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調査研究レポート 南海トラフでの海底・孔内観測網による海底地殻変動モニタリング ─国立研究開発法人海洋研究開発機構─

● はじめに

 近い将来、地震・津波災害を引き起こす巨大地震の発生が想定される南海トラフ海底の現在の活動状況の把握を目的に、海洋研究開発機構は、東南海地震震源域である熊野灘を最初として、海底ケーブルを用いた地震・津波のリアルタイム海底観測網(DONET)の開発と展開を行ってきました。また、同じ海域では、国際深海科学掘削計画(IODP)において、南海トラフの地震発生メカニズムの解明を目標とした科学掘削が行われ、海洋研究開発機構を中心に掘削孔を利用した長期孔内観測システムの開発・設置も進められてきました。IODPで設置された長期孔内観測システムをDONETに接続することによって、海底では高精度な観測がまだ難しい海底下の地殻変動を連続的に観測できるようになってきています。

● 東南海地震震源域に展開された海底・孔内観測網

 私たちは2004年末のスマトラ沖の大津波による災害を知り、近い将来に似た災害の発生が想定される南海トラフの「今」の把握の必要性を感じました。そこで、2006年より東南海地震の震源域をターゲットに海底ケーブルをつかった地震・津波の海底観測網(DONET)の開発を開始しました。これは、震源域の海底に多点展開した地震計・水圧計によって地震とそれに伴う津波の発生を精密に把握しようというものです。DONETでは、商用海底ケーブル通信網に要求されるのと同様の高い信頼性を持つ基幹ケーブルに、観測センサーを無人潜水艇などによる海底作業で接続し、観測網を展開する方式のシステムとしています。これによって、長期にわたる運用において陸上の観測網と同様に、故障した観測センサーの修理や更新などが行えるようになっています。また、観測センサーは海溝型巨大地震を含む広範な地殻活動の観測を行うために、地震計・水圧計ともに広帯域・高ダイナミックレンジな組み合わせの複数のセンサーから構成しています。この地震計を無人潜水艇によって地中に埋設することで、海底面の動きをできるだけ忠実に観測できるよう配慮をしたものになっています。
 DONETは2010年に最初の観測点が稼働を開始し、2011年夏には20点のDONET1観測網の運用が開始しています。2016年には、南海地震の震源域がターゲットのDONET2も運用を開始、これまでにない規模の高密度・高感度な海底観測網が稼働しています。データは、リアルタイムで気象庁に送られ、緊急地震速報や、津波警報などの防災情報に役立てられるとともに、微小地震活動や、低周波微動、超低周波地震活動の観測によって、海底下の地震活動を把握することが可能となりました。
 ただ、現在のDONET海底観測網では、柔らかい堆積物の広がる海底でのセンサー設置のため、大地震の間に起こっている可能性のあるゆっくりとした断層の動きなど、すなわち地殻変動をとらえることが困難です。
 そのため、DONETの開発と同時期に開始されたIODPで運用されている地球深部探査船「ちきゅう」で掘削した孔を利用し、海底下深くの硬い地層中で地震・地殻変動を観測することを計画しました。海洋研究開発機構が中心となって、海底下500-1000m の掘削孔内で歪・間隙水圧・地震等の観測が行える「長期孔内観測システム」の開発を行い、これまでに2基の長期孔内観測システムを東南海地震の震源域沖合の掘削孔(C0002, C0010)に設置しました(図1)。長期孔内観測システムは、海底観測点と同様に無人潜水艇によってDONETに接続することができ(図2)、リアルタイムで連続的長期観測が行えるようになっています。高密度に多点展開されたDONETの海底地震・津波観測網に、地殻変動を観測することができる長期孔内観測システムを統合することで、震源域の「今」を把握しようとしたのです。

図1 東南海地震震源域の熊野灘に展開されたDONET1(赤線)と長期孔内観測システム(C0002, C0010紫三角)の位置。赤丸は2016/4/1三重県南東沖地震と余震の震源。
図1 東南海地震震源域の熊野灘に展開されたDONET1(赤線)と長期孔内観測システム(C0002, C0010紫三角)の位置。赤丸は2016/4/1三重県南東沖地震と余震の震源。


図2 DONETに接続された長期孔内観測システム(C0010)。
図2 DONETに接続された長期孔内観測システム(C0010)。

● 2016/4/1 三重県南東沖地震の海底・孔内観測

 2基目の長期孔内観測システム(C0010)の設置を行おうとしていた2016年4月1日に、システムを設置する掘削孔の約20km陸側の海底下でマグニチュード6.5の地震(三重県南東沖地震)が発生しました。東南海地震の震源域でこのような地震が発生することはまれであったため、システム設置前から孔内に設置してあった簡易型の孔内観測装置を回収し、すでにDONETに接続されて稼働していたシステム(C0002)から得られたデータ、また、DONET海底観測網からのデータを集めて総合的な解析を行いました。
 DONETの稠密な海底地震観測データからは、前震・本震・余震の精密な深さが得られ、そこからこの地震がプレート境界面に位置していることが分かりました。また、今回の地震では地殻変動に関するデータも海底観測網から得られました。孔内観測から得られた間隙水圧記録(図3)から、地震に伴う地殻変動量(1μ歪未満で圧縮)が定量的に把握され、さらに、DONET海底水圧計から得られた海底地殻変動とそれに伴う1cm程度の津波を総合的にモデリングすることによって、この地震がこの震源域でまれな「プレート境界型」地震であることが明らかとなりました(参考文献)。
 さらに、孔内観測では、地震後に地殻変動が継続する様子もとらえられており(図3)、海底では現在のところ困難な、ゆっくりとした地殻変動の観測が孔内では可能であることが実証されました。このことは、来る南海トラフでの大地震に向けてどのような地殻変動が進行していくのか、また、大地震の連動が一体どのようなメカニズムで起こるのかを考えるカギとなる観測が海域で実際に可能であるということで非常に大きな意味があると考えています。

図3 長期孔内観測システム(C0002)がとらえた間隙水圧による、三重県南東沖地震とその後の地殻変動。
図3 長期孔内観測システム(C0002)がとらえた間隙水圧による、三重県南東沖地震とその後の地殻変動。

● おわりに

 海洋研究開発機構では、南海トラフに海底・孔内の観測網を展開し海底での地震と地殻変動の把握実現を目指して取り組んできました。今回観測された2016/4/1の地震・その後と同様なプロセスは、南海トラフの広い領域で起こりうるものと考えられます。したがって、今後、東南海地震の震源域だけではなく現在DONETが展開されている地域を含めた南海トラフの広い領域で連続的に海底地殻変動のモニタリングができる技術をさらに磨き・展開をしていきたいと考えています。

参考文献:

L. M. Wallace, E. Araki, D. Saffer, X. Wang, A. Roesner, A. Kopf, A. Nakanishi, W. Power, R. Kobayashi, C. Kinoshita, S. Toczko, T. Kimura, Y. Machida, S. Carr, Near-field observations of an offshore Mw 6.0 earthquake from an integrated seafloor and subseafloor monitoring network at the Nankai Trough, southwest Japan. J. Geophys. Res. Solid Earth 121, 8338–8351 (2016).

荒木 英一郎(あらき・えいいちろう)

荒木 英一郎(あらき・えいいちろう) 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター) 海底観測技術開発グループ グループリーダー代理
2000年 東京大学大学院理学系研究科 博士後期課程修了 博士(理学)/海洋科学技術センター 深海研究部 (2005年~海洋研究開発機構)
海洋研究開発機構で、海底での地震・地殻変動観測システムの開発と、海底地震観測データの解析に携わる。DONETの開発では、海底観測センサーと海底への設置手法の開発、IODP南海トラフ地震発生帯掘削計画では、長期孔内観測システムの開発を実施。


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