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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 警固断層帯(南東部)における重点的な調査観測

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)秋号)

地震調査研究成果の普及展開方策に関する調査について

1.はじめに

 警固断層帯北西部では、2005年に玄界灘において福岡県西方沖の地震(マグニチュード7.0)が発生し、福岡市街地を通過する同断層帯南東部における被害地震の発生が懸念されています。しかしながら、同断層帯南東部については、地下深部の断層形状や平均的なずれの速度が不明であり、陸域と博多湾とで断層の活動時期・活動回数に違いが見られるほか、断層南東端の位置についてもよくわかっていません。
 このため、これらの課題を踏まえて警固断層帯の基本情報の高度化と強震動予測の高精度化の達成を目的として、文部科学省の平成23−25年度科学技術基礎調査等委託事業として「警固断層帯(南東部)における重点的な調査観測」を九州大学が受託し、産業技術総合研究所や防災科学技術研究所、京都大学などと連携して、地形・地質学的な調査や地震・重力探査などの各種調査観測を実施しました。

2.警固断層帯(南東部)の位置・形状と活動履歴

 警固断層帯の陸上域においては、空中写真判読および現地踏査等から、断層のトレースの走向や分岐・併走など、詳細な位置・形状を明らかにしました。図1に警固断層帯(南東部)の断層トレースを重力異常分布と重ねて示します。断層トレースと重力異常には良い対応が見られ、地形学的調査および重力異常の終端位置から、警固断層の南東端は九州自動車道の筑紫野インターチェンジ付近であると判断しました。一方、これらの調査結果や地中レーダー探査およびボーリング調査の結果に基づき、トレンチ調査を3地点において実施しましたが、断層が露出しなかったため、活動履歴については新たな知見は得られませんでした(図2)。しかし、断層が通過する可能性のある範囲を限定することができ、今後の調査を計画する上で有用な情報が得られました。

図1

図1 警固断層帯(南東部)の位置・形状と重力異常分布
左から、地質図、ブーゲー異常の上方接続残差図、鉛直一次微分図、水平一次微分図。
図中の赤線が、地形・地質学的調査によって推定された断層のトレース。
断層トレースに沿って、重力異常が認められる。

図2

図2 九大筑紫キャンパス(春日市)におけるトレンチ調査
A〜Dいずれのトレンチでも断層は確認されなかったが、
断層はDトレンチのごく近傍(東側ないし西側)である
可能性が高いと推定される。

 警固断層帯の海域においては、音波探査とジオスライサー調査を実施し、博多湾内における警固断層主部の位置と活動履歴を調査しました。その結果、音響基盤上面(約8,900年前)以降の断層活動イベント回数は、博多湾中央部の北西側の地点(HKA1地点)では少なくとも2回、南東側の地点(HKA2地点)では1回であることが確認されました(図3)。このことは、博多湾中央部を境に、その北西側と南東側で活動履歴が異なることを意味しており、博多湾中央部に断層のセグメント境界が存在する可能性を示唆しています。また、博多湾東部において、福岡県西方沖の地震の主余震域から東へオフセットした余震域で、活断層の存在を確認しました。

図3

図3 海域(博多湾内)と陸域における警固断層帯の活動履歴の比較
右図が、本調査による博多湾内の活動履歴。
HKA1とHKA2は、それぞれ博多湾中央部の北西側と南東側の地点であり、
両地点で活動度が異なる(北西側の活動度が高い)。
また、HIUB1は、博多湾東部の福岡県西方沖地震の東部余震域に位置する。

3.警固断層帯(南東部)およびその周辺の地下構造

 警固断層帯およびその周辺の地下構造については、自然地震観測、人工地震探査および重力調査を実施し、断層帯の地下構造と周辺域の地殻不均質構造について、従来よりも高い空間分解能で明らかにすることができました。特に、人工地震探査では、警固断層が鉛直に近い高傾斜であり(図4)、この地域の地震発生層(深さ~17km)まで達することが反射パターンから推定されました。これらの特徴は、警固断層の三次元的形状の推定に役立てられました。また、重力調査の結果は、上述の断層帯南東端の決定に寄与し、ボーリングデータベースによる地盤情報と併せて、表層地盤モデルの作成に貢献しました。さらに、微動アレイ探査と短期および長期微動観測を断層帯周辺の平野部で実施し、強震動予測に必要な三次元地盤構造モデルの構築とその高度化を行いました。

図4

図4 人工地震探査による警固断層帯(南東部)の地下構造
太宰府市付近における北東−南西方向の断面図。赤破線が推定される警固断層。

4.警固断層帯(南東部)の震源断層モデル

 本調査観測で推定された断層の位置や三次元的形状、変位量分布などの情報に基づいて、警固断層帯(南東部)で想定される地震の震源断層モデルを作成し、三次元地盤構造モデルを用いて強震動シミュレーションと構造物震害シミュレーションを実施しました。その結果、震源直上では大きな最大速度・最大加速度が推定され、大きな被害が発生する可能性が高いことが明らかになりました。

5.おわりに

 以上のように、本調査観測によって、警固断層帯の基本情報と地下構造について新たな知見を得ることができ、それに基づき強震動予測の高度化が図られました。しかしながら、陸域の活動履歴についてはなおデータが不足しており、断層帯北西部と南東部のセグメント境界についても活動履歴に基づく地質学的な証拠と福岡県西方沖の地震の本震・余震活動や震源断層モデルなどに基づく地震学的な証拠が整合していません。これらの課題の解決のために、今後もさらなる調査研究が望まれます。
 なお、本調査観測の実施内容と成果の詳細については、「警固断層帯(南東部)における重点的な調査観測」成果報告書をご覧下さい。
https://www.jishin.go.jp/main/chousakenkyuu/kego_juten/index.htm

清水 洋(しみず・ひろし)

著者の写真

九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター長。
専門は火山物理学・地震学。 1985年東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修了、理学博士。
九州大学理学部助手、助教授を経て教授。2004年より現職。

(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)秋号)

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