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調査研究レポート S-netでとらえられた地震と津波 ─国立研究開発法人 防災科学技術研究所─

● はじめに

 2016年11月22日5時59分頃に福島県沖でM7.4の地震(以降、福島県沖の地震)が発生しました。防災科学技術研究所(以降、防災科研)では2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を契機に、地震および津波をより早く確実にとらえるために、東日本の太平洋沖合に世界でも類を見ない大規模な日本海溝海底地震津波観測網(S-net;詳しくは地震本部ニュース2014年春号をご覧ください)を構築してきました。本稿では、S-netの真下で発生した福島県沖の地震について紹介します。

● 福島県沖の地震のメカニズム

 この地震は、福島県沖の深さ約12kmで発生し、福島県、茨城県、および栃木県で最大震度5弱の強い揺れが観測され、負傷者20名、住家一部損壊7棟の被害があり、電力・ガス・水道等のライフラインにおいて地震による影響が生じました。この地震では、2011年東北地方太平洋沖地震以降日本周辺で初めて1mを超す津波が発生し、福島県いわき市に30分後、宮城県石巻市に44分後に津波が到達しました。また、宮城県の仙台港では144cmの津波が観測され、砂押川を津波が遡上したことが確認されています。この地震では、北海道から和歌山県にかけての太平洋沿岸及び伊豆・小笠原諸島で津波が観測されました。
 今回の地震は福島県の約50kmの沖合で発生したため、従来であれば陸域に展開されている観測網(Hi-netやK-NET等)でしか観測が出来ず、震源の西側に偏り、また、距離的にも離れた観測地点におけるデータのみで解析せざるを得ない状況でした。一般的に、地震が発生した場所に近いところで観測されたデータを用いて解析するほど精度が高く、S-netが敷設されたことにより、真上はもちろんのこと海域から陸域にかけて満遍なく好条件な観測データ(図1)が得られるようになりました。
 福島県沖の地震は海域で発生しましたが、2011年東北地方太平洋沖地震のような太平洋プレート境界の地震ではなく上盤の陸側の地殻内で起きた地震であり、S-netとHi-netを統合して詳細に解析して得られた地震活動分布(図2)から震源は南東傾斜の断層面に沿って分布していることがわかりました。余震は、本震の震央に対して南西方向に約30km の範囲で広がり、深さ30km 以浅に集中していました。本震のF-netのモーメントテンソル解析では、セントロイド深さが11kmと求められ、北西-南東伸張の正断層型のメカニズム解が推定されています。2011年東北地方太平洋沖地震の発生以降、太平洋プレート境界面より浅い陸側地殻内でこのような正断層型の地震が多数発生してきました。今回の地震もそのような地震の一つと考えられますが、その中でも規模の大きめの地震でした。また、地震に伴うエネルギーは断層の全域で一様に放射されたのではなく、地震の始まった場所の南西に15kmほど離れた浅い領域から集中的に放射されたことも分かりました(図2)。

図1 福島県沖の地震において、海域(S-net、青)と陸域(K-NET・KiK-net、赤)で観測された加速度波形(上下動成分を震央距離で表示)。
図1 福島県沖の地震において、海域(S-net、青)と陸域(K-NET・KiK-net、赤)で観測された加速度波形(上下動成分を震央距離で表示)。


図2 福島県沖の地震におけるすべり分布の地図投影および余震の空間分布。また、左図にはS-net・K-NET・Hi-net/KiK-net・F-netの観測点をシンボルで示しています。
図2 福島県沖の地震におけるすべり分布の地図投影および余震の空間分布。また、左図にはS-net・K-NET・Hi-net/KiK-net・F-netの観測点をシンボルで示しています。

● S-netで観測された地震・津波

 S-netの水圧計によってとらえられた津波の高さを可視化してリアルタイムで表示する津波モニタによる地震発生の15分毎の画像(図3上)をみると、福島県沖で発生した津波が時間とともに伝播する様子がはっきりと分かります。さらに詳しく津波の伝播を見てみると(図3下)、大きな津波は2回あり、第一波到来後約40~60分後に明瞭な後続波が到来し、地点によっては第一波と同程度以上の振幅が観測されています。シミュレーションの結果から、この後続波は福島県沿岸に到来した第一波が反射したものが遅れて伝わってきたものであることが分かりました。このように、津波の伝播が広域かつ稠密にとらえられたのは世界で初めてのことです。
  震源付近の海域では重力加速度(980gal)を超える大きな揺れが観測されました。地震計により観測された地面の揺れを可視化してリアルタイムで表示する強震モニタ(図4)を見ると、S-netが揺れの始まりをとらえ、その後、海から陸に揺れが広がっていく様子が、振り切れることなく面的にとらえられました。S-netで観測された震源付近のいくつかの海域における加速度波形には、他の地点では見られないスパイク状の波形が観測されています。これまでに震源直上の海域で強震動が観測された事例は少なく、今後、海域地盤の非線形性を含めた解釈が非常に重要になると考えられます。

図3 (上)S-netの水圧計によって捉えられた津波の高さを可視化してリアルタイムで表示する津波モニタによる地震発生の15分毎の画像。赤は海面が高まったことを、青は低くなったことを示しています。動画はhttp://www.hinet.bosai.go.jp/topics/off-fukushima161122/をご覧ください。(下)S-netで観測された福島県沖の地震に伴う津波の波形。第一波及び後続波の大まかな到来を太灰色線で示しています。
図3 (上)S-netの水圧計によって捉えられた津波の高さを可視化してリアルタイムで表示する津波モニタによる地震発生の15分毎の画像。赤は海面が高まったことを、青は低くなったことを示しています。
動画は http://www.hinet.bosai.go.jp/topics/off-fukushima161122/をご覧ください。
(下)S-netで観測された福島県沖の地震に伴う津波の波形。第一波及び後続波の大まかな到来を太灰色線で示しています。


図4 福島県沖の地震の陸域(K-NET・KiK-net)と海域(S-net)の強震動データ(リアルタイム震度)を統合した揺れの伝播の様子。動画は図3と同じURLをご覧ください。
図4 福島県沖の地震の陸域(K-NET・KiK-net)と海域(S-net)の強震動データ(リアルタイム震度)を統合した揺れの伝播の様子。動画は図3と同じURLをご覧ください。

● おわりに

 福島県沖の地震の発生に伴い、防災科研の日本海溝海底地震津波観測網(S-net)では強震動および水圧変動(津波)が観測されました。Hi-netとS-netの統合処理により海域の震源決定精度が向上し、F-netのモーメントテンソル解と共に地震直後の早い段階で、震源断層面が求められました。また、K-NET、KiK-net、S-netの統合処理により、海から陸に至る強震動が面的に観測されました。さらに、S-netの水圧変動により、津波の面的伝播が詳細にとらえられました。
 従来は陸域にしか観測網がなかったため海域で発生した地震を詳細にとらえることは困難でしたが、S-netや地震・津波観測監視システム(DONET)など海域における観測が充実することで、2011年東北地方太平洋沖地震のような海溝型巨大地震発生時にも正確なデータを地震発生直後に得ることが出来るようになり、緊急地震速報や津波警報・注意報などの精度や迅速性が高まることが期待されます。また、現在の津波警報・注意報は沿岸における予想される津波の高さと到達予想時刻が対象ですが、防災科研では津波がどこまで遡上(陸をかけのぼること)するかを即時予測する手法の開発をしており(詳しくは地震本部ニュース2015年冬号をご覧ください)、将来的にはこのような情報を活かすことにより迅速な避難につながることを願って研究を進めております。


謝辞:本研究の一部は、内閣府CSTIによる戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」によって実施されました。

青井 真(あおい・しん)

青井 真(あおい・しん) 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 地震津波火山ネットワークセンター長、レジリエント防災・減災研究推進センター 研究統括(戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の研究開発課題「津波被害軽減のための基盤的研究」研究責任者)、京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。専門は、地震観測・強震動地震学・数値シミュレーション。1996 年防災科学技術研究所に入所、地震観測網運用の統括、地震や津波に関するリアルタイム防災情報の研究、波動伝播に基づく地震動の大規模数値計算手法の開発に従事。


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