が不足し、モデルが前提とする母集団が幻の存在であれば、良い成果を得ることはできない、と思考する。
(4)判断への利用 「判断が誤った場合に重大な影響が生じる案件では・・・有意水準もっと小さな値に設定」とある。自明の理と理解するが、問題点は計算された確率密度関数の信頼性である。信頼度の低い確率密度関数を使わざるを得ない状況のなかでは、この「判断が誤った場合に」の文言は削除するのがよい。統計モデルを適用する際の諸条件がクリアされているとは思えないので、行政的な配慮として、この様な判断も大事である、と思考する。
以上、地震予知問題に取り組んでいる一研究者として、疑問点を申し述べました。参考になれば幸甚です。最近、地震被害の恐ろしさ、地震に対する日常からの心構え等に風化の兆しが報道されています。風化させないよう、住民・市民の関心を一層、高めて貰うためにも、地震確率の導入は大事であると考えます。なお、敢えて私見として補足させて貰うなら、確率論は基本的に賛成です。ただし、導入の目的と方法は異なります。
★意見22
氏名:粟田泰夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.2.1.2 丹那断層
3.2.1.4 長野西縁断層
意見:
丹那断層の最新イベントは,841年伊豆国の地震であることがほぼわかっています.長野西縁断層の一つ前のイベントは,考古学的データから835年〜900年頃と推定されています.阿寺,跡津川では,最新イベントとしてトレンチのデータだけではなく,歴史地震のデータを使ってさらに時期を決定していますので,丹那,長野西縁でも同様に扱うべきと考えます.
参考文献:地震観測所(1991)松代付近の遺跡の発掘現場で発見された地震.気象庁地震観測所技術報告,11,47-64.
★意見23
氏名:粟田泰夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:付録B 対数正規分布の確率一覧表
意見:
基盤的調査研究対象の活断層では,再来間隔が5000年を越え,1万年,3万年と言う断層もわかっていています.このような長い再来間隔についても確率一覧表を示していただければ,地震防災や,活断層の調査計画に大いに役立つと思います.
火災による全焼確率は100年で3%ですので再来間隔は100年確率が1〜3%を越える範囲について,また経過時間は再来間隔の2倍程度までについて,一覧表があれば便利です.
★意見24
氏名:粟田泰夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.1 妥当な統計モデル
意見:
陸域活断層の活動間隔のばらつきについて.
例としてあげられた,阿寺,丹那,跡津川,長野西縁を比べて見ますと,イベント年代が高精度で推定されているものほど,σが小さくなる傾向がはっきりと認められます.たとえば,阿寺断層では5つのデータによるσ=0.28(阿寺1)が,精度の悪いもの一つを除くだけでσ=0.07(阿寺2)と1/4になってしまいます.また,長野西縁,跡津川,阿寺(阿寺2)と,個々のイベントの年代推定精度が上がるにつれてσが0.25,0.16,0.07と小さくなります.
この傾向について,何らかの評価なり今後の見通しができないでしょうか.たとえば,試案では共通σ=0.23が使われていますが,データ精度が上がれば,この共通σはずっと小さなものになる可能性があるのではないでしょうか.
★意見25
氏名:粟田泰夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.1 妥当な統計モデル、4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
陸域活断層の共通σ(0.23)
陸域の幾つかの断層では,イベント発生時の推定に,推定年代区間の「中央値」が使われています.しかし,この「中央値」は統計上の意味がありませんので,「中央値」を用いて帰納的にばらつきを評価するには精度上の問題があると考えます.
たとえば,阿寺断層ではもっとも古いイベントの推定年代区間が極端に広いことから,この一つのデータを含めるか,除くかで,阿寺断層のσが0.28(阿寺1)から0.07(阿寺2)まで変化してしまいます.また共通σも,含めた場合には0.23,除いた場合には0.19となります.したがって,共通σとして有効数字2桁を扱うのは,精度上大きな問題があります.データが一つ加わる毎に変更しなければならないような不安定な数値を用いるよりは,共通σ=0.2として1桁精度にとどめるのが適当と考えます.今回の試案であげられたデータセットの中で,正確かつ高精度のものは,南海地域の2もしくは5のみであって,それらのσは0.18,0.20です.これを考慮すれば,プレート間地震,陸域活断層を問わず,共通σ=0.2を用いるが妥当ではないでしょうか.
★意見26
氏名:粟田泰夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.2.1.2 丹那断層
意見:
丹那断層のイベントの年代推定方法や,暦年変換方法は,阿寺・跡津川・長野西縁と異なっていますので,同列で扱うべきではないと考えます.とくに,丹那断層のイベント推定年代は「区間の中央値」ではありませんので,原典にあたって統一的な値を用いるべきです.
★意見27
氏名:石川 裕
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:表4.1 南海トラフ等プレート間地震と陸域の活断層における、今後30年以内の地震発生
確率
意見:
「過去の地震発生時点での確率値が小さいことが示す手法やパラメータの問題点と長期評価部会の立場について」
表4.1によれば、過去の地震発生時点での発生確率の値は、阿寺6.5%、丹那2.8%、跡津川1.4%、長野10.8%、野島4〜9%といずれも低い数字である。サンプル数が少ないためこの結果のみで判断するのは適当ではないかもしれないが、大きな確率を有するサンプルがないということは、活断層で発生する地震の時系列を単純に更新過程でモデル化すること、および試算で用いたパラメータの信頼性をより深く吟味する必要があることを示唆していると言えよう。
すなわち、活断層で発生する地震の発生確率の評価に関しては、未だ多くの研究を積み上げていかねばならない問題であり、地震調査研究推進本部という公的な機関が、単なる今回の検討のみで(他のモデルの検証を抜きにして)、評価手法を標準化し、あたかもコンセンサスが得られたかのごとく確率値を公表するのは時期尚早であると考える。
★意見28
氏名:石川 裕
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:表4.2 断層の活動を注意喚起するための指標
意見:
「評価結果を表現する指標について」
牛伏寺断層の結果を見ても明らかなように、要注意と言われていてもそもそも30年程度の短い期間での地震の発生確率は小さな数値にしかならない。したがって、地震に対する備えを喚起させることを目的とするならば、確率を生の値で公表することは全くの逆効果であり、止めた方がよい。
一般に、多くの人の意識では、天気予報の降水確率で傘が必要と考える値は30〜40%と聞く。したがって、それ以下の確率値に対しては、「そういうこと(地震)は起こらない」と解釈してしまうことになる。
そこで、確率を何らかの形で変換した指標を用いて地震の危険度を表現すべきということになり、その例が表4.2に示されている。
しかし、ここでは、同表に示されている以外の指標として、「現在より30年後の時点での集積確率(%)を10の単位に丸めたもの」を提案する。これは表4.2の指標(3)の評価時点を現在ではなく、30年後とするもので、前回の地震発生時点から見て、30年後までに地震が発生しているはずの確率になる。なお、有効数字はたかだか1桁であろうから、公表の際に2桁目以下まで示すことに意味はない。
過去の地震発生時点での値(表4.2)を見ると、この値が10以上の場合には今後30年以内に地震発生の可能性があるということになるが、モデルやパラメータの信頼性を上げることにより、より大きな数値が閾値となることを望むものである。
★意見29
氏名:伊藤 秀美
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:はじめに
意見:
この報告書で発表した試算の数値を見出しに使った報道がなされ、社会に混乱を与えている実態があったことからつぎの意見を提出する。
当該試案の発表は、長期確率評価手法を検討し、それをとりまとめたものの発表であり、手法の適用結果の発表ではないと理解している。それは適用結果の適切な解釈には専門的な知識が必要であるため、さらに十分な検討が必要と考えるからである。しかし、そのことがこの節に明示されていない。逆に「その手法に基づいて…試算した結果も同時に掲載してある。」とし、試算した結果の利用を促していると誤解を与えている。
以上のことに配慮して修文の検討をお願いしたい。
★意見30
氏名:伊藤 秀美
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.2 確率の数値評価のまとめ
意見:
この報告書で発表した試算の数値を見出しに使った報道がなされ、社会に混乱を与えている実態があったことからつぎの意見を提出する。
いろいろな活断層について計算された30年発生確率の数値を相互に比較して、確率30%の活断層は確率10%の活断層よりも3倍、地震を起こしやすいと、単純に解釈されてしまったことから本報告書のまとめ方に何らかの問題があったと思われる。
この節は、確率の数値評価のうち統計的な信頼性のみを扱っている。確率の値を解釈するには、単に統計的な数値の信頼性だけではなく、利用者の側に立った説明も必要である。特に地震という災害に結びつく現象の発生に係わる確率ではこのことが重要である。
従って、この節に、確率を利用者がどのように利用できるかの検討が十分できておらず今後の課題となっている旨、盛り込んで欲しい。
★意見31
氏名:入江 さやか
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
はじめに、貴部会が「試案」という形で本調査に対し広く一般の意見を求められた点について評価したい。先般の「余震確率評価」に比べ不確実性が高く、その反面社会的影響は大きく、扱いにくい課題ではあるが、今後の地震防災の拡充にはこのようなオープンな議論が不可欠である。
1)「あいまい性」の処理について
本試案の適用結果からは数タイプの「あいまい性」が読み取れた。
@ 計算モデルによる差異が大きいもの
A データセットによる差異が大きいもの
B 活動区間のモデルが複数あるもの
C 過去の地震が発生確率の低い時期に起きたもの
D 予測される次の活動時期に大きな幅が(100年以上)あるもの
上記のうち@、Dは今後他の断層を評価してゆく過程で、ある程度精度を持ったモデルが得られる可能性が高いと考えられる。A、B、Cに関しては、活断層のトレンチ調査、文献調査等データの充実によって補完される余地はあるが、データの蓄積に時間を要することもあり、あいまい性は消えにくいと考えられる。
本研究を純粋にアカデミックな目的のみで行うのか、向こう数年の間で防災に役立つ形にするのかで、このあいまい性の取り扱い方は異なってくる。アカデミックな目的のみであれば時間をかけてあいまい性の解決に向けた研究がすすめられるべきであろう。が、防災上の判断に用いるのであれば、あいまい性を包含しながらも目下得られている最良の結果を指標として示さねばならない。そこで、本試案4.5の(2)等にあるように、材料となったデータもしくは得られた確率の「あいまい性=信頼性」評価をA,B,Cもしくは点数等で「格付け」する方法論の検討が求められる。言い換えれば「あいまい性」を残したままで実用に供する際の「使用上の注意」をどう表現するか、ということである。
同様の観点から、上記@−Dのようなあいまい性の内容、あいまい性を伴いながらも長期評価を行うことの意義を、一般にわかりやすく説明する方法も必要になってこよう。
2)確率評価結果の利用法に関して
1)で述べた「あいまい性」を含む長期評価の結果を有効活用する方法もまた検討されるべきである。例えば「
今後30年の宮城県沖地震の発生確率は65%、確率の信頼性はB」と発表した場合、これだけでは情報の受け手である自治体や企業、市民は行動を起こしにくい。地震災害に関わる他のリスクも含めた判断材料が必要である。
一般への情報提供の方法としては、@長期評価確率の信頼性、A予測される最大地震動(加速度等)B地盤危険度、C建物倒壊危険度、D火災危険度、E人的危険度、F避難危険度、Gライフライン機能の信頼性等の各指標を勘案し、「総合評価」のランクで示す、あるいはハザードマップとして示すのが有効ではないかと考える。いずれにせよ、本研究を長期評価の技術論に終わらせず、防災情報として活用するノウハウの段階までぜひ継続していただきたい。
将来的には長期確率評価を踏まえ、地震学、地震工学、人間行動学、社会情報学、ライフライン事業者等の知見・情報を集めた「地震災害リスク総合評価情報」が、全国いずれにおいても同じ基準で整備され、都市の基盤データとして広く活用されるのが理想と思われる。
★意見32
氏名:大竹 政和
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
1.統計的な手法による地震発生確率の長期的評価は,最近の各種調査研究の進展により,かなりの程度客観的な基礎を有するに至った。長期評価部会の積極的な取り組みに敬意を表する。地震防災対策への貢献の見地から,今後,可能な場所から全国的な規模で評価を実施し,その成果を公表して行くべきである。
2.今後の評価の実施に当たっては,次の点に考慮する必要がある。
(1)使用する統計モデルは,対数正規分布に固定することなく,さらに多数の事例解析を進めつつ適切なモデルを採用することが望ましい。
(2)使用するデータセットについては,個々の事例ごとにより慎重に検討する必要がある。例えば,「宮城県沖」の評価に用いたデータセットには,別紙に示すように幾つかの疑問点がある。別のデータセット(別紙参照)からは,今後30年以内に「宮城県沖」地震が発生する条件付き確率は,対数正規分布モデルで約70%となる。
(3)評価結果の公表に当たっては,これが,ある地点が大きな地震動に遭遇する確率ではないことを周知徹底する必要がある。今回の「宮城県沖」の試算結果についても,地元のマスメディア関係等では,仙台ないし宮城県が1978年宮城県沖地震級の震害を受ける確率と誤解する者が多数あった。
(別紙)
「宮城県沖」の評価について
1.Data set Vの疑問点
(1)1646年,1736年,1861年の地震は,いずれも規模が小さく,また内陸の地震の可能性が高いのでデータセットから除去すべきではないか。ただし,1736年の地震は宮城県沖の大地震であった可能性も残る。
(2)他のデータセット採用地震と比較すると,下記の地震を除外するのは根拠に乏しい。
1717年 5月13日 M=7.5
1855年 9月13日 M=7 1/4
1915年11月 1日 M=7.5
1933年 6月19日 M=7.1
2.データセットの別案
(1)確率評価に使用するデータセットとして,下記の別案を示す。このリストでは,地震資料の不完全性を考慮して,1800年代以後の地震のみを取り上げている。
------------------------------------------
番号 年 月 日 M 間隔(年)
------------------------------------------
1 1835 7 20 7
2 1855 9 13 7 1/4 20.2
3 1897 2 20 7.4 41.4
4 1915 11 1 7.5 18.7
5 1933 6 19 7.1 17.7
6 1936 11 3 7.5 3.3
7 1978 6 12 7.4 41.6
------------------------------------------
(2)評価結果
対数正規分布モデルから,今後30年以内に「宮城沖」地震発生する条件付き確率は70%となる。ただし,リスト中のN0.5の地震は,同年の三陸沖地震との関連で別扱いすべきかもしれない。
(3)問題点
信頼性の高い短期間のデータを用いるべきか,信頼性は劣っても長期間のデータを用いるべきか,今後の検討を要する。
★意見33
氏名:奥村 俊彦
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
発生間隔のばらつきに関して
図1.1(p.2)のフローでは、最新の1回のイベントのみが確認されている場合にも、発生間隔のばらつきとして「平均的な値」を用いるようになっていますが、UとVから推定される平均発生間隔のばらつきと、多数のイベントが確認されている場合に推定されるばらつきとで同じ値を用いることが妥当でしょうか?
また、陸域の活断層に関する適用例の中で、幅で推定されている発生年の中央値を用いた試算がされています。ところが、p.29に示されている長野盆地西縁断層のように過去のイベントの発生年の推定幅はきわめて大きい場合があり、これを中央値で代表させてしまうと、推定幅が存在することによるばらつき(の一部)が考慮されない、すなわち、ばらつきを過小に評価することになるように思います。
報告書4章の4.5(2)では、確率の数値の信頼度を間接的に表現するための方策として、データの信頼度を表すような指標について言及されています。これは、上記のような事項への対応策の一つと考えられますが、一旦結果が数値として出されてしまうと、付記されている信頼度が軽視され、結果のみが一人歩きすることになるのではないかと危惧します。したがって、結果と信頼度を別々に評価するのではなく、結果の数値(確率)の算定に際して、データの信頼度を含めた評価が必要ではないかと考えます。
★意見34
氏名:亀田 弘行
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
不確定性を伴う将来の地震発生に対して確率表現の方法を開発することは基本的に重要です。特に、今後の活断層調査の進展に伴って増加する断層情報を適切に反映する方法が必要とされるという基本認識は全く妥当と考えます。文献18に挙げられているわれわれの研究も同じ理念で始めたものです(まだ研究の基礎的段階ですが)。今回拝見した報告書は、こうした努力の重要な一歩であり、大いに評価したいと思いますが、しかしこれはあくまで一歩であると考えます。この分野が今後健全に発展して行くことを期待する立場から、報告書の趣旨・表現・内容にわたり、十分な議論と検討を要すると考えられる主な事項について、以下に私見を述べさせて頂きます。
(1)研究の目的について:本報告書には、この研究の目的が体系的に述べられていません。長期評価部会の内部資料として作成された印象を受けます。しかしながら、広く意見を求める以上、研究目的を明確にして頂くことが重要であったと考えます。研究目的は、成果の内容にも結果の活用法にも大きな影響を持つからです。一番大きなポイントは、この研究が@地震に関する科学研究の一環なのか、A防災のための社会情報の提供を目的とするのか、という点にあると考えます。この点についても見解が述べられておらず、本文から推測するしかない状況であり、読む人によってさまざまな解釈を生むことになり、混乱の元となることを懸念します。
私の専門の視点から見ると、地震発生の予測期間を30〜100年という人間の社会活動の時間スケールで扱うことは、明らかに防災を目的としているように思えます。しかしながら、この目的を達成するためには、地震の確率予測に関して、社会の側がどのような情報を必要とするかという防災学的観点からの検討が不可欠と考えます。研究目的を明確にすることの中には、こうした視点を含めた包括的な方針を示して頂きたかったと考えます。この分野の研究を成功させる鍵は、理学・工学・社会科学がいかに向き合って議論できるかにあると考えますので、今回、意見表明の機会を設定されたことに敬意を表しますが、それだけに、上に述べた点が気になります。この評価部会の活動が有意義かつ重要であり、しかも影響力が大きいが故に、このことを強調したいと思います。
(2)本報告書の位置づけについて:これは研究活動であるのか、行政的目的を持つ行為なのかがあいまいであり、この点に関して位置づけを明確にして頂きたいと思います。それによって本フォーラムへの意見表明の意味が変わると考えます。研究活動であれば、学会等での自由な討議の場にのせるべきであり、このフォーラムも同様の目的で討論を活性化させる場として活用すればよいと考えます。一方、今回の報告書が手法の標準化を主旨とするなど行政的要素を含むとすれば、手法的に現在の段階で固定することはこの分野の発展を阻害することになりかねず、慎重な扱いがなされることを要望します。さもなければ、本報告書で提案されている手法や数値が、本来の意味を離れて一人歩きする懸念を持ちます。
(3)私の討論の視点:以上の認識に立って、報告書の内容に関する意見を述べて行きたいと思います。私の立場として、不確定性のもとでの意思決定を避けることができない工学の観点から意見を述べます。これと密接に関連する種々の地球物理学的課題についても関心を持っているのは勿論ですが、それらについてはその分野の専門の方々の討論から大いに学ぶことを期待しています。
(4)本研究に関する基本的感想:本研究の現段階は、「地球物理学的批判に耐える確率・統計的モデルをどのように構築するか」というところにあると考えます。断層情報に関する克明な整理と確率モデルに結びつける方法は大変参考になります。さらに、興味深い検討も数多く行われており、例えば、更新過程の危険率がポアソン過程の発生率を超えた時期を危険期の目安とする考えや、断層破壊モードの多様な組み合わせの問題における論理ツリーの応用法などは優れた着想と感じました。しかしながら同時に、以下に述べるような基本的な検討課題が残されていると考えます。
(5)地震発生間隔の確率モデルについて:対数正規分布モデルによる30年間の地震発生確率が100%に達しないという結論は実際の現象に対する感覚と合致せず、腑に落ちません。報告書からは、特定断層における地震の発生間隔の確率分布を対数正規分布にしたことによる結果と理解されますが、モデルの「くせ」でこうなっているに過ぎないのであれば、現実認識をミスリードする恐れがあり、対数正規モデルそのものを再検討するべきではないでしょうか。こうした上限値があることの物理的合理性が示されるのであれば、その議論が展開されるべきと考えます。確率論的には、分布モデルによるこのような差異は、図4.1に示されているような「分布の裾」のところで起こっている問題であり、これまで構造信頼性理論の重要課題として多くの検討と工夫がなされてきた課題です。この点に関して系統的な検討を行うことは、本研究においても避けて通れない未解決の問題と考えます。実は、文献18でも地震発生間隔について対数正規分布モデルを用いており、同じ問題を抱えています。すなわち、これは我々自身の問題でもあります。
(6)不確定性評価について:不確定性はモデルパラメータに関する統計的ばらつきについては種々の検討が行われていますが、モデル化の誤差に関する不確定性の定量化が行われていません。この点に関する検討も同様に重要と考えます。
(7)確率の算出結果に関する評価:30年確率が低いことをもって安心情報とすべきではないなど、算出された確率の低さをどう考えるかについて若干とまどいを思わせる議論がなされていますが、このようなタイムスパンでは内陸活断層による地震発生確率が低い値になるのは当然予想されるところです。重要なのは、低い確率であってもいざ発生すると大きな影響を及ぼすという「低頻度巨大災害」として正面から受け止める議論を行うことと考えます。これは災害リスク評価の問題であり、防災論的に十分な討論の土俵に乗せるべきものです。本研究の結果の活用法についてこうした議論が必要であること、そのための基本資料として本研究を役立てるべきことなどをぜひ提言して頂きたいと思います。これにより、必要な分野が連携して社会の防災力向上に資するよう連携・協力する場が育つことが期待されます。
○むすび:以上、報告書に目を通した限りでの意見を申し述べました。場合によっては私の誤解も含むかも知れません。その場合はご叱正頂くようお願い致します。いずれにしても、冒頭に述べたように貴部会の活動は重要であり、その活動に敬意を表するものです。それだけに、この機会を率直な意見交換の場にするべきと考え、感じたままを述べさせて頂きました。もし表現が不適切な点があればそれは私の責任ですが、今後のこの分野の研究が真に社会的にも意義あるものとして発展することを願う熱意の現れとお考え頂ければ大変幸いです。
★意見35
氏名:小山 真人
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:全般
意見:
今回の報告書(ならびにこれまで地震調査委員会から公表された一連の報告書),およびそれらを公開して意見を広く求める姿勢を高く評価します.
しかしながら,今回の報告書や糸魚川−静岡構造線についての報告書において,活断層や地震痕などの地質学・考古学的調査で得られた事件や,地震の繰り返しモデルから要請される事件が,十分な文献史学的考察のないままに安易に歴史記録と対比されている点が気になっています.
今回の報告書中では,3.1.1節「南海トラフ沿いの巨大地震」の1233年3月24日および1498年7月9日(いずれもグレゴリオ暦)とされた事件が該当します.どこが問題なのかは,別意見としてそれぞれ指摘しました.なお,今回のような意見公募がなされなかったために意見をお伝えできませんでしたが,「糸魚川−静岡構造線活断層系の調査結果と評価について」の報告書の中で,762年の地震の可能性を述べておられる点についても同様の批判意見をもっています.
いずれも評価結果に大きな影響を及ぼすものではありませんが,こうした事件対比を続けていけば,結果に重大な影響を及ぼすケースが今後出てくることも考えられますので,歴史記録との対比についてはもう一段階上の慎重さが必要だと考えます.
★意見36
氏名:小山 真人
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1.1 南海トラフ沿いの巨大地震
意見:
1582年以前の地震の日付がグレゴリオ暦で表記されていますが,1582年の改暦以前に起きた地震や火山噴火の日付を,グレゴリオ暦のみで表記する国はほとんどありません.日本だけで行われている特異な慣習とも言えます.
巨大地震の揺れや津波は国境をやすやすと越えますから,今後の国際協力による事件同士の対比などの研究の進展をはかるために,1582年の改暦以前については世界標準であるユリウス暦表記に改めてほしいと思います.
なお,統計計算そのものには,天文学や測地学で使われているユリウス通日を用いた方が便利だし,日数計算上の誤りが生じにくいと思います.
この問題のより詳しい説明については以下のサイトをご覧下さい.
★意見37
氏名:小山 真人
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1.1 南海トラフ沿いの巨大地震
意見:
表3.1のdata set IIIに南海地震の日付として1233年3月24日(グレゴリオ暦)が採用されています.この日付のもとになった記述は和歌山県日高郡由良町に伝わる『蓮専寺記』の天福元年二月五日記事と思われますが,蓮専寺の開基は1485年であり,しかも『蓮専寺記』は1657年から書き始められた史料です(萩原ほか,1989,「続古地震」東大出版会,p.243).つまり,地震の日付から400年以上経過してから書かれた記述と思われますから,史実を本当に反映しているかどうかについては綿密な調査が必要です.また,死者が出た原因が地震によるものか暴風雨によるものかについて,記述内容から判別できません.
さらに,1233年当時に京都で書かれた日記『明月記』および『民経記』の天福元年二月五日条には平穏な日常が叙述されているだけであり,地震記事はありません.通常の南海トラフ地震が起きたのなら,京都で有感でないのは奇妙です.かりに1605年のような津波地震であったとしても,紀伊水道や大阪湾を襲ったであろう津波の風聞が京都に伝わらないのは考えにくいことです.
よって,現時点では,1233年3月24日を南海トラフ地震の日付として採用しないのが妥当と思われます(7月1-2日に東大地震研で開かれた史料地震学シンポジウムにおいて,石橋克彦氏からも本意見とほぼ同様の主張がなされました).
統計計算上の仮の日付として採用したいのなら,仮の日付と明記して1月1日などを使うのが無難だと思います.報告書の趣旨は十分理解していますが,3月24日のような具体的な日付がいったん採用されてしまうと,その日付そのものがひとり歩きをすることを憂えています.
★意見38
氏名:小山 真人
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1.1 南海トラフ沿いの巨大地震
意見:
表3.1のdata set I〜IIIに南海地震の日付として1498年7月9日(グレゴリオ暦)が採用されており,本文中には都司・上田(1997,合同学会予稿集)を根拠として「中国の上海付近に津波が伝わった」と書かれています.しかし,この「上海付近の津波」は津波ではなくセイシュであった可能性が高いという主張が宇津(1988,地震)と石橋(1998,合同学会予稿集)によってなされています.7月9日に正体不明の大規模地震が西南日本あるいは周辺地域のどこかで起きたことは事実と思われますが,それを南海地震として採用することについては現時点では慎重でありたいと思います.
★意見39
氏名:小山 真人
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.2.1.2 丹那断層
意見:
丹那断層の発掘調査で得られたイベントCが『続日本後紀』に記された841年の伊豆国地震であることは,イベントCの断層変位が神津島天上山火山灰(838年)の堆積直後に起きたことから,ほぼ確実と思われます.活断層の発掘調査結果と史料記述との対比がなされた好例とも言えるこの結果を採用せず,たんなる放射性炭素年代の暦年補正値をもとにした年代値(1035年)を採用している点について理解に苦しみます.
★意見40
氏名:薩谷 泰資
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
1.試案の全体,特に第1章について
この手法(地震に対する確率的考え方)の限界を早く認識されて,実際に役立つ新しい試案を出されることを期待する。
2.阪神大震災を経験した一人としては,大地震には前兆現象が必ず存在する。
3.私は気温,相対湿度,大気イオン密度の変動および空中電位変化等の組合せにより短期予測が可能だと考えます。(気象学会等で発表ずみ)
4.この手法の装置に関しては特許出願中である。
5. 参考資料として新聞記事を送付する。
(添付されていた参考資料は平成9年7月22日 日刊工業新聞「大地震 10日前の予知も可能」の記事のコピーでした。)
★意見41
氏名:塩原 俊郎
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:第1章 長期確率評価の考え方
意見:
主体となる計算手法においては地震発生の時期と発生間隔のバラツキを二つのパラメーターとして(又はこれとかわりうる断層の活動間隔、平均ずれ速度、時期、区間等から)種々な過程により確率を計算されている。パラメーターとしては単純なものが用いられ、数式としては複雑な計算がなされている。
このような方法を用いる時の問題点として次のような事項があげられる。
・過去のデーター不足と信頼性の欠如
・予測される地震が50年後、100年後でないと起らない。したがってそれからでないと手法の評価が出来ない
・次回の地震がおきてもパラメーターの更新にあまり役立たない
・この予測に関与した研究者はその結果の評価に関与できない(孫子の代でないと)
まして1000年に1回間のびした地震の予測は学問的にはともかく実用面からは意味がない。(1000年後に日本があるかすらわからない)
・地震がおきなくても他のいろいろな情報の集積ができるであろうが二つのパラメーターを主体とした計算方法にどうくりこむか(整合)が課題
・発生時期と間隔という二つの単純なパラメーターから引き出される本法に無理はないだろうか
人類にとって未知で、あまりにも複雑な仕組によっておこされる地震が過去に発生した時期と発生間隔の二つの最も単純なパラメーターで予測できるものだろうか。
★意見42
氏名:塩原 俊郎
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1.1 南海トラフ沿いの巨大地震
意見:
パラメーターとして5つのケースを想定して地震を追加又は削除したものについて評価を行っている。その結果は当然かなりの差があり、30年、50年、100年後の確率が示されている。表3.8および3.9に示された一部をグラフ上にプロットしてみた。次ページにこれを示す。(図は編集の都合により、省略しました。)
ここで気付くことは予測がその年次までの累積値となっていることである 地震がいつおきるかという事が大切であって、100年後までの間に95%地震がおきる,ではいみがない。
このグラフは上端が立ったままであるが、これは100年に近い点にプロットがないためで当然100%に向って漸近線をたどるであろうからゆるやかなS字カーブとなるものと思われる。S字カーブでは接線とX軸となす角のtanαが最大の点が危険度最大の点と考えられる。このグラフはプロットした点が少ないから確かな事は言いがたいがtanαがピークを示さず前後においても直線に近いことから危険度の高い点が明確でなく、各年次における危険度が変らないということになってしまう。
地震予知にとって最も危険度の高い日時と場所が示されることが必要ではなかろうか。
★意見43
氏名:武村 雅之
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:
意見:
長期的な地震発生確率の評価についての報告書を拝見いたしました。大変意欲的な試みであり、現状の学問レベルでの一定の到達点を示されていること高く評価いたします。
地震発生確率評価は言うまでもなく、来るべき地震に対し、如何に効率的に震災予防対策を施すか、また大地震が近づきつつあると判定された地域の住民の防災意識の向上を如何に高めるかという目的に利用されるべきものであります。
その意味では、結果の発表の仕方については、その効果を最大限に発揮できるように慎重に考える必要があると思います。つまり、高確率で地震発生が予測された地域の行政や住民がいかなる対策を立てれば良いか(逆に低確率の場合はどうか)、大げさに言えば、行政や住民の震災予防への行動規範のようなものを先に準備しておく必要があるのではないでしょうか。
我々の身近なところでは、同種のものとして天気予報がありますが、降水確率を聞いた時、我々は傘という雨を防ぐ手段をもっているから、情報に興味をもちまた役立てることができるのだと思います。
もし仮に、国は地震発生確率、あとは地域の行政や住民まかせということであれば、適切な傘を持たない行政や住民には地震に対する無力感やあきらめが広がってしまうだけというおそれもあり、それこそ震災予防にとって由々しき事態であると思います。予想される地震が発生した時にいかなる揺れが来て、どのような被害が予想されるか、それに対しどのような対策をたてるかということも視野にいれた情報の提供が望まれると思います。現状、地方自治体毎にバラバラに立てられている地域防災計画の見直しや地震発生確率に関する情報とのリンク、さらに住民への正確な知識や情報の伝達等、多くの課題を解決する必要があると思います。
★意見44
氏名:早川 由紀夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:全般
意見:
地震の長期確率をこのように評価しようとする試みに賛同します.これをさらに推進することを望みます.
★意見45
氏名:早川 由紀夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.1 プレート間地震
意見:
試案では地震の発生月日を1582年以前もグレゴリオ暦で表記しています.1582年10月に(人為的に)行われたユリウス暦からグレゴリオ暦への改暦のために西洋史ではそこに10日間の欠落(不連続)が存在します.1582年以前もグレゴリオ暦で表記することでこの欠落(不連続)は回避できるので,試案でそうなさったことは理解可能です.しかし1582年以前の月日は,国際的には,ユリウス暦で表記するのが慣例ですから,グレゴリオ暦を用いたという断り書きをどこかに入れるのがよいと思います.
また,西暦には0年がありません.西暦1年の前の年は紀元前1年です.ですから,BCとAD
をまたいでいる年数を平均するときには注意が必要です.具体的に言うと表3.16などで0.5年の計算違いが発生しています.(議論には影響ありませんが,西暦には0年がないことが看過されていることが問題だと思いました)
天文学の分野で用いられているユリウス通日(Julian Day)を用いれば,上のような煩雑を簡単に回避できるでしょう.
グレゴリオ暦・ユリウス暦・ユリウス通日の換算には以下のサイトが役に立つかもしれません.
★意見46
氏名:早川 由紀夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:3.2 陸域の活断層で発生する地震
意見:
放射性炭素年代をすべて暦年代に換算していることを支持します.丹那断層で明記したように,阿寺断層・跡津川断層・長野盆地西縁断層でも放射性炭素年代を暦年代に換算したことを明記するといいと思います.
★意見47
氏名:早川 由紀夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.5 長期確率評価によって得られる確率の数値の理解に向けて
意見:
試案に書かれた統計学的を私はほとんど理解できていませんが,かなり高級な処理を行っていることはわかります.しかし,試案の54ページに書かれているように,統計処理に使用したデータ自体の精度に重大な問題があるように私は感じます.せっかくの高級な統計処理がデータ精度の悪さのために生きていないように思います.
ですから高級な統計処理だけで満足せずに,データの精度を向上する努力を緊急に積み重ねることが必要だと思います.歴史時代の地震に関しては,地震史料の再検討が最優先課題となりましょう.たとえば1233年3月24日の地震が南海地震かもしれないという試案で述べられている仮説はたいへん興味深いものです.緊急に検証すべき重要課題といえましょう.
★意見48
氏名:早川 由紀夫
立場:地震及び関連分野の研究者、技術者
該当個所:4.5 長期確率評価によって得られる確率の数値の理解に向けて
意見:
試案の54ページ「判断への利用」に,有意水準5%あるいは1%にこだわらずにもっと小さくても注意すべきだということが書かれていますが,賛成です.
多数回試行される事象なら5%あるいは1%あたりが経済的にペイするかどうかなどの基準になるでしょうが,地震の場合は,ヒトの一生に一回起こるか起こらないかのまれな(そしていったん起こるときわめて破壊的な)事象を取り扱います.1/1000や1/10000の確率が議論されるのがむしろ当然だと思います.
★意見49
氏名:井澗 陽平
立場:一般住民、その他
該当個所:主に4.2確率の数値評価のまとめ
意見:
地震の長期的な発生可能性を、確率という客観的な数字で評価しようという試みは大変すばらしいことだと思います。
45ページに書いてあることに、「判断が誤った場合に重要な影響がある案件は有意水準を小さな値を取って、極端な場合は可能性が0でない以上対策を取っておくという判断もある」ということがありました。1930年の北伊豆地震の時など、かなり低い確率の時にも発生することが考えられるからでしょう。
しかし、可能性が0でない以上対策を取るというのであれば、この評価手法の結果に一般住民はどの程度利用できるのでしょうか。この手法では過去に繰り返し地震があった所のデータを用いるので、当然いつかはまたその場所で地震が起こることでしょう。ということは可能性が0ということはありえない。
また防災上必要なのは、判断が誤った場合に重要な影響が出るほどの地震ではないのでしょうか。判断が誤ってもたいして被害が出ないならば、あまり防災的な対策は必要ではないでしょう。
このままの試案では、一般住民は確率が低ければ安全とみなすでしょう。それに対する対策(例えば警報を出すなど)が必要だと思います。