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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 南海トラフ地震・津波観測監視システムの構築と今後の展望
調査研究プロジェクト 南海トラフ地震・津波観測監視システムの構築と今後の展望

DONET 背景

 国立研究法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) で は、地震・津波観測監視システム(Dense Oceanfl oor Network system for Earthquakes and Tsunamis; DONET)を南海トラフの熊野灘に設置し、2011 年8 月より全20 観測点での観測を開始しました。南海トラフ 域では、100 〜200 年間隔で繰り返しマグニチュード (M)8 クラスの巨大地震が発生しており、昭和と安政の過 去2 回においては、紀伊半島から東へ地震が発生した後、 紀伊水道沖から西へ地震が発生したことを受け、まず熊野 灘にDONET システム(DONET1)を構築しました。現在、 その西側の紀伊水道沖にDONET2 を構築中です(図1)。


図1

図1 DONET 配置図。赤と青はそれぞれDONET1 とDONET2、丸印と逆三角印はそれぞれノードと観測装置の位置を示す。
カラーで水深の違いを示している。図中の四角は図3 の表示エリアを示す。

システム概要

 DONET のコンセプトは、長期間の観測に備えて信頼性 と冗長性があり、メンテナンスができること、研究の進捗 を考慮して新たな観測機器を取り付けられるなどの拡張性 があること、海底において短周期の信号から超長周期の信 号まで、また、微弱な信号から強い信号まで記録できるこ とです。基幹ケーブルには商用ケーブルと同様のものを用 い、ケーブルシステムの両端に陸上設備を配して右回りと 左回りのどちらでも給電とデータ受信を可能にしたシステム として信頼性と冗長性を確保しました。DONET 観測点は 陸上局と拡張用分岐装置(ノード)経由で接続されます(図 2)。ノードと観測点は無人探査機(ROV)を用いて設置・ 接続することとし、メンテナンス性と拡張性を確保しました。 現在、各ノードから4 つの観測点に接続されており、更に 4 つの観測点の増設が可能です。観測点は、3 成分の強 震計と広帯域地震計から成る地動センサーシステムと、津 波や潮汐等を捉える水晶水圧計、ハイドロフォンのほか、 微差圧計、高精度温度計から成る圧力センサーシステムか ら構成されています。強震計は、微小地震を記録できる設 定のものと、特に強い震動も飽和せずに観測可能な設定の ものの2 種類を用意しています。三重県尾鷲市に古江陸 上局(海底機器に電力供給し、データ受信・中間処理・伝 送する施設)を設置し、DONET1 全てのデータはここか らJAMSTEC 横浜研究所に即時伝送されています。
 構築中のDONET2 の基本機器構成も共通ですが、ケー ブルが長くなり、接続観測点数も多いため、DONET1 より も高電圧のシステムとして開発しました。このDONET2 ケー ブルには29 観測点が接続される予定で、徳島県に海陽町ま ぜのおか陸上局、高知県に室戸ジオパーク陸上局を設置し、 これら2 局からJAMSTEC 横浜研究所にデータ伝送してい ます。またDONET1 にも2 点観測点を追加する予定です。

図2

図2 DONET の模式図。観測点からのデータは、拡張用分岐装置、
終端装置、給電岐路ケーブル、基幹ケーブルを通って陸上局に即時伝送される。

これまでの成果

(1)早期検知
 DONET1 の観測点は、熊野灘の水深2000m 程度の 前弧堆積盆地からトラフ軸近傍まで配置されており、海域 で発生する地震や津波の早期検知が期待できます。その ため、DONET の強震計、広帯域地震計、水晶水圧計の 記録を古江陸上局から国立研究開発法人防災科学技術研 究所が管理するEarthLAN と呼ばれる地震ネットワークに データを即時伝送しています。気象庁はEarthLAN 経由でDONET データを受信し、緊急地震速報や津波警報へ の利用を開始しました。
 南海トラフ沿岸の市町村では、津波により繰り返し甚大 な被害がもたらされてきました。JAMSTEC では和歌山県、 あるいは中部電力と尾鷲市との共同研究により、DONET の水晶水圧計を用いた即時津波予測システムを構築しまし た。津波は浅海に移動するにつれて、あるいは、湾口部 などで増幅します。これら地形の情報は事前に把握できる ことから、多くの断層モデルを南海トラフ沿いに設定し、 DONET 観測点や対象沿岸市町の津波波形との振幅比較か らDONET で観測した水晶水圧計の振幅値に対して即時的 に対象市町の津波高や到達時刻を予測します。このシステ ムを和歌山県庁、中部電力浜岡原子力研究所、尾鷲市防 災センターに実装し、システム稼働の安定性を検証中です。

(2)科学的成果
 DONET1 を設置している熊野灘では、M1 − 2 の微小 地震が定常的に毎月数百個程度発生しています(図3)。

図3

図3 DONETで検知した震源分布(2011年8月〜2015年4月)。
丸印と三角印はそれぞれ震源位置とDONET 観測点を示す。

これらの震源のほとんどは、2004 年に発生したM7 クラ スの紀伊半島沖地震と同じ海域に分布しており、同地震の 余震と考えられます。震源分布はプレートの上盤側から下 盤側の沈み込むフィリピン海プレートまで広がっています。 地震活動は、東北地方太平洋沖地震発生直後活発化しまし たが、半年程度で安定しました。しかし、2013 年から静 穏化が始まりました。JAMSTEC ではそれらの状況を継 続的に監視しています。
 この静穏化とほぼタイミングを同じくして、水晶水圧計 に上下方向の地殻変動が観測されました。この地殻変動を 検知した観測点は4 観測点に限定され、非常に狭い範囲 の変動であることがわかりました。また、観測点の隆起と 沈降のパターンから、プレート境界の変動ではなく、分岐 断層に沿った逆断層方向に動いたゆっくりすべりであること もわかりました。断層面の固着がはがれると低周波地震の 活動度が上がることを示したシミュレーション研究もあり、 広帯域な成分をもつ地震の観測も進んでいます。
 これまで、2010 年12 月の小笠原諸島東方沖の地震、 2011 年3 月の東北地方太平洋沖地震、2014 年4 月 のチリ・イキケ地震等による津波も検知しています。東北 地方太平洋沖地震では、20 〜30cm の津波を観測しまし た。2010 年の小笠原諸島東方沖の地震、2014 年のチリ・ イキケ地震による津波は、それぞれ1cm かそれ以下の微 弱な津波でした。チリ・イキケ地震など遠地からの津波は、 分散の影響を受けて長時間の津波が観測されています。

今後の展望

 日本周辺の巨大地震は主に海域で発生します。M7 を超 えると地震に伴い津波が発生する可能性もあります。地震 や津波を早期検知することはもちろんですが、一連の地震 活動の次に何が起こるかを知ることは防災上も科学的にも 重要です。巨大地震の破壊域、余効すべりの範囲や伝搬 の広がりといった情報は、その後の地震発生パターンを推 測するためには重要になるのです。DONET で観測され得 る東南海エリアでの地震後の余効すべりが南海エリアの地 震発生を誘発する現象が考えられますが、それらのデータ からそれらの発生間隔を予測する手法開発も進められてい ます。特に、四国沖から日向灘の海域では、日向灘海域 で発生したM7 クラスの地震が南海エリアの地震を誘発さ せ得ることがシミュレーション研究からわかってきました。 その誘発地震の発生は四国沖の固着の状態に依存します。 固着の状態を把握し連動発生の可能性を知るためには、海 域の観測ネットワークが不可欠です。
 巨大地震の連動発生をモニターするためには、前述の余 効すべり、つまり、地殻変動の正確な把握が不可欠ですが、 DONET はこれらの連続かつ即時的な観測を可能にします。 日本列島を取り巻く海底下を震源として発生する巨大地震の 発生リスクを評価するためには、地震の準備過程から地震時、 地震後の余効変動まで、様々な時空間スケールの海底での 地殻変動を高精度で観測する必要があります。沈み込むプ レート上には海山もあり、沈み込みによる地殻変動は不均質 なばらつきも示すでしょう。特に数年にわたって変化するよう なきわめてゆっくりとした地殻変動を検知するためには、水 圧計自体のドリフト量の把握も必要です。上記の連動発生す る地震間の発生観測を予測するようなケースでは、これらの 情報の即時性が不可欠です。これらの情報を整理して、地 震発生のリスク評価につなげることができると考えています。


高橋 成実(たかはし・なるみ)

著者の写真

国立研究開発法人海洋研究開発機構地震津波海域 観測研究開発センター研究開発センター長代理。 理学博士。1995 年、千葉大学大学院自然科学 研究科環境科学専攻博士課程修了。東京大学海洋 研究所中核的研究機関研究員、海洋科学技術セン ター深海研究部研究員、米国コロンビア大学ラモン ト・ドハティ地球観測研究所在外研究員等を経て、 2005 年より海洋研究開発機構に所属。DONET の開発のほか、地球内部ダイナミクスの研究に従事。 2014 年より現職。


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